レイチェル・ハーツ/著 川添節子/訳 『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか においと味覚の科学で解決する日常の食事から摂食障害まで』読了
またまたベーコンネタの本だ。これもタイトルが面白そうだと思って読み始めた。それと、においについては僕も疑問に思っていたことがあった。
それは、においについての記憶だ。何かの記憶や夢に見る光景の中に、においというものがないと思わないだろうか。光景はもちろん、人の声、歌などの音は記憶の中に思い浮かべることができる。しかし、そこにはにおいがないように思うのだ。ある料理を思い浮かべてもそのにおいは再現できないように思うのだ。
この本のタイトルになっているベーコンについても、もちろん現物を前にすると、ああ、このにおいだと識別なり食欲なりが湧いてくるのだが、今、キーボードを叩きながらベーコンのにおいを頭の中で再現するこができないのである。
なぜ、そう思うようになったのかというと、あの、悪臭を放つ元同僚のことなのだ。幸か不幸か、今年の春から席を同じくすることがなくなり、あの臭いを嗅ぐこともなくなったのだけれども、そうなると、あの臭いはいったいどんなものであったかということを思い出せなくなった。もっとも、思い出したくもない臭いであるのには間違いがないのだが。
そんな臭いのメカニズムとはいったいどんなものであるのか、そういったことが書かれてあるのではないかと期待をしていたのも事実である。
しかし、その内容は、味とにおいの心理学というような内容であった。
それはどんなひとでも何となくわかっていることであると思うが、味やにおいというのは同じものであってもその時の気分や心の状態で違うものだ。
前半部分は味覚と嗅覚についての科学的な説明になっている。
イギリス国民が好きな匂いの2位はベーコンの匂いだそうだ。そしてそのベーコンの味は匂いに基づいているらしい。舌が感じることができる味覚は、甘味、塩味、酸味、苦み、そして旨味の5種類しかない。そこに鼻が感じるにおいが加わってはじめて複雑な味覚が生まれる。
昔よく放送されていた、目隠しをされた芸人が鼻をつまんで料理名を当てるというのはそういった人間の機能を利用しているのである。
では、なぜ人は五つの味しか識別できないか。それは生きるというもっとも基本的な欲求を満たすために必要な最低限の味がこの五つであるというのである。
甘味は、デンプンの分解物である糖類、とくにブドウ糖を識別するための味覚である。脳のエネルギー源はブドウ糖のみであるが、そのためにも甘味が必要であり、甘さという味覚は脳の飛躍的な発達につながった。
塩味はおそらく生物(陸上の?)が最も最初に獲得した味覚だろう。神経回路の維持にはナトリウムイオンが欠かせない。そして、塩分の欠乏は深刻だ。だから子供の頃、塩味の強いものは体に悪いといつも叱られていると、その後の塩味の嗜好に影響する。
酸味は腐ったものを識別するため。確かにそうだが、一方で酸味は美味しい。それは、かつて主要なカロリー源であった果物がどのくらい熟しているかを識別するためであったそうだ。そういえば、お酒も主要なカロリー源になる・・。
苦みは毒を識別する。苦みが嫌いな人、苦みに敏感なひとをスーパーテイスターという。 これは遺伝子(TAS2R38)によるらしい。そんな人は、苦みを打ち消そうと塩の量が増えてくるらしく、発がん率が高くなる傾向があるので注意しなければならない。逆に、苦みが気にならない人(ノンテイスター)はアルコール依存症になりやすい。
また、口の中の苦みは危険を知らせる。その苦みは腫瘍壊死因子(TNF)が原因である。それは免疫機能のひとつであり、「がん細胞を破壊する」「傷を治癒する」「体内に入ったウイルス・バクテリアを排除する」という役割がある。これが増えると食欲の減退につながるが、食欲が減退すると消化に使われるはずのエネルギーを病原体との戦いに回せるという理由だそうだ。なんとも人間は高性能にできている。
旨味は、人類が最後に発見した味覚であるが、これはタンパク質を感知するための味覚。
しかし、旨味の元であるグルタミン酸はタンパク質を構成するアミノ酸だが、唾液ではタンパク質を分解することはできない。ではなぜ人は旨みが好きなのだろうか。それは、消化管にも様々な味の受容体があるそうだが、旨味の受容体もそこにはある。タンパク質が分解され、消化管の受容体がそれを感知すると、体はタンパク質を食べたことを知って気持ちがよくなる。その記憶が旨みを美味しいと感じさせるのである。
味わえない場所の味が美味しさの引き金になるというのも不思議なものだ。
味ではなくてこれは刺激であるが、トウガラシの辛味についても書かれている。トウガラシを食べると、死亡リスクが13%低下するという統計結果が紹介されている。これはいい話だ。
カプサイシンは、酸化、炎症、菌を防ぐ効果があるそうだ。今年も一所懸命トウガラシを食べよう。
後半は味とにおいの心理学というところである。
味覚はそういうことで先天的というか、本能的というか、生きるための最低限必要とするものに対して嗅覚は後天的なものである。それは経験によるところが大きい。嗅覚と舌の味覚が合わさって”におい”が成立するのであるから、味の好みはひとそれぞれとなるのである。
美味しさは味覚だけでなく、食材を盛る器、量、雰囲気でさまざまに変化する。そこが心理学的な部分である。
また、アメリカで出版された本だけに、食欲(食べる分量)についても多くのことが書かれている。ここにも心理学がある。
その時の感情、誰と食べるか、何をしながら食べるか、食材の盛り方、こうしてしまうとよりたくさんの量を食べてしまうのだというようなことが様々な事例を上げて説明されている。
結構簡単にダイエットをすることができてしまった僕からすると、これも心理学なのかもしれないが、単に気の持ちようで食べる量のコントロールは簡単にできてしまうのではないかと思う。
こうやって書き進めてきたけれども、やっぱりあの悪臭を思い出すことができない。2回同じことを書いてしまうが、思い出したくもない臭いなのだからそれでいいのであるが、これも動物としての本能がそうさせるのであれば、きっとそんな臭いを記憶の中で再現できるとしたら自家中毒で気が狂ってしまうかへたをすると死に至るようなことになってしまうからなのではないのだろうかと思い至った。少なくとも、食欲は確実に減退することは間違いがない。
今年はサバを釣ることができなかったのでサバの燻製はお預けだ。また、涼しくなってからのベーコン作りを楽しみにしておこう。
またまたベーコンネタの本だ。これもタイトルが面白そうだと思って読み始めた。それと、においについては僕も疑問に思っていたことがあった。
それは、においについての記憶だ。何かの記憶や夢に見る光景の中に、においというものがないと思わないだろうか。光景はもちろん、人の声、歌などの音は記憶の中に思い浮かべることができる。しかし、そこにはにおいがないように思うのだ。ある料理を思い浮かべてもそのにおいは再現できないように思うのだ。
この本のタイトルになっているベーコンについても、もちろん現物を前にすると、ああ、このにおいだと識別なり食欲なりが湧いてくるのだが、今、キーボードを叩きながらベーコンのにおいを頭の中で再現するこができないのである。
なぜ、そう思うようになったのかというと、あの、悪臭を放つ元同僚のことなのだ。幸か不幸か、今年の春から席を同じくすることがなくなり、あの臭いを嗅ぐこともなくなったのだけれども、そうなると、あの臭いはいったいどんなものであったかということを思い出せなくなった。もっとも、思い出したくもない臭いであるのには間違いがないのだが。
そんな臭いのメカニズムとはいったいどんなものであるのか、そういったことが書かれてあるのではないかと期待をしていたのも事実である。
しかし、その内容は、味とにおいの心理学というような内容であった。
それはどんなひとでも何となくわかっていることであると思うが、味やにおいというのは同じものであってもその時の気分や心の状態で違うものだ。
前半部分は味覚と嗅覚についての科学的な説明になっている。
イギリス国民が好きな匂いの2位はベーコンの匂いだそうだ。そしてそのベーコンの味は匂いに基づいているらしい。舌が感じることができる味覚は、甘味、塩味、酸味、苦み、そして旨味の5種類しかない。そこに鼻が感じるにおいが加わってはじめて複雑な味覚が生まれる。
昔よく放送されていた、目隠しをされた芸人が鼻をつまんで料理名を当てるというのはそういった人間の機能を利用しているのである。
では、なぜ人は五つの味しか識別できないか。それは生きるというもっとも基本的な欲求を満たすために必要な最低限の味がこの五つであるというのである。
甘味は、デンプンの分解物である糖類、とくにブドウ糖を識別するための味覚である。脳のエネルギー源はブドウ糖のみであるが、そのためにも甘味が必要であり、甘さという味覚は脳の飛躍的な発達につながった。
塩味はおそらく生物(陸上の?)が最も最初に獲得した味覚だろう。神経回路の維持にはナトリウムイオンが欠かせない。そして、塩分の欠乏は深刻だ。だから子供の頃、塩味の強いものは体に悪いといつも叱られていると、その後の塩味の嗜好に影響する。
酸味は腐ったものを識別するため。確かにそうだが、一方で酸味は美味しい。それは、かつて主要なカロリー源であった果物がどのくらい熟しているかを識別するためであったそうだ。そういえば、お酒も主要なカロリー源になる・・。
苦みは毒を識別する。苦みが嫌いな人、苦みに敏感なひとをスーパーテイスターという。 これは遺伝子(TAS2R38)によるらしい。そんな人は、苦みを打ち消そうと塩の量が増えてくるらしく、発がん率が高くなる傾向があるので注意しなければならない。逆に、苦みが気にならない人(ノンテイスター)はアルコール依存症になりやすい。
また、口の中の苦みは危険を知らせる。その苦みは腫瘍壊死因子(TNF)が原因である。それは免疫機能のひとつであり、「がん細胞を破壊する」「傷を治癒する」「体内に入ったウイルス・バクテリアを排除する」という役割がある。これが増えると食欲の減退につながるが、食欲が減退すると消化に使われるはずのエネルギーを病原体との戦いに回せるという理由だそうだ。なんとも人間は高性能にできている。
旨味は、人類が最後に発見した味覚であるが、これはタンパク質を感知するための味覚。
しかし、旨味の元であるグルタミン酸はタンパク質を構成するアミノ酸だが、唾液ではタンパク質を分解することはできない。ではなぜ人は旨みが好きなのだろうか。それは、消化管にも様々な味の受容体があるそうだが、旨味の受容体もそこにはある。タンパク質が分解され、消化管の受容体がそれを感知すると、体はタンパク質を食べたことを知って気持ちがよくなる。その記憶が旨みを美味しいと感じさせるのである。
味わえない場所の味が美味しさの引き金になるというのも不思議なものだ。
味ではなくてこれは刺激であるが、トウガラシの辛味についても書かれている。トウガラシを食べると、死亡リスクが13%低下するという統計結果が紹介されている。これはいい話だ。
カプサイシンは、酸化、炎症、菌を防ぐ効果があるそうだ。今年も一所懸命トウガラシを食べよう。
後半は味とにおいの心理学というところである。
味覚はそういうことで先天的というか、本能的というか、生きるための最低限必要とするものに対して嗅覚は後天的なものである。それは経験によるところが大きい。嗅覚と舌の味覚が合わさって”におい”が成立するのであるから、味の好みはひとそれぞれとなるのである。
美味しさは味覚だけでなく、食材を盛る器、量、雰囲気でさまざまに変化する。そこが心理学的な部分である。
また、アメリカで出版された本だけに、食欲(食べる分量)についても多くのことが書かれている。ここにも心理学がある。
その時の感情、誰と食べるか、何をしながら食べるか、食材の盛り方、こうしてしまうとよりたくさんの量を食べてしまうのだというようなことが様々な事例を上げて説明されている。
結構簡単にダイエットをすることができてしまった僕からすると、これも心理学なのかもしれないが、単に気の持ちようで食べる量のコントロールは簡単にできてしまうのではないかと思う。
こうやって書き進めてきたけれども、やっぱりあの悪臭を思い出すことができない。2回同じことを書いてしまうが、思い出したくもない臭いなのだからそれでいいのであるが、これも動物としての本能がそうさせるのであれば、きっとそんな臭いを記憶の中で再現できるとしたら自家中毒で気が狂ってしまうかへたをすると死に至るようなことになってしまうからなのではないのだろうかと思い至った。少なくとも、食欲は確実に減退することは間違いがない。
今年はサバを釣ることができなかったのでサバの燻製はお預けだ。また、涼しくなってからのベーコン作りを楽しみにしておこう。