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第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(4)
118 西暦に侵食されるヒジュラ暦(4/4)
こうして中東のイスラーム社会は1400年にわたり伝統の生活様式を守ってきた。しかしヒジュラ暦15世紀、すなわち西暦1980年前後からグローバリゼーションの波に巻き込まれ、年月の尺度を西暦に合わさざるを得なくなった。世界の国々を相手に取引を行うためには西欧諸国のデファクトスタンダード(事実上の世界標準)としての西暦制度に合わせることが必要不可欠となったのである。
その最初の分野が金融の世界であろう。そこでは西暦の年度、月次、日次が取引の基準となる。そして取引日も月曜日から金曜日までである。これに対して中東イスラーム世界では最近まで木曜日と金曜日が休みであり、取引日は土曜日から水曜日までである。両者が重複するのは、月曜、火曜、水曜の3日間だけとなり極めて効率が悪い。西欧諸国が日曜日を安息日とするように、イスラーム諸国では金曜日は礼拝日であり、イスラーム諸国もこれだけは絶対譲れない。結局イスラーム側が歩み寄る形で、現在では中東イスラーム諸国は週休2日制を金曜と土曜に変更している。
表面的には制度の変更でしかないが、ムスリム(イスラーム教徒)の心のリズムは狂い始めた。生活を律するヒジュラ暦とグローバリゼーションのため已む無く西暦に従わざるを得なくなった心の葛藤が穏健な一般市民の深層心理の中に生まれたのである。
(続く)
荒葉 一也
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