イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「重力波 発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ」読了

2021年01月15日 | 2021読書
高橋真理子 「重力波 発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ」読了

著者は歌手ではなく、朝日新聞の記者だそうだ。以前に毎日新聞の記者が書いた科学関係の本を読んだことがあるが、新聞社では科学に強い女性が多いのだろうか。
「重力波」というと、2016年2月に直接検出されたというので話題になったが、一般向けとはいえ専門家が書いた本を読んでもまず何を書いているかわからないと思っていたが、新聞記者さんが書いたものだとなんとか理解の足掛かりでもつかめるのではないかと手に取ってみた。

重力波というのは、アインシュタインが相対性理論を構築する過程で存在を予言したものだ。この本はその重力波を人類が実際に観測するまでことが開設されている。

イタリア語を使って一般向けにも自身の研究成果を発表していたガリレオ・ガリレイを、「世界最初の科学ジャーナリストである」と呼んでいるだけあり、著者は素人にもわかりやすく書いてくれている。
重力波にたどり着く前に、人間が宇宙や時間をどのように理解してきたかという歴史をについてこまかく解説している。
というか、重力波だけでなく、様々な物理理論はそれを解明した偉人が突然ひらめいたのではなく、連綿と続いてきた科学、哲学の歴史の延長線上にその発見と観測があったのだということを強調している。
確かに、重力波というものの存在を予言するのも発見のひとつだし、その元になったギリシャ時代の哲学者が考えた物質観、宇宙観について理解するのも重力波の発見につながるということだ。
普通の人なら、「重力波の発見」という言葉からは、こんな観測機器が作られてやっと見つけることができました。というお話で終わるのだろうがそこまで遡ってほり進めていくというところがきっと新聞記者なのだろう。
そして、重力波の発見自体よりもこっちのほうが面白かった。


始まりはアリストテレスからだ。アリストテレスは宇宙というのは空っぽではなくて「エーテル」という元素で満たされていると考えた。宇宙はエーテルで満たされていて、地上は火・空気・水・土の四つの元素で構成されていてそれぞれ別の法則で成り立っていると考えた。
この考えからスタートしてニュートンとアインシュタインの革新的な考えに発展してゆく。

ニュートンの時代、大学ではギリシャ、ローマ時代の文献を購読することだけが学問であった。しかし、ニュートンはその文献を読みながらアリストテレスの考えに対して不満のあるところを考えながら万有引力の法則を発見したそうだ。宇宙でも地上でも同じ法則が世界を支配しているというのが万有引力の法則なのだ。
現状維持に甘んじない人が革命をおこすということなのだろう・・。
しかし、万有引力の法則では重力は波のように伝わるものではなく、質量のある物質が2個あれば一瞬にして重力が発生するということになるそうだ。
ニュートンの考えでは宇宙戦艦ヤマトがワープアウトしたら一瞬で周りのものと重力でつながってしまうというのはヤマトにとってもかなり危険であるということになるのだろうか。うまく姿勢を保てないかもしれないぞ。


19世紀になって、光の速度を求めようという動きが出てきた。その頃には光は電磁波という波なのだということがわかってきていたのであるが、波である以上それを伝える媒質が必要だということでエーテルの存在はその頃でも信じられていた。
マイケルソンとモーリーという学者は、光の速度を求めようしたとき、地球がエーテルの中を進んでいくとそれが抵抗になって光の速度が遅くなると考えた。地球は太陽の周りを時速10万キロで回っているのだから方向によって速度が変わると考えたが、調べてみると全然変化がないことがわかった。ローレンツという科学者はきっとこれはエーテルの抵抗で空間も縮むので光の速度が遅くなってもそれで相殺されるのだと解釈したのだが、もともとアリストテレスはエーテルは絶対不変の鋼鉄のように硬いものだと考えており、当時も同じように考えられていた。アインシュタインは、そんな硬いものの中を星が進めるはずがない。ファラデーの電磁誘導の実験を引き合いに出し、コイルを動かしても磁石を動かしても電流が流れるのならどちらが動いているかということには意味がない。だから、絶対的に静止した空間というものを考えても意味がないと考えた。静止した星から光の速度と動いている星から光の速度を計ることを一緒に考えても無駄なのだということだ。
そうしてエーテルの存在がなくても光の速度が変わらないという考えは成り立つということを証明したのが相対性理論である。相対性原理というのは、ガリレオ・ガリレイも考えており、「等速直線運動をしている二つの座標系があったとき、どちらの座標系でも力学的法則は同じでなければならない。」という慣性の法則だ。それが光の速さに置き替えられたのが相対性理論の一部になっている。ここもつながっているのだ。
素人にもよくわかるはずの本のはずなのだが、ここらあたりからよくわからなくなってくる・・。
相対性理論のなかでも、ローレンツの考えた光が縮むという数式はローレンツ変換というものでちゃんと生かされているらしい。みんなの考えはつながっているのだ。

そして、光がエーテルが存在しなくても伝わるのは光が粒子であるという考えをニュートンが考えだして以来復活させたのが光量子仮説なのである。
その過程で重力が働く場というものがあり、そのなかで重力を伝えるのが重力波なのだという予言が生まれた。

重力波というのはその波の強さが原子核の10のマイナス21乗メートル(これは陽子の半径よりもはるかに小さい)というほどの振幅しかない。それを観測するためには大きくて精度の高い観測装置が必要だ。
それを最初に作り上げたのがウエーバーというアメリカ人で、アルミニウムの共振という原理を使って1969年に観測してたという発表があったがこれは間違いで、STAP細胞のような騒動になったそうだ。
その後、干渉計という方法で巨大な装置がアメリカのLIGOとヨーロッパのVirgoという装置で観測された。ブラックホールが合体するときに発せらたものだったそうだ。これは正しいとなり2016年2月に正式に発表されたというのがこの物語の結末なのである。

日本ではカミオカンデのそばにKAGURAという装置が建設中で計画は初観測当時から進行していたが後れを取ったことになる。(去年から観測が開始されたらしい。)
しかし、このKAGURAでも建設費が150億円を超えLIGOとVirgoではその数倍の建設費と数十倍の科学者がたずさわっているそうだ。
これだけの予算を国家から獲得するためには非情な熱意と思い込みが必要だと感じる。何に対しても面倒くさくてこんなことをしても無駄なだけじゃないかと思うような人間には学者も絶対に務まらないとあらためて思うのだ。
その前に知能が追いかないというのが当然のこととしてあるのだが・・・。
コメント
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