(注)本シリーズ(1)~(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf
4.残された問題その2:不透明な石油の需給と価格
一方現在以上の増産が必要となった事態でもそれに対応出来るのはサウジアラビア(及びUAE、クウェイト)だけであることも間違いない。イランなどは現在の生産水準が目一杯であり、欧米の経済制裁のため投資が停滞しており生産量は減少していることを石油省副大臣自ら認めているほどである 。
さらにイランを巡ってはEUが同国からの石油の輸入禁止に動いており、また米国はイラン中央銀行と取引する金融機関を米国の金融システムから締め出すと決めた。実質的なイラン原油の輸入禁止措置である。これにより日本、韓国などもイラン原油の輸入が不可能になる。日本にとってイラン原油に代わる当面の調達先はサウジアラビア、UAEなどであり、天然ガス供給先としてのカタールと言うことになる。玄葉外相が1月5日からこれら各国を歴訪したのはとりもなおさずエネルギーの安定確保のためである。韓国大統領も今月初めにサウジアラビア、UAE及びカタールの中東産油(ガス)国を訪問し善後策を講じる腹積もりである。
浮き足立つ日韓などの消費国に対してサウジアラビアのナイミ石油相は、自国が十分な石油生産余力を有しておりいつでも必要な量を市場に供給する、と大見得を切っている 。またリビアやイラクの生産も回復しており、石油の供給不安はなさそうだ、という見方ができる。その一方、イランは対抗措置としてホルムズ海峡封鎖をちらつかせている。もし不幸にしてそのような事態が発生すればイラン原油のみならずGCC各国の原油及び天然ガスもストップし、世界が石油不足と価格暴騰に見舞われることは間違いない。但しホルムズ海峡の封鎖はイラン自身にとっても自らの首を締める瀬戸際政策であり、米国も威信をかけてこれを阻止するものと見られ、現実的ではないと多くの専門家は見ている。
需要面から眺めると欧州の金融不安が世界景気の後退を招きエネルギー需要が停滞するとの予測がある一方、中国、インドなど新興国の需要は底堅く石油需要の伸びは引き続き堅調であるとの見方も成り立つ。ともかく需給バランスについては楽観説と悲観説が錯綜しており、一寸先が解らない状況である。
そしてもう一つの問題が価格である。最近の北海Brent原油は110ドル台、北米WTI原油も100ドル前後で推移している。かつて原油が100ドルになれば世界経済が壊滅すると恐れられたが、省エネ技術と価格転嫁がある程度浸透して世界経済は何とか動いている。勿論高価格によって潤っているのは産油国であり、日本など一方的なエネルギー消費国はコスト吸収に血のにじむ努力を強いられている。ここで注意すべきことは、エネルギー消費国とはいえ米国や中国は同時に世界有数の産油国であり、ExxonMobilやSinopecなど両国の石油企業は油価の高騰により大いに潤っている。特に米国の場合は石油開発の採算性が向上したためシェール(頁岩)層からの石油・天然ガスの商業生産が軌道に乗って来た。
かつてサウジアラビアは石油価格が上昇すれば生産コストの高いマージナル原油の生産者を利し、或いは代替エネルギーの開発が促進されるとして高価格政策に懐疑的であった。しかし今ではサウジアラビア自身が経済開発と社会福祉政策のためより多くの石油収入が必要な体質になっている。同国のナイミ石油相が、現在の原油価格は望ましい水準だ、と言う始末である。原油価格は需要と供給によって変動し、コモディティの宿命として投機の対象にもされる。価格を決めるのは「見えざる神の手」である。
原油の需給と価格は今後どのように変動するか予断を許さない状況である。今回の総会ではOPECは丸く収まったが、この状態がいつまで続くであろうか?
(完)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp