昨日アカデミー賞の発表を観た。
「パラサイト 半地下の家族」の受賞をライブで喜びたかったからだ。
わたしが韓国ドラマや映画のファンになったのは還暦あたりからだから、かなり奥手だと言える。
それまでは、う〜ん、ここで言うのは恥ずかしいんだけど、昭和のど真ん中生まれのわたしの頭の片隅に、当時の社会に蔓延っていた偏見の根っこが残っていたので、
巷で韓国ドラマのファンが続々と増えてきても、自分は多分観ようと思わないし、ハマるようなことは無いだろうと思い込んでいた。
ところが、日本で1ヶ月近く滞在するというワガママ帰省を始めた3年前の夏に、留守番をさせられてた夫が突如、ある韓国ドラマにハマった。
帰宅早々「絶対に面白いからまうみも観て!」と強力に勧められたのだけど、韓国ドラマの上に字幕が英語で、はじめの1分だけで頭がクラクラしてしまい、観るのを止めた。
それからしばらくの間、やっぱりわたしには無理と思って観ずに過ごしていたのだが、観始めるとその面白さ、役者の演技力のすごさに驚いて、あれよあれよという間にハマってしまった。
だけど、たった一言二言の短い台詞なのに、英語字幕の文字数の多いことったらもう…。
訳してもらっておいて文句を言うのは申し訳ないのだけれど、ネイティブの夫でさえも読みきれない時があるほどなのだ。
そんなだから、わたしが読み終わることができる文章は多分全体の15%ぐらいで、後のはもうそれまでの話の流れと拾い集めた単語と想像力で、わかったような気になるしかない。
なのに次の話が観たくて仕方がない。
うわ〜どうなっちゃったんだわたし?
いやいや、どうなっちゃったんだ?は初老のオバちゃんだけではなかった。
映画やドラマの質にはめっぽう煩くてピッキーな英語人の夫までもが、わたし同様にどんどんハマっていったのにはびっくりした。
こうして、Netflixで始まった我々の韓国ドラマ&映画鑑賞は、有料のサイトVIKIにまで手を伸ばし、今や二人で厳選したドラマを一緒に観る、というのが日課になった。
そうこうしているうちに日本語字幕があるものが見つかり、それを英訳と邦訳で一緒に観ることになった。
夫はリビングのソファに座り、ノート型パソコンからテレビに繋ぎ、テレビ画面で英語字幕に設定して観る。
わたしはコネクティングルーム(今大流行でしょ?このネーミング)の自分のパソコン画面で、日本語字幕で観る。
聞こえてくるのは韓国語なので、夫側のテレビの音声だけを使い、「いっせ〜の〜でホイ!」というかけ声(これはバイリンガルの夫の役目)に合わせて、それぞれの開始ボタンをクリックする。
タイミングはビデオの左右に表示される秒に合わせるのだけど、テレビの音声とわたしの方の画面の口パクが微妙にズレても、速攻的確に直せる技も身に付いた。
とにかく、長々と書いてしまったけど、そんなこんなでいろんなドラマや映画に魅了され、それと共に今までほとんど知らなかった韓国がとても身近になった。
もちろんドラマや映画と現実は違う。
違うけど繋がっている。
もっと繋がりたくなって、とうとう韓国語を学び始めた。
だから今はドラマや映画だけではなく、韓国という国、韓国人のファンになったと言えるかもしれない。
そんなこんなの経緯を経てのアカデミー賞だったので、ポン・ジュノ監督と彼の作品、そして役者たちの演技がアカデミー賞のどこまで食い込むのかが観たくて、テレビの前でワクワクしながら座っていた。
結果は想像以上、脚本、監督、国際長編映画、作品の4つの部門でオスカーを獲った。
アカデミー賞では初めての、英語圏以外の作品の受賞となった。
丁世均(チョン・セギュン)首相の祝辞:
「韓国社会の差別を超える始まりになることを願う」
「ポン・ジュノ監督のオスカー賞4冠王を通じて、韓国社会に存在している1インチ、それ以上の差別と境界の壁を、ともに乗り越える新しい始まりになることを祈願する」
文在寅(ムン・ジェイン)大統領の祝電:
「韓国映画『パラサイト』のアカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞、国際映画賞など、4冠王受賞を国民とともに祝する」
「ポン監督やキャスト、スタッフの皆さんが誇らしい。困難を乗り切っている国民たちに誇りと勇気を与え、特別に感謝申し上げる」
宣政佑さんという方が連続ツイートしておられた内容に感銘を受けたので、ここで紹介させてもらおうと思う。
*宣政佑(Seon、Jeong-U)@mirugi_jp:韓国・日本・その他で漫画アニメ関連を書く仕事等。台湾『CCC創作集』13号寄稿。2019年度「第25回韓国出版評論賞」評論優秀賞受賞
これ↓が第一通目。
以下、書き起こし:(所々、句読点、行替え、文字の強調をさせていただいた)
またしても韓国映画の発展は、韓国が国を挙げて文化を支援したからという言説が、日本に登場。
映画ではないし自治体傘下の頃だから、厳密には国ではないが、その後、国傘下になった漫画支援機関出身として言うが、韓国で、文化が、国支援の「お陰で」発展した事実はない。
むしろ、国の弾圧や、操ろうとする逆境に打ち勝ってきたと言える。
何しろすぐ最近の、朴槿恵大統領の時期の、「文化芸術界ブラックリスト事件」があったばっかりじゃないか。
『パラサイト』の制作会社の、CJの元副会長イミギョンさんだって、そもそもサムスン財閥家の人なのに、朴槿恵に嫌われ一時追い出されていた訳だし。
財閥でさえも例外でなかったのだから、映画監督、俳優だって当然対象で、ポン・ジュノもソン・ガンホも勿論入っていた。
なのに、「国が支援したから韓国映画が発展した」って?
笑わせるな。
監督も俳優も、映画人の誰もが、国の抑圧や社会の不条理にモノを言い、反対し、声を挙げることをやめなかったからこそ、韓国映画は発展したのだ。
私の立場は、国の支援を否定したり、全く必要ないと考える訳ではないが(だから機関にも勤めたのだし)、
それでもまるで、国の支援が韓国文化の発展にとって何か重要な要素であるかのように言われる事は、全く認めない。
それは、私の尊敬する全ての文化人への侮辱だし、いつもその方々から、国の規制や審議に苦しみ、悩む姿を見てきた、聞いてきた身としても、怒りを禁じ得ることが出来ないからだ。
幾つか補足。
韓国政府が映画支援をしていることは事実。
だが、「支援していること」と「そのお陰で発展」は違う次元の話。
少なくない数の韓国の文化関係の人は、「お陰」には同意していない。私も。
また、支援が必要な部分もある。
必要だが商業的ではなく、そのままだと消える文化など。アーカイブもそう。
漫画において、私が勤めた分野もアーカイブ。
映画では、特に韓国映像資料院の仕事は、リスペクトの価値あり。
アーカイブは特に重要で、国の支援が必要な代表的な分野だと思う。
繰り返すが、私は、国の支援を拒否すべきとか、全否定したい訳では無い。
ただ、その「お陰」で韓国映画が発展したという言説は、色んな逆境の中、本当に頑張ってきた人たちへの侮辱になる、と言いたい訳。
また、別に、少数の映画人の特別な成果とも思わない。
多分、ポン・ジュノ監督やソン・ガンホなど俳優も、そんなことは微塵も思わないだろう。
つまりこれは、そんな間違った政府の圧力などに曲げることなく、批判的映画をも作り続けた映画人や、
それを見て評価し、観客数という数値で支持してくれた韓国の映画観客たちのお陰、と言うべきものである。
それを、国の支援とか言われることに全く同意しないってだけの話だ。
それに、色んな逆境や苦労の中頑張った映画人は、日本にもいるだろう。
そもそも、『パラサイト』と同じく、社会の分断と階級の問題を描き、カンヌでパルム・ドールを受賞した『万引き家族』は、つい二年前の作品ではないか。
『パラサイト』で、日本メディアが「韓国の貧困」を語り始めてるみたいだが、まずは自国の映画を評価し、自国の貧困問題について考える方が先ではないか、とも思う。
とにかく、日本には素晴らしい映画文化が存在していたし、今もあると思う。
上記の韓国映像資料院のシネマテークでは、ちょうど10年前、仲代達矢さんを招き、黒澤明特別展を開いたことがある。
あの時、仲代さんのトークがあり、終わった後、サインを求める列が出来た。
私もその列に並んでいたが、必ずしも年長のファンたちだけではなかった。
男女問わず若いファンが大勢並んだ。
他国の名作をリスペクトし、そこから学ぼうという姿勢は、その国の文化が健康である証拠でもある。
韓国の映画ファンは、何十年前の名作のベテラン俳優に十分なリスペクトを持ち、普通にそれらの作品が好きになるくらいの懐を持つ。
国の支援などではなく、そこが韓国映画の力の源なのである。
今回や前の受賞スピーチでも、ポン監督は、アメリカなど他国の先達の監督たちへの感謝の言葉を忘れなかった。
その態度を言っているのである。
あと、イミギョン副会長をそんなに強調するつもりはなかったのに、誤解する反応もあるようだ。
勿論、イ副会長が言うならば、自分の階級に与しない『パラサイト』のような映画を制作し、その過程で内容にはまったく関与しなかった事は、称賛すべきだろう。
だが、そこに留まるだけの話だ。
それ以上のことではない。
むしろそれは、財閥にもその程度の感覚を持たせることの出来る、民衆の力であろう。
韓国の民は、ある程度以上の特権は認めようとしない。
もし韓国文化の強さというものがあるのだとしたら、私は、まさにそこだと思っている。
それは、歴史上ずっとそうであった側面もあるのだ。(ここでその話はしないが。)
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おまけ
今年の冬は小春日和みたいな日と北風びゅうびゅうな日が交互にやってくる。
今夜はびゅうびゅうの日だった。
そういう時は鍋に限る。
つくね団子を作る準備中。
やっぱり団子作り過ぎた…。
家族を呼ぶ寸前に山ほどの菊菜を投入。