イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「免疫、その驚異のメカニズム―人体と社会の危機管理 」読了

2020年04月13日 | 2020読書
谷口克 「免疫、その驚異のメカニズム―人体と社会の危機管理 」読了

このご時世なので免疫に関する本を読んでみた。
今までにも何冊か免疫の本を読んだがやっぱりよくわからない。これはかなり複雑なシステムだ。
人間の免疫は約1兆通りもの異物に対応しているそうだ。ひとつの異物に対してひとつの免疫が必要になるのでこれだけの数を揃えておかないと命を保てない。著者はこれだけの種類があれば地球上はおろか、宇宙からやってくる脅威にも対抗できるというけれども、今回のコロナウイルスには世界中が対応できなくなってしまっているのだから自然界はもっと脅威に満ちているということだろうか・・。
この異物には有機物だけではなく、無機物にも対応しているそうだ。金属アレルギーのような反応も、金属分子と結合したタンパク質に反応して起こるらしい。
人間は約60兆個の細胞でできているそうだが、その60分の1が免疫のために使われているということになる。いやいや、まさか1兆の異物に対して1個だけの免疫細胞が対応しているわけではないだろうからひょっとしたら半分以上の細胞が免疫にかかわっているのかもしれない。
それほど重要なものが免疫というのだろう。

免疫細胞は骨髄で作られる。免疫とは自己と非自己を明確に区別して非自己であるもの、すなわち自己に害を及ぼす可能性のあるものをことごとく排除しようとするものだが、骨髄を出た免疫細胞の卵はまだ自己と非自己を区別できない。それを教育するのは胸腺という臓器だ。フランス料理でいう、リードヴォーというところだ。
免疫細胞はここで自己を攻撃しそうな細胞を排除する。排除される細胞の数は実に95%もあるそうだ。ほとんどが廃棄される運命にある。
この胸腺は歳を取るにつれて小さくなる。ということは自己を攻撃しそうな免疫細胞が間違って体の中に出ていってしまう可能性ができてしまう。これが老化というものだ。
この本では60歳で半分くらいの大きさにまでなってしまうと書いているが、一説ではそのころには消滅してしまっているという話もある。
だから皮膚を攻撃したらしわになり、血管を攻撃したら動脈硬化になる。いっそのこと、胸腺の細胞を増殖させて移植したら若返ることができるんじゃないかと思うけれどもそんな話は聞いたことがないのできっとそういうわけではないのだろう。
そして胸腺という臓器は顎をもつ動物に特有の臓器だそうだ。魚にもある。ヤツメウナギのような無顎類には無い。これは顎を持つようになった動物はいろいろなものを食べるようになり体内に異物を取り込む可能性が高くなり、より強力な免疫システムが必要になったということらしい。しかし、魚の胸腺ってどこになるのだろう?大体、魚の胸ってどこなんだろうか・・。

その免疫細胞はT細胞とB細胞に分けられる。その役割分担は、T細胞は自己に由来する異物の排除、B細胞は非自己、バクテリアや細菌に対抗している。
免疫は非自己に対して排除するはずだが、“自己に由来する”とはどういうことか、それは例えば、ウイルスについて、新型コロナもそうだが、ウイルス自体は別に毒素を作り出して人間の体を攻撃するわけではない。免疫細胞がウイルスに感染した細胞を非自己と認識して免疫反応の攻撃が過剰になってしまうことが重篤な状態を引き起こすことが問題になるということだ。癌に対しても癌細胞の中には抗原があり、細胞が壊れることによってその抗原が体内に拡散し非自己と認識される。癌細胞も自己のはずだが、ここらへんが生物のうまくできているところなのだろう。

T細胞の免疫システムをもう少し詳しく書いてみるとこんな感じだ。
T細胞はそれ自体が異物を探知するわけではない。その前に樹状細胞というものがかかわってくる。まず、樹状細胞が異物(ウイルスや細菌)を食べる。食べられた異物はペプチドというアミノ酸が9個つながったものを細胞の中のMHC分子と結合させてT細胞に提示する。それを受け取ったT細胞がサイトカインを分泌し他のT細胞を活性化させて異物を積極的に攻撃できるようにする。
そんな数段階を経て免疫は発揮される。今、2週間我慢しろというのはこの期間が1週間ほどかかり、2週間経てばウイルスは消えているということらしい。

分子レベルで行われるこの作用、こんなに複雑なものが誰も設計図を書かずに出来上がっているというのがどう考えても不思議でならない。

この本は20年前に書かれたものなので当時はHIVウイルスが相当な脅威になっていたらしく、この話題にかなりのスペースを割いている。また、癌治療についても今、一番注目されているであろう免疫チェックポイント阻害剤についてはまったく書かれていない。たった20年でまったく新しい治療法が生まれてきたことになる。あと20年経てばどんなものが生まれてくるのだろうか。

最後の章では著者を含む三人の鼎談が掲載されている。免疫機能を人間の社会に当てはめて個人はどうあるべきかということが語られている。免疫というものは非自己をしっかり認識することによってはじめて自己を見つけることができる。だから樹状細胞が異物に晒されながらT細胞に免疫を作らせることになぞらえ、人、特に日本人はもっと他人、他国の文化、そういうものに触れることによって自己をしっかり持たなければならないと言う。
そうしないと多様化する世界の変化についてゆけなくなるというのだ。
何事からも逃げてきたわが身にとっては身につまされる。しかし、僕はそんな環境ではとうの昔に死に絶えていたのだとも思うのである。
ここらへんは20年後の今を的確に言い当てていると言えるのだろう。
コメント
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