ずっとずっと前から行きたいと思っていた、日本野菜だけを作っている鈴木農場。
この農場の苗や野菜を、うちから車で30分ほどのところにあるミツワ(日本マーケット)に行くと必ず買う。
たまに鈴木さんご本人が来られていて、苗の育て方や土作りなどについて質問すると、いつも親切に詳しく教えてくださる。
それで調子に乗って、いつかきっとお邪魔させていただきます!と言うと、いや、けっこう遠いですよと苦笑いしながらおっしゃる。
農場はデラウェアにあるんじゃなかったっけ?
わたしの頭の中の鈴木農場のイメージは、ちょっと車で走ったら行けるデラウェア川沿いに広がる広大な野菜畑だったのだけど、彼の言うデラウェアは川ではなくて州だった。
Googleマップで検索すると、なんと車で4時間近くかかる。
フェリーに乗るコースでもやはり同じぐらいの時間がかかる。
う〜ん…。
それからというもの、行きたい気持ちに蓋をしていたのだけど、突然決めた旅行先がデラウェア州の海だと知って、いやもう行くっきゃないっしょ、となった。
いくら全米で2番目に小さい州だといっても、ここはアメリカである。
恐る恐る検索してみると、なんと車で1時間ぐらいのところだということがわかった。
近所とまでは言えないけれど遠出ではない。
今回、丸一日を旅行気分で過ごせるのは2日間だけだったので、天気予報を参考に、1日目は海に、2日目は農場見学にという予定を立てた。
いざ出発!
高速道路ではなく、両側をほぼ農地に挟まれた道を延々と走っていると、巨大な撒水機(それとも農薬散布機?)が突然ヌウッと現れる
お、だんだん近づいてきた。
あの森の奥に畑がある。
夫が車を運転しながら、この州の木はみんな大きいなと感心するのを聞いてあらためて観察すると、街路樹や家の庭木が神社の御神木のような大木だらけなのである。
うちのカエデの爺さんがちびっ子に思えるほどだ。
ナビゲーションに到着を告げられて、とりあえず車から降りた。
どうしよう、新しい建物を組み立てている職人さん以外誰もいない。
家を出る前に電話したんだけどな。
というか、わたしはかなり動揺していた。
わたしの勝手なイメージの中では、農場の敷地内の一番目に付くところに野菜の即日販売ができる店舗があって、その周りにハウス栽培や畑が点在している、という感じだったのだ。
だけど、いつものわたしの行動パターンを知っているので多分不安になったのか、当日の朝にウェブサイトでしっかり調べた夫は違った。
農場の片隅に建てられた小屋で、あらかじめ注文をしておいた野菜を受け取るということを知っていたし、そうしないと農作業を中断させたり、混乱を招いたりして迷惑をかけることも知っていた。
なので、全く何のコンタクトも取らずに突然お邪魔した挙句に、作業を止めて出迎えてくれた鈴木さんや他のスタッフさんに、畑を見せてくださいと興奮気味にお願いしているわたしを見て、呆然としていたに違いない。
でもそれは全て、後になってわかったことだ。
小屋の中には美味しそうなカボチャがぎっしり。
ネギィ〜〜〜!
ミニトマトを見学しながら、鈴木さんはいろんな話をしてくださった。
トマトのような濃い味の野菜は、水分をあまり与えてはいけない。
だから余計に喉が渇いているので、水分を得るとごくごくと飲んでしまう。
雨が降ったり水やりをしたすぐ後に収穫すると、水くさい味になってしまっているので美味しくない。
なので美味しいトマトが食べたかったら、トマトが水を吸い込む前に収穫しなければならない。
トマトの表面にパックリと割れ目が出るのは喉が渇いているからなのだけど、それはもう味を求める上で致し方がないこと。
雨がなくなって晴れてくると味は戻ってくる。
スイカなども同じ。
味のために乾燥させたり水を与えたりのさじ加減が大切。
きゅうりのハウス栽培。これは6週目。一度アブラムシにやられて収穫ができなくなったそうで、けれども戦いに勝ってまたここまで復活したそうだ。
これは次に収穫するための1週目のきゅうり。作業を引き継がれた小林さんが世話をしておられた。
その小林さんをわたしはずっと鈴木さんのご子息だと勘違いしていた。
うちのきゅうりは新種の害虫にやられて全滅してしまったのですごく羨ましい。
やはりきゅうりはこういうネットを張って育てなければならないのだな。
畑の土は全て栽培前に消毒するのだそうだ。
ヌカを入れ、さらにカルシウムナイトレイトを入れてしっかり耕す。
そこに水をたっぷり張り、ビニールを被せて1ヶ月ぐらい置いておくとメタンガスが発生するのだそうだ。
この作業を、何かを植え付ける前に必ず行う。
うちでもやれるだろうか…いや、来年はやってみよう。
鈴木さんは今年75歳。わたしより10歳年上だ。
畑を見ながらいろんな話をしてくださったのだけど、覚えが悪いので、詳しく紹介されている記事を転載させていただく。
Ken Suzuki
Ken Suzuki was born in 1947 in Gamagori, Aichi Prefecture as the oldest brother of seven. After graduating from an agricultural high school, he passed a chick se...
Suzuki Farm
鈴木健さんは1947年、愛知県蒲郡市に7人兄弟の長男として生まれた。
農業高校を卒業後、ヒヨコの性別鑑定試験に合格し、1974年に渡米、ヒヨコの性別鑑定士として働く。
渡米当初は、新鮮でおいしい日本の野菜が手に入らなかったという。
その解決策として、趣味の小さな庭で自分で野菜を作り始めた。
これが鈴木農場の始まりだ。
農業の経験はなかったが、健さんは試行錯誤しながら農法や農場経営を独学で学んでいった。
デラウェア州の気候は日本の北部に似ているが、冬は厳しいことを知った。
作物を寒さから守るための対策は万全だった。
しかし、冬のある日、気温が14度以下になると、野菜は全滅してしまった。
夏のある日、ウサギが枝豆を一列全部食べてしまった。
農業は自然との戦いの連続であり、作物は常に危険にさらされていることを学んだ。
農場の移転を余儀なくされるなど困難な時期もあったが、東海岸で唯一の日本野菜生産者としての誇りと責任感が彼を支えた。
現在では年間を通じて、30種類以上の日本野菜を栽培している。
鈴木さんの日本野菜に対する努力と情熱は、ワシントン・ポストなどのメディアでも取り上げられ、広く認知されている。
鈴木農園の繊細でジューシーな野菜は、ワシントンD.C.、ニューヨーク、ニュージャージー、フィラデルフィアの多くの日本食レストランやスーパーマーケットで高く評価されている。
健さんは現在70代だが、1年中、毎日長時間働き続けている。
朝7時に農場に入り、夜遅くに帰宅するのが日課だ。
一株一株、丁寧に手入れをし、必要であれば刈り込みをする。
ミントやニンニク、酢などの農薬も自家製で、自然栽培にこだわっている。
この数年、健さんは、自分の作った野菜をより多くの人に食べてもらうためのアイデアを模索し、農園の後継者探しもしていた。
そんな中、北海道らーめん山頭火のフランチャイジーであるFood's Style USA, Inc.の米田淳と出会い、同じ志を持ってビジネスに取り組んでいることを確信したのだという。
2021年、健は農業事業を、日本の伝統的な食文化を世界に伝えるプラットフォームを提供することをミッションとするFood's Style USA, Inc.に譲渡することを決意する。
アメリカでは日本食が大変な人気となっている。
両氏は、Food's Style USAが、レストラン運営で培ったノウハウや自社店舗・資産を活用することで、大きな相乗効果を生み出し、鈴木牧場のさらなる拡大につなげていくことができると考えている。
というわけで、わたしはギリギリ間に合ったようだ。
鈴木さんは、自分はもう75歳で、こういう作業を続けるのは本当に大変になった。
今は引き継ぎをきちんと済ませるためにここに居る。
ただ、農業の厳しさを知って、その上で頑張り続ける強い意志を持つ若い人たちがなかなかいないので困っている。
農作物の手入れや収穫の際の細やかな注意事項を伝えても、それに従ってもらえないことも少なくない。
というような話もしてくださった。
良いものを作ることに人生をかけてこられた方だからこそ、その思いを理解し、しっかりと受け継いでくれる人を欲しておられるのだと思う。
農地は全部で約30エーカー、作業は手作業が主で、日本の農機具を使って行われている。
ナスビ畑
多分ニガウリ畑
小屋に運ばれてきた採れたてのニガウリとシシトウ
販売を任されている方(お名前は多分SUDAさんかTSUDAさん)が農場に戻って来られたので、鈴木さんにお礼を言って小屋に入った。
販売できる野菜を教えてもらい、そこから選んだものを集めに行ってもらう。
鈴木さんが、「普通はまずウェブサイトで注文を受け、それをもとに準備した野菜を購入してもらっている」とおっしゃった時、夫がボソボソと「僕はそのことを知っていたんですが、彼女に伝えてなかったんです」と言って恐縮していた。
小松菜、水菜、とうもろこし、ナスビ、きゅうり、万願寺とうがらし、枝豆、ニガウリ、カボチャを注文した。
小松菜と水菜は束が小さいのでと、一束ずつおまけしてくださった。
枝豆も袋にぎゅうぎゅう詰めで、持つとずっしりと重い。
箱に入り切らないほどのたくさんの野菜に、おまけですと言って大きなトマトを二つ加えてくださった。
それで60ドルだとおっしゃる。
え?そんな安くていいのかな?と思ったけれど、財布の中を確かめてみると、50ドル札と20ドル札が何枚か入っていて、なぜかその時、こんなに安くしていただいているのだから、70ドル払わせてもらおうと考えなかった自分を後でどれほど後悔したか…。
夫に10ドル札ある?なんて聞いて、きっちり60ドルだけ払い、今日は本当にありがとうございました〜お邪魔しました〜と明るくお礼を言いながら農場から出た。
すると夫が、今日まうみは彼らの仕事を邪魔しまくってたこと分かってる?と言い出した。
それに、あれだけたくさんの野菜を、しかも注文した倍の量を入れてもらったりして、それで言われた額しか払ってなくて、一体どういう神経してんの?
いやもう恥ずかしいやら申し訳ないやら、帰りの道中はドツボにハマってしまい、それまでの興奮も感激も一気に萎んでしまった。
夫の言う通りだ。
わたしはなんと考えの無い浅はかなことをしてしまったんだろう。
今から引き返して10ドルでも20ドルでも払いたかったけど、そんな変なことはできない。
なのでお詫びのメールを書いた。
これからもずっと鈴木農場の野菜を、ネット注文やスーパーなどでの購入で応援します。
今日は本当にご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。
まあ、こんなことで済まされることでは無いのだけれど、それ以外の方法が分からない。
家に戻ってさっそく水菜サラダを作っていただいた。
シャキシャキとした歯応えと新鮮さがたまらなく美味しかった。
今回農場でお会いして、散々ご迷惑をかけてしまった御三方。
今度お邪魔する時は、邪魔にならないように気をつけます!
本当に何から何までありがとうございました!
みなさんも、この鈴木農場のお野菜をぜひ応援してください!
1983年、デラウェア州デルマーに設立された鈴木農園は、東海岸で唯一の日本野菜の生産者です。
28エーカーの広大な土地に、季節ごとにさまざまな日本野菜が育っています。
鈴木農園では、年間を通して30種類以上の野菜を収穫しています。
アメリカでは数少ない、日本人農家が経営する農場です。
私たちのこだわりは、野菜の鮮度です。
収穫、梱包、発送をその日のうちに行うことで、最短でお客様のお手元にお届けすることができます。
野菜の種は日本から人気の品種を厳選しています。
日本の農機具をできるだけ活用し、手間ひまかけて野菜を育てています。
私たちが日本から仕入れる野菜の種は、検疫検査に合格する必要があります。
検疫検査に合格するためには、種子を消毒する必要があります。
そのため、私たちの野菜はオーガニック認証を受けていません。
しかし、野菜を育てる過程では、農薬は一切使用していません。
害虫駆除には、にら、せり、よもぎ、ねぎ、ねぎまなどの植物性エキスや、ピロリ菌、消毒剤などの認証品を使用しています。
だから本当に美味しいんだなあとしみじみ思います。