石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:天然ガス篇 (24完)

2017-09-15 | BP統計

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」でまとめてご覧いただけます。

 http://mylibrary.maeda1.jp/0421BpGas2017.pdf

 

2017.9.15

前田 高行

 

7.天然ガスの価格(続き)

(かつてはヨーロッパ、米国の方が日本より高かった時代もあった!)

(2)日本のLNG価格を1とした場合のヨーロッパ、米国の天然ガス価格

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-5-G02.pdf 参照)

 ここで取り上げた日本とEUと米国の天然ガスの価格は日本がCIF価格であり、米国はパイプラインの受け渡しポイントHenry Hubにおける価格である。従って米国と日本を単純比較することはできないが、その点を含んだ上で日本のLNG価格を1とした場合の2000年から2016年までのヨーロッパ及び米国との格差を比較すると、まず2000年のヨーロッパ価格は日本の0.57倍、米国は0.89倍であった。つまりヨーロッパ価格は日本より4割安く米国価格は1割程度安かったのである。

 

 その後2002年までは3者の価格差に大きな変化はなかったが、2003年には米国Henry Hub価格が上昇、日本との相対価格は1.18倍に逆転した。原油価格が安定したため原油にリンクした日本のLNG価格が低く抑えられたのである。その後も米国の価格は上昇、2005年には米国価格は日本の1.45倍まで格差が広がった。つまり2003年から2005年までの3年間は米国の天然ガス価格の方が日本のLNG価格より高かったのである。一方この間にヨーロッパの対日相対価格も徐々に上昇し2005年には日本価格を上回り1.2倍になり、翌年も1.1倍となった。即ち2005年は日本価格が米国価格及びヨーロッパ価格のいずれよりも安かったのである。

 

 しかし2007年には再び日本価格がヨーロッパ及び米国価格を上回るようになり、特に2009年以降は原油価格の急騰に伴い日本の価格が急上昇したのに対しヨーロッパ価格はさほど大きな変動が見られず、米国はシェールガスの開発が本格化し日本とは逆に価格が急速に下落した。その結果、3地域の価格格差は拡大し、2012年には日本の価格は米国の6倍強になっている。2014年以降は原油価格が下落し、原油にリンクした日本のLNG価格も下がり、ヨーロッパ及び米国との価格差は縮小している。2016年は日本=1に対してヨーロッパ価格は3割強安い0.68倍であり、米国価格は日本の3分の1強の水準である。

 

 今後この格差がどうなるか予断を許さないが、豪州、東アフリカ等世界各地で天然ガスの開発が進み、また米国のLNG輸出が開始されるとLNGのスポット価格は下がる可能性がある。またパプアニューギニア、豪州、モザンビーク、米国シェールガスなどのLNGプロジェクトに日本企業が資本参加することで安定的な価格と量の確保が可能となる。さらに原油価格は現在1バレル50ドル前後の水準にとどまっており、日本の輸入LNG価格もそれに引きずられた形で低位安定することが見込まれる。一方米国ではシェールガスの減産により市場価格が回復すれば、日米の価格差が縮小する可能性もあると言えよう。

 

 歴史を遡って見ると、LNGが本格的に市場に登場したのは1997年にカタールと日本の中部電力が長期需給契約を締結した時からである。この時、米国或いはヨーロッパにおけるパイプラインを介した天然ガス価格はLNG価格算定の参考にならず、日本向けLNG価格は原油価格とリンクした価格体系が編み出された。

 

 1990年代後半は1980年代のOPEC支配の時代が終わり第二次オイルショック時には40ドル/バレルに達した原油価格が1998年には12ドル台にまで暴落し原油は市況商品とみなされるようになっていた。従ってこの時点でLNG価格を原油価格にリンクさせることは長期的な安定取引を望むカタール及び日本の双方にとってメリットがあったことは間違いなかったのである。

 

 EU或いは米国との価格差をとらえて、日本企業のLNG取引の稚拙さを非難する声があるがそれはあくまで結果論と言えよう。エネルギー資源の無い日本にとって石油及び天然ガスを長期安定的に確保することが至上命題であり、その時々の価格の高低に一喜一憂することは余り意味のあることとは思えない。

 

(天然ガス篇完)

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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