気がついたら、というか気がつくのを避けていたのかもしれないけど、コンサートまでもう1週間しかない。
まじ?
明日のリハーサルと、追加された水曜日の夜のリハーサル、そして当日のドレスリハーサルで本番になる。
自分の胸の内で大きなうねりとなって流れているメロディや、それを包み込んだり支えたりするハーモニーを、現実の音にしたい欲望がドクンドクンと波打っている。
欲が深すぎてもいけないし、欲を捨てるのもいけない。
現実と折り合いをつけることも指揮者の能力である。
あと3回、みんなと一緒に、最後の最後まで諦めずに音を紡ぎ上げていって、あの教会に足を運んでくださるみなさんに、すてきな時間を過ごしていただけるよう頑張りたいと思う。
そのためにも健康であることが大切だ。
音楽家も体力がなければやっていけない。
趣味として演奏活動に携わっている者は、音楽以外のことで生計を立てているので、時間のやりくりに苦労する。
わたしは音楽関連の仕事をしているが、演奏活動のための時間を捻出するのはやはり簡単ではない。
でもまあ、子育て中の大変さに比べたら大したことでは無いのだけど。
わたしの健康上の不安といえば歯、である。
他に、顔はもちろんのこと身体中のあちこちに散らばっているいろんな種類のできもの、それと長年痛みが続いている左腕上部の故障。
歯以外は夫に治してもらえばいいものを、言うと色々うるさく言われるし、いつでも頼めるという贅沢な環境が逆に災いして、ゴニョゴニョと誤魔化したまま時間が過ぎている。
さて、とうとうのとうとう、シニア用健康保険(日本の国保に近い)も手に入ったので、5年以上も前に通うのをやめた医者に診てもらうことにした。
その医者は超がつく人気者なので、新患はもちろん出戻りも拒否される。
なのでもちろんわたしも断られた。
わたしは以前、彼の娘たちにピアノを教えていて、その教え方をいたく気に入ってくれていたこともあって、それを言うと入れてくれるかな、などと邪な考えが浮かんだが、厚かましいと思ってやめた。
すると、ずっと連絡してなかったその医者の奥さん(元生徒たちの母親であり、良き友人でもある女性)から、急にあなたのことを思い出したの、元気?というメッセージが届いて、うむむ、これは虫の知らせか?と思って病院のことを話した。
「ああまうみ、ばからしい遠慮なんかしてないでさっさと夫に連絡しなさい!わたしからも言っておくから!」
と言われてありがたいと思ったのだけど、やっぱりそれでもなんか気が進まなくて放っておいたら、向こうから連絡が来た。
でも予約が取れたのは5月…それまでは何も起こらないようにしないと。
そして歯。
離婚直前だった30年前に、離婚後の困窮が必至だったので虫歯治療をしておこうと思って行った歯科医院で、いきなり4本もの前歯のインプラント治療を強行されて気絶しそうになったのだが、その4本のうちの1本の根っこに膿が発生していると言われたのが今から20年前のこと。
当時、わたしは家族と共にすでにこちらに引っ越していたのだけど、やはり貧しくて、無保険の歯の治療などよほどのことがない限り受けられない状態だった。
なので聞かなかったことにしてずるずると放置してきたこの22年と半年の間、歯科医が替わるごとにそのことを指摘された。
そして今、ここ数年担当してもらっている歯科医が、ちょっと怒ったような顔をして「あなた、これ、見えますか?」と、手鏡をわたしの手にグイッと持たせた。
前歯の右側の歯茎に、ぷっくりと膨れた部分があって、更にそこから白い膿を含んだ突起が出ているのが見えた。
もうこれ以上放っておいてはいけない。
この古いインプラントの歯を抜いて、歯茎を切開し、しっかりと治療しないと脳にまで至ってしまう可能性がある。
というわけで、またまた大掛かりな治療が始まることになった。
先日、その治療を始める前に、隣にある虫歯を治療しておくようにと言われてクリニックに行ったのだけど、主治医ではなく別の歯科医が担当してくれた。
治療が始まり、歯を削る嫌な音が耳に入ってきた。
案の定、いつものごとく、いつまで経っても削っている。
どうせこんなに深く蝕まれてるって思ってなかったんだろう。
治療が終わり、歯科医が言った。
「あなたの歯は、エナメル質の部分と根っこはとてもしっかりしているのだけど、中の部分がとても柔らかいので、一旦虫歯になると大変なことになるようですね」
だからずっと言ってたじゃないですか、わたしの場合X線写真は信用ならないって、とわたしは内緒で独りごちる。
なぜか今回はやけにその『柔らかい部分』というのが生々しく想像されて、急に恐ろしくなってしまった。
「なので甘い飲み物は極力避けないといけません。例えば砂糖を入れたコーヒーとか」
「コーヒーも紅茶も飲まないし、飲んでた時も砂糖は入れてませんでした」
「そうですか…まあとにかく甘い物を食べたり飲んだりした後は、しっかりとうがいとフロスをしてください」
しばし双方ともに沈黙…。
「あ、甘い飲み物といえば、ゆず茶が大好きでよく飲んでます」
「ああ、あれはハチミツや砂糖が大量に入っているし、しかも柑橘なので酸も含まれてるから、あなたのような歯の持ち主には最悪な飲み物ですよ」
がーん…終わった…。
家に戻ってからも飲む気にも食べる気にもなれず、かといって飲まず食わずでは働けないので口に入れるのだけど、例の『白くて柔らかい部分』がどんどん蝕まれていく図が頭の中に浮かんできてしまって、食べ終わったら即うがいして、徹底的にフロスしないと怖くてならない。
これっていわゆる強迫観念なのかな。
治療完了までにかかる日数は約半年、今回の支払い総額は3000ドルだ。
それでも他のところで治療してもらったら、7000ドルから9000ドルは取られるはずなので、ありがたいと思わなければならない、のか?
それに今回は抜く歯が前歯なので、次の治療を受ける2ヶ月後まで放っておくわけにもいかず、一本だけの入れ歯も作ることになった。
その歯と上顎にくっつける膜のようなものを作るためのスキャンが、これまたものすごく面倒だったのだけど、2ヶ月ほどお世話になるものなので我慢した。
4月から2週間、またまた日本に帰省するのだけど、この入れ歯が食事中にポロッと外れないようにしないと。
あ、でも、滅多に見ることができないすきっ歯な笑顔っていうのも記念になるかもしれない。
タイトル写真は7ドル(日本円にすると940円😩)も払って買うのに、たいていは湿って美味しくなくなってるおかき。
返品するのも面倒なので、いつもトースターで軽く焼いてから食べている。
でもそうするとやけに美味くなって、それがちょっと悔しかったりする。