(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
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3.インドネシアとOPEC双方の意図は?
石油輸入国のインドネシアが「石油輸出国機構」(OPEC)のメンバーとして再登場することがインドネシアとOPEC双方にとってどのような意味を持つのか、そして世界のエネルギー業界にどのようなインパクトを与えることになるのか、現時点で答えを出すことは難しい。そこで現在の石油を取り巻く環境及びインドネシアがOPEC内でどのような位置づけになるかについて検証してみたい。
現在、石油市場を左右する最大の要因が米国のシェール・オイルであることに異論はないであろう。シェール・オイルのおかげで米国の昨年の原油生産量は1,160万B/Dに達し、サウジアラビア、ロシアをしのぐ世界一の産油国となった。世界全体に占めるシェアは13%である。可採年数は11年に過ぎないためいずれ世界一の座を滑り落ちるであろうが、当面のインパクトは大きい。自給率が高まり輸入が減少した結果、ベネズエラ、メキシコ、ブラジル、ナイジェリアなど米国向け輸出に頼る環大西洋の産油国は大きな打撃を受けている。
OPECの生産シェアは今も40%台であり決して侮れない数値である。しかしOPECにはかつての脅威が感じられない。1970年代の二度にわたるオイル・ショックから20世紀末にかけて、OPECは原油相場が下落すれば生産量を絞って価格の回復を図り、価格が急騰して消費国から悲鳴が上がれば供給を増やして投機筋の思惑を打ち砕いた。OPEC生産量の調整役を担ったのがサウジアラビアであり、同国は「スウィング・プロデューサー」と呼ばれた。
しかし現在スウィング・プロデューサーの役割を担っているのは米国のシェール・オイル生産業者達である。原油価格が半値近くに下落した今年初めごろ、市場関係者の多くは米国のシェール・オイルの息の根が止まると踏んでいた。しかし彼らはしぶとく生き残っている。もちろん後発の零細業者の中にはコスト競争力を失い倒産したものもあるが、シェール・オイルの生産技術は日進月歩で生産コストが大幅に低下、先発で体力のある業者は現在の価格レベルでも生き残ることができる。この結果、シェール・オイルは原油価格が上昇すれば生産量が増え、逆に価格が下落すれば生産量が減ると言う市場メカニズムに沿った動きをする。つまりシェール・オイル業者達がスウィング・プロデューサーの役割を担うようになったのである。
一方OPEC内部では原油価格による各国の財政収支分岐点の違いが耐久力の差を生んでいる。ある調査 によればOPEC加盟国の中で損益分岐点がもっとも低いのはクウェイトの49.4ドル/バレルであり、次いでカタール64.1ドル、UAE73.8ドル、サウジアラビア87.2ドルと湾岸産油国が並んでいる。これに対して損益分岐点が100ドルを超えるのはベネズエラ($117.5)、アルジェリア($119.2)、ナイジェリア($122.7)等の非中東産油国であり最も高いリビアの場合は124.8ドルとされている。シェア維持を重視するOPECの方針はサウジアラビアを中心とするGCC産油国が主導した結果であり、ベネズエラ、リビアなどが反対するのは国家財政の破綻が迫っているからである。ベネズエラが対米輸出の減少に苦しんでいるのは先に述べた通りであり、内戦が続くリビアも破綻状態である。OPECは富める国(GCC産油国)と貧しい国(南米、アフリカの産油国)に二極分化しつつあり、団結にひびが入っていると言えよう。
それではインドネシアのOPEC内における立ち位置はどうなるのであろうか。OPEC諸国の地理的配置を見ると加盟12か国のうち中東地域が6か国(サウジアラビア、イラン、イラク、UAE、クウェイト、カタール)、アフリカ地域は4か国(リビア、アルジェリア、ナイジェリア、アンゴラ)であり、南米が2か国(ベネズエラ、エクアドル)である。ここにアジア地域のインドネシアが加わればかなりバランスが取れた形になると言えよう。
インドネシアは人口が2億人近くあり、OPEC加盟国で最大のナイジェリアを上回る。今後工業化が進展し巨大な消費市場となる可能性を秘めており、それに伴い石油・天然ガスの消費は急増するものと見込まれる。さらに付け加えるなら同国はイスラム国家でもある。OPEC加盟国12カ国のうちベネズエラ、エクアドル、アンゴラを除く9か国もイスラム国家である。
今回の復帰はインドネシアにとってメリットが大きい。復帰により同国は中東産油国と太いパイプを築くことができ、原油の調達が容易になり、場合によっては他のアジア諸国より有利な価格で輸入できる可能性もある。一方、世界の石油市場の動向次第では中東産油国側にとってもプラス面があると考えられる。現在ヨーロッパ、中国などの経済が足踏みし石油需要が低迷しており、OPEC諸国は厳しい販売競争を強いられている。また今後景気が回復すれば米国のシェールオイル、ブラジルの深海油田開発などが強敵となろう。
さらに石油は天然ガスとの競争にも晒される。米国のシェールガスは既に輸出に向かって始動しており、豪州、北極圏等でも新たなガス開発が進んでいる。石油と天然ガスはこれまである程度市場分野を住み分けてきたが、今後天然ガスが石油の市場を浸食することは間違いない。加えて先進国では環境意識が高まり石油から天然ガスへの切り替えが進んでいる。日本のように省エネ技術により石油の需要が減少している国もある 。したがってOPEC産油国としては市場の確保が今後の重要な課題となると思われる。その市場とはまさに発展するアジア地域である。人口の多いインドネシアはエネルギー需要の伸び代が大きく石油の輸出国にとっては魅力的である。
このように考えるとインドネシアが再びOPECに仲間入りすることは、今後OPECがこれまでのような石油消費国に対抗する生産・輸出カルテルから脱し、開発途上国同士の石油の融通組織に変身する前触れなのかもしれない。
以上
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