ドイツZDF「フクシマの嘘 其の参』 (其の弐の強化版)を、紹介させていただきます。
このブログでも、以前紹介させていただいたことがある「フクシマの嘘 其の弐』に、約15分間分の新しい内容が追加され、43分になってます。
翻訳と文字起こしに要する膨大な作業に敬意を込めて、文字の打ち直しをしながら転載させていただきました。
(文字の強調と、文章の若干の推敲は、わたしの考えで行いました)
自分の目で読み、耳で聞き、そしてよく考えてください。
VIDEO
福島第一原発。
事故発生から三年が過ぎたが、今でも緊急事態のままだ。
2020年に、日本は、オリンピックを開催することになった。
そして
日本政府は、世界を安心させようと必死 だ。
日本総理大臣 安倍晋三
「私から保証をいたします。状況は統御されています」
首相の発言がどこまで信用できるのか、われわれは調べることにした。
調査を進めていくと、
犯罪社会の心臓部に、導かれていった 。
「ヤクザの手先が人を集めて、福島に派遣しています」
私たちは、
事故の被害が隠ぺいされ、黙殺されていることを突き止めた 。
事故のあった原子炉から、離れた場所にいる、科学者たちを訪ねた。
「
高濃度に汚染されたホットスポットや、放射性物質が溜まる場所を、発見しました 」
すべてがコントロールされているというのは、本当なのか?
京都大学原子炉実験所・小出裕章:
残念ながら、
『アウト・オブ・コントロール』 ですね。
そして、
なにもコントロールできていないので、放射性物質は環境に漏れ、放射能汚染が日々広がっている のです。
フクシマの嘘 第2弾
双葉町。
ここは、福島第一原発と、目と鼻の先にある。
特別許可を得ないと、数時間の滞在も許されない。
双葉町は、いわゆる警戒区域である。
ここにはもう、
誰も住めない、おそらく、もう永遠に 。
町の中心にかかっている標語。
「原子力 明るい未来のエネルギー」
まったく別の時代につくられた言葉だ。
井戸川克隆氏、双葉町の町長だった。
古い武士の家系出身で、先祖代々500年以上、ここで暮らしてきた。
誇り、誠実、責任感といった徳が、何百年にわたって、家族で受け継がれてきた。
双葉町元町長・井戸川克隆:
井戸川家の跡継ぎということは、 私は、井戸川家の墓守なのです。
私には、ご先祖様の墓を守り、世話をする義務があります。
そしてこの義務を、次の世代に、受け継いでいかなければなりません。
しかし、こんな状態では、もう誰にも引き継いではもらえません。
井戸川美紀子:
妻として、私は、死ぬまで先祖に、礼をつくすつもりでした。
それがもうできないというのは、胸が引き裂かれる思いです。
戦争、地震、津波といった災難を、井戸川家は乗り越えてきた。
しかし、何百年と続いた後で、この家族の歴史は今、ここ双葉で終わろうとしている。
誰も、原発事故とそれが引き起こした出来事の責任を、取ろうとしない 。
「まったく恥知らずばかりだ」 、と彼らは語る。
井戸川克隆:
日本では、東電が好き勝手にしたい放題で、自分たちのことしか考えていません。
政府はそれを、そのままに放っておきます。
政治家は、原発ロビーのいいなりです。
私は、それを世界中の人々に知っていただきたい。
郡山 。
フクシマの
事故現場から、55キロのところ にあり、20キロの立ち入り禁止地区からは、大分離れている。
教師・根本淑栄:
私は毎日、放射線の線量を測定しています。
ここは、子供たちの通学路なのです。
それで、原発事故のあと、測定を始めました。
事故が起こる前は、測定などしたことがありませんでした。
根本淑栄さんは学校の先生で、一人息子の母親だ。
彼女が、立ち入り禁止地区からこれだけ離れた場所で、放射線測定を行うのには、理由がある。
ここには、
立ち入り禁止地区よりも、線量の高い場所がある のだ。
根本淑栄:
子供が小さかったころ、みんなよく、この近所で遊んだものでした。
この場所が、どこも汚染されていると思うと、とても悲しくなります。
できるだけ見ないようにしています 。
だって、
とても我慢できないから です。
いつも泣きそうになってしまいます。
このことは、
まったくマスコミでは報道されません 。
ここは、
あらゆる問題を抱えて、悩んでいる人ばかりですが、でも、誰もここに来て、どうしているかと聞いてくれはしません 。
ですから、
私たちはもう、忘れ去られているのだと感じています 。
現実に向き合おうとするのは、本当につらい です。
浪江町 。
福島第一原発から14キロのところ にある。
畜産農家の吉沢正巳氏は、ここから避難するのを拒否した。
畜産農家・吉沢正巳:
私は牛飼いですからね。
私は牛抜きでは暮らせない。
350頭の牛と、私は運命を共にしたいのです。
牛も被爆し、人間もまた被爆します。
よく、「どうしてそんな危険なところに?」と聞かれます。
私はもうすぐ60になるんですが、被爆で寿命が短くなるとは思っていません。
でも、牛を見捨てるわけには絶対いきません。
経営者が避難して、ここを離れていった後、吉沢さんは、牛の世話を受け継いだ。
牛を放っていくことは、どうしてもできなかった。
動物の多くに、しかし変化が見られる。
吉沢正巳:
牛に現れた変化を、国に検査してもらったんです。
これが結果なんですが、私は、これは被爆の影響だと思ってます。
黒い和牛に、こうして突然、白いまだらの斑点模様が、いっぱいできたんです。
政府はそれを検査した。
吉沢正巳:
だけど「わからない」、と言うんですね。
こういう症状が出ているということはわかっても、原因はわからない、と。
福島の原発事故によって引き起こされた影響が、あらゆるところで出ている。
しかし、破壊した原子力発電所自体では、今まだ、どのような危険が進行中なのだろうか?
大阪にある、京都大学の原子炉実験所。
私たちは、小出裕章氏に取材した。
小出氏は原子力物理学者で、40年以来、ここで研究している。
原発事故発生以来ずっと、彼は、その進展を見守ってきた。
「
政府や原子力業界が発表しているのより、ずっと状況はひどい 」と彼は言う。
京都大学原子炉実験所・小出裕章:
残念ながら、
「アウトオブコントロール」と言わざるを得ません ね。
そして、
なにもコントロールなどできていないからこそ、放射性物質が外に放出され、放射能汚染が毎日広がっている のです。
コントロールできていない?
日本だけでなく、世界も変えてしまうかもしれない場所 。
いまだに、
広島の原発の1万倍以上という、放射能が潜む場所 。
小出氏は、首相の発言に、鋭く異議を唱える理由を、説明してくれた。
小出裕章:
1号機から3号機まで、メルトダウンしてしまいましたが、その
溶けた炉心がどこにあるのか、わからない のです。
この
炉心は、冷却しなければいけないので、水を原子炉建屋に注入しています 。
しかし、
溶けてしまった炉心に水をやっているので、水は放射能で汚染されます 。
それは変えることができません。
そして、
建屋には、ひびや割れ目がたくさんあるので、そこから地下水が入ってきています 。
東電は、
その水を、循環回路でさらに利用するので、一時的にタンクに貯蔵する、といっていますが
もちろん、水を全部くみ上げることは不可能 です。
福島第一原発の敷地はもはや、『放射能の泥沼』と化してしまった のです。
付近の井戸からは、高濃度の放射性物質が、検出されました。
もちろん、その一部は海に流れ出ているわけです。
数階分が水浸しになっている 。
そして、
その下のどこかに、溶けた炉心がある 。
つい最近も、
建屋周辺にある観測井戸で採取した地下水が、1リットル当たり500万ベクレル のストロンチウムに汚染されている ことを、
東電が知りながら、半年も隠していた ことがわかった ばかりだ。
今でも
毎日、200トン以上の高濃度の汚染水 が、太平洋に流れ出ている 。
それに加え、毎日40万リットルの水がくみ上げられ、このようなタンクに貯蔵されている。
今では、
こうした汚染水が、4億リットル もある 。
これまでに、すでに何度も、問題や水漏れが起きている。
東電が、経費節約のため、放射性物質の貯蔵に適していないタンクを、選択したから だ。
小出裕章:
日本政府は、これまでに放出された放射線量は、概算して、およそ広島の原爆の168個分だけだ、と言っています。
チェルノブイリ事故で出た、放射能の5分の1だと。
しかし
福島からは、汚染水が、常時、海に排出され続けている のです。
環境に放出された放射線の総量は、すでに、チェルノブイリと同じ程度 だ、と私は考えています。
そして
現在でもまだ、事故は進行中 です。
しかしどうして、これほどの事態になってしまったのだろうか?
東京で、私たちは、馬淵澄夫氏と会った。
彼は、事故発生当時大臣を務め、事故の対応担当者として、事態収束に取り組んだ人物だ。
彼は、事故発生直後に、最悪事故の規模に関し、東電が真実を隠しているのではないか、という疑いを持ったという。
菅政権(2010年~2011年)内閣総理大臣補佐官・馬淵澄夫:
「
放射能に汚染された水が漏れているか 」という質問をすると、東電は、「
水は漏れていない。そんなことはありえない 」と答えました。
「
地下水はどうなっているか 」と聞くと、東電は、「
心配は無用だ 」と答えました。
でも、それは疑わしく思えたので、地下水の検査をするよう命じました。
東電が嘘をついていた ことは、すぐに明らかになった。
産業界と科学者による、馬淵氏の専門家チームは、
毎日数十万リットルの地下水が、福島第一の方に流れ ていることを突き詰め、
その地下水がそこで汚染され、さらに、太平洋へと流れ出ることを懸念した。
馬淵澄夫:
それで、一刻も早く食い止めなければならないと、急ぎました。
ゆっくり構えている暇は、まったくなかったのです。
それを早く食い止めなくてはと、
事故発生後から約3ヵ月後に当たる、2011年6月14日 、
馬淵氏は、記者会見で、彼の計画を発表することにした。
福島第一を取り囲む遮水壁を、地下に建設する 、という計画だ。
しかし東電は、それに反対した。
東電が、記者会見予定の前日に作った極秘書類を、ZDFが入手したが、このようなことが書いてあった。
わが社ではちょうど、有価証券報告書の監査期間中であり、
遮水壁を建設するということになれば、その建設費用の記載も求めることになる」
しかしそうなれば、市場は、激しい反応を見せることになるだろう。
わが社が、債務超過に一歩近づくと思われてしまう。
それだけは、ぜひ回避したい。
その陰では、かなり厳しいやり取りが行われた。
計画された記者会見は行われず、今でも、福島第一原発の周辺に、遮水壁はない。
馬淵澄夫:
要するに
東電は、遮水壁の費用を、一切出したくなかった のです。
彼らにとって、都合の悪いことを言っていた私を、退任に追い込んだ のです。
馬淵さえいなければ、と彼らは思ったのでしょう。
馬淵がいなければ、馬淵チームもなくなる、と。
私だけでなく、チームが全員いなくなりますから。
その陰では、強力でつかみどころのない、
産業、銀行、政治家、官僚、科学者、そしてマスコミによる、
日本の原子力ロビーが、ありとあらゆる方法で、糸を引いていた 。
事故発生後、
いわゆる原子力ムラと呼ばれている勢力と対立した当時の首相も、辞任に追い込まれた 。
管元首相もさんざん、誹謗・中傷を受けたが、後日、これらの非難はすべて、当てはまらないことが判明した。
事故発生から3年後、その彼が、激しく非難を展開している。
2010年~2011年総理大臣・管直人:
背景にあったのは、いわゆる原子力ムラが、私をできるだけ早く、首相のポストからおろせ、ということでした。
これは、まったくの陰謀でした。
私は、そう受け止めています。
そして
原子力ムラは、あらたな看板役を見つけた 。
現在の総理大臣、
安倍晋三である 。
安倍首相は、2020年のオリンピック開催権獲得に向けて、世界に対してこう宣言した。
日本総理大臣・安倍晋三:
フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。
状況は統御されています。
管直人:
現在の政府は、
再び、「原子力ムラ」の人物を、諮問委員会に送り込んで います。
これらの人物は、原発の新設を推進したい人物です。
巻き返しが、すでに始まっている のです。
私たちは、あるホテルで、放射能物質除染の専門家に、話を聞いた。
彼は、ある大きな研究所の、責任者だ。
そのホテル、町、大学の名前、彼の研究内容も、彼の素性が推理できる手がかりとなるもの一切を、伏せてほしいと言われた。
それには、理由がある。
放射能物質除染の専門家:
去年の10月始めまでは、かなり自由に、意見を述べても平気だったのですが、
ある時から、
公的機関から指示 が出され、「
テレビに出演してはいけない、マスコミと一切、接触してはならない 」と言われました。
オリンピックの開催地として候補するにあたり、安倍首相は、フクシマの状況はコントロールされている、と言いました が、
その後、指示が来て、研究結果を、もう絶対にマスコミには公表するな 、という のです。
その研究結果というのは、いったいどのようなものなのか、訊ねた。
放射能物質除染の専門家:
基本的には、福島第一原発の事故後の状況に関する、一切のデータです。
私たちは、現場サンプルを採集し、汚染を検査しています。
実際にはなにも、コントロールなどできていない のです。
その指示に従わなければ、研究プロジェクトの予算がカットされ、彼の元で働く研究員たちが失業することになる。
不安、恐怖を育む土壌。
そして彼は、「
日本のマスコミは、このテーマには怖がって触れようとしない 」と、別れ際に語ってくれた。
私たちは、京都大学の、
水文水資源学会 の山敷庸亮氏の、
研究調査 を取材した。
山敷氏たちは、
河川や海の放射線汚染が、どのように広がっているかを調査している 。
東電や政府は、かねてから、
水での汚染は、原発周辺の地域に限定されている 、と主張してきた。
山敷氏率いるチームは、
事故のあった福島第一原発から、80キロ 離れた仙台湾で、土と海水を採取 した。
原発から、これほど離れた場所で調査をするのは、これが初めてのことではない。
そしてその結果は、衝撃的だった。
京都大学水文水資源学会・山敷庸亮:
始め私たちは、放射能汚染は、フォールアウトした場所と、原発の水漏れのあるところに限られているのだ、と思っていたのですが
実は、
阿武隈川流域一体で、汚染が進んでいる ことが、調査で判明しました。
私たちの計算では、
阿武隈川を通じて、1年に約10兆ベクレル の放射性セシウムが、太平洋に放出 されています。
この量は、
原発事故直後に海に流出した量と、ほぼ同じ です。
山敷氏の調査結果は、
阿武隈川が、事故のあった原発から遠く離れているだけでなく、直接なんの接触もない はずだけに、かなり衝撃的だ。
それなのに、
河床は、高濃度の放射性セシウムによる汚染がある ことを、はっきり示している。
理由は、
雪解け水と雨により、フォールアウトした地域から、放射性物質が洗い流されることによる 。
それが、小川や支流を通じて、阿武隈川に流れ込み、最終的に海へと運ばれていくのである。
しかしそれはまた、
これから何十年にわたり、放射性セシウムが、食物連鎖に入り込んでいくことを意味している 。
誰も気にも留めない、原発事故現場から遠く離れた、この汚染源 を通じて。
山敷庸亮:
ここ2、3年はもう誰も、このテーマに関心を示そうとしません。
政府も地方行政も、
市街の除染をやることが一番の関心事で、海への流出に関しては、注意を払いません 。
これらの事実は、すっかり無視されています 。
日本政府は、事故のあった原発周辺一体での、魚の捕獲を禁止している。
しかし、
80キロ北上したここ(仙台湾) では許されている。
京都大学、その1週間後のことだ。
山敷博士は私たちに、河口デルタ地域の、泥土サンプルの分析結果を見せてくれた。
海流と地形によって、放射性セシウムによる海の汚染の影響は異なるが、何箇所かで、値が非常に高くなっている。
Q:
それで、状況はコントロールされているのでしょうか?
山敷庸亮:
いいえ! 難しいですね。
分析結果はさておき、これは基準値の問題 なのです。
日本政府は、新しい基準値を設定しました。
それによれば、
1キロ当たり、8000ベクレル 以上が危険 、ということになっています。
これには驚きました。
なぜかというと、
事故前の基準値は、1キロ当たり100ベクレル だったからです。
それで、私たちが分析した値を、もう一度よく見てみてください。
どれも、8000ベクレル以下です。
それで、
誰もが大丈夫と思って、忘れ始めている のです。
しかし私自身は、
この汚染は実は、非常に高い と思っています
このことに、世間はもっと、注目すべきです。
けれども、
誰も、この結果に関心を寄せないので、政府もなにもしない のです。
このような子供だましのトリックで、政府は問題を解決しようとしている のだ。
基準値をあげれば、問題は消え、誰も心配する必要がなくなる 、というわけだ。
去るもの日々に疎し、ということか。
私たちは、浪江町で、牛の飼育をする吉沢正巳さんの農場に戻った。
今ではここは、牛のホスピスとなってしまった。
ここで育てられた牛は、かつてはよく売れ、繁盛した。
しかし、2011年3月に原発が爆発して以来、それは過去のものとなり、牛は売れなくなった。
吉沢氏に、その理由を見せてもらった。
吉沢正巳:
牛たちは、ここにあるこういう草を食べていますからね。
放射能に汚染された草を、1年中食べているんです。
放射能が体内に取り込まれているから、白い斑点ができたんだと思います。
牛たちは、外部と内部被爆にさらされているわけですから。
この犬だって、被爆しているわけですよね。
吉沢氏には、動物たちを見捨てることはできない。
自分は、外からの食料で賄っているが、牛たちの食費は、支持者たちから寄せられる寄付金だけでは足りない。
放射能で汚染された食物が、どのような影響を与えるのか、牛を検査して調べることができるはずだ。
吉沢正巳:
こういう模様ね、こういう白い斑点が出ています。
Q:
こういうのは、前にはなかったんですか?
吉沢正巳:
初めてですね。
もう40年も牛を飼ってきましたが、こういうのは初めてです。
Q:
理由は何だと思いますか?
吉沢正巳:
獣医も、これは皮膚病ではない、といっています。
これは皮膚の病気ではなくて、ほらここ、肌が真っ白になっているんです。
どうしてそうなったかといえば、それは...…。
もう長いこと牛の世話をしてきましたけど、こういうことは初めてのことでね。
放射能の影響ということを、考えないわけにはいきません。
でないと、理由は多分、見つからないでしょう。
その周辺の村などでも、農家で、同じような原因不明の現象が、動物に現れている。
行政からは検査が命じられ、そのあとで、緊急な勧告が下りた。
吉沢正巳:
政府も、何もしなかったわけではありません。
2回ほど、科学者が派遣されてきて、あらゆることを調べていったんですが……。
それから、
政府は私に、牛を全部殺すように、と言ってきました 。
これ以上生かしておいては困るから、私に殺せと。
だけど、私にはそれはできません。
どうして、
政府が牛を生かしておきたくないか 、その理由は、
記録を残しておきたくない んだと、私は思っていますね。
だから、牛を殺せ、ここを片付けろ、と言うのです
しかし、被爆するのは動物だけではない。
双葉町に戻った。
ほぼ1万人の住民が、ここには住んでいた。
そのほとんどが、原発に従事していた。
今ではここは、原発事故による立ち入り禁止地区だ。
原子炉建屋が爆発したとき、たくさんの人が、高線量の被爆をした。
井戸川元町長も同じである。
井戸川元双葉町長:
私たちはちょうど、避難する最中でした。
病院の患者と看護婦たちが、ちょうど車に乗ったときです。
そのとき、バーンという大音響がして、それが1番目の爆発でした。
すぐに、空からたくさん埃が降ってきました。
あのときの線量は、非常に高かったと思うんですが……。
もう、すぐに死ぬと思いましたね。皆、そう思ったんです。
事故発生後初めて、井戸川夫妻は、自分たちの家に戻った。
彼らは、除草剤を持参した。
ここにはもう住めない、ということが、彼らにはまだ、納得できないのである。
ついこの間までは、この、東京近郊の学校の建物が、彼らの避難場所だった。
ここに、約千人の被害者と、寝起きを共にした。
井戸川氏は、
爆発後、放射性の埃を吸い込んで以来、のどの痛みを訴え、繰り返し鼻血を出し、胃や目が痛み、そして疲労感に苦しんでいる 。
彼は、
爆発直後、被曝量の測定をせずに済まそうとしていた官庁に、測定をするよう迫った 。
結果は、数十万ベクレルのヨウ素131と、セシウム137だった。
しかし、
測定は、測定だけに終わった 。
それが何を意味するかについては、なにも知らされない 。
井戸川元双葉町長:
福島大学病院では、「放射線で健康被害を受けた人は誰もいない」 と言う んですね。
しかし私たちは、事故が起きた時すぐそばにいて、放射能を直接浴びたわけですが、
医学的な検査を、なにも受けていない のです。
今だになんの検査もされていない のですよ。
私は、
真実を知りたい のです。
そして、
それに従った手当てを受けたい のです。
これは、2011年に、福島で行われた説明会で撮影されたビデオだが、
これを見ると、日本が、公に、健康の危険に関する評価として、どのような立場をとっているかが明らかになる。
山下教授は、政府に任命された、福島の放射線健康リスク管理アドバイザー だ。
放射能の影響は、ニコニコ笑っている人には来ません。
くよくよしている人に来ます。
これは、明確な動物実験で解っています。
井戸川元双葉町長:
日本政府は、非人道的 です。
それを私は、確信しました。
まったく情ないことです。
国民が、ことごとく馬鹿にされている のです。
いろいろな感情がこみ上げてきますが、一番強いのは、激しい怒りです。
大人と違い、子供を持つ親の要請で、子供たちには医学的な検査が行われている。
すでに、地域の子供、若者たちの30万人以上が、甲状腺のスクリーニング検査を受けた。
「笑っている人には放射線の被害は来ない」と言った、福島県の放射線リスクアドバイザーの山下教授も出席し、
検査結果が、規則的に間をおきながら、発表される。
結果は衝撃的だ。
いくつかのカテゴリーに分類されているが、
検査を受けた子供たちの約50% に、甲状腺異常が検出されている 。
小さい結節や、のう胞からガンまで、さまざまなケースがある。
親には、自分の子供がどのカテゴリーに分類されたかを知らせる、手紙が届く。
根本氏のところにも、それが届いた。
しかし、それには問題点がある。
根本:
これだけでは、なにもわからない のです。
『8ミリから20ミリの結節』と書いてあって、一番下のカテゴリーだ、というのですが、
数字しか書いてなくて、 でも私は、
それがどういう意味なのかわからない 。
それで、
どのような状況にあるのかを説明してほしい のです。
でも、
検査結果は渡してくれない のです。
それで、
わざわざ、申込書を提出しなければなりません でした。
数ヵ月後にやっと、コピー代を払って ようやく、根本氏は、
超音波写真を含む検査結果を受け取った 。
この
結果だけを見ても、なにもわからない ので、彼女は病院に行き、
彼女の息子は、そこで、2度目の検査を受けることになった。
しかしそれは、
放射線リスクアドバイザー山下教授が出した規則に、反している 。
根本:
病院から、
検査をこの病院でやった、ということは黙っていてほしい、と頼まれました 。
ですから、
検査をしてもらった病院と医者の名前は、言うことができません 。
というのは、
一番下のカテゴリーに分別された症状を持つ子供たちは、
2年後でないと、次の検診を病院で受けられないことになっている 、からである。
それが、
山下教授による指示 なのだ。
根本:
どうしてそのようなことをするのか、私にはわかりません
ですから、
政府や県のやり方に対する不信感は、募る一方 です。
自分たちが、何を本当にしているのか、知られるのがいやなんだと思います ね。
しかし、2回目の検査をして、根本氏は少し安心した。
結節が小さくなっていたからである。
しかし、心配はなくなってはいない。
放射能による汚染は、まだ続いている からである。
根本:
薪ストーブに使っていた木 なんですが、
燃やしたあとの灰を測ってみたら、1万5千ベクレル だった のです。
それで、薪はもう使えなくなりました。
それ以来、ずっとここに置いてあるんですが、これをどうしていいかわからないんです。
高濃度放射能のゴミが、自宅の庭に 。
困った彼女は、町の役所に聞いてみた。
根本:
役所に電話をして、聞いてみたんですが、環境省に聞いてみろ、と言うんです。
それで、環境省に聞くと、今度は「市役所に聞け」と言う。
もうどうしていいかわからない、そういう状況です。
そして、彼女が連れて行ってくれたのは、町のある公園広場だ。
ここは、特別な場所である。
原発事故発生後、日本では、あらゆることがもう普通ではなくなったことが、ここにいるとはっきりする。
根本:
ここは、たくさんの子供たちが遊びに来る場所です。
2011年の事故発生後に、除染が始まったとき、
放射能のゴミがこの公園に埋められた んです。
大きな機械を運んできて、穴を掘り、そこに、
除染作業でできた袋詰めの放射能のゴミを何個も寝かせ、また上から土をかけた のです。
最初は彼女も、
なにをそこに埋めたのか、知らなかった という。
しかし、それがとうとうわかったとき、根本氏は、
このような場所が町のどこにどのくらいあるのかと訊ねた 。
根本:
「風評被害があるといけない」 また
「廃棄物の不法投棄が増えるといけない」 という理由で、
教えてくれませんでした 。
市が、どこに埋められているか知っていれば十分で、市民は知る必要がない 、と言われました。
放射能のごみを公園に埋め、それは誰も知らない方がよい 。
子供たちの遊び場には、一応、立ち入り禁止のロープが張られている。
芝生養生中のため、という理由で、立ち入り禁止の立て札が立っている。
ドイツの諺にあるように、草がおおい茂れば、すべて忘却の彼方、ということか。
仙台駅。
私たちはここで、福島の除染作業員を集めていると聞き、やってきた。
3晩かかって、やっと接触に成功した。
取材に応じてくれるよう彼らを説得するのは、とても難しい。
危険だからだ。
除染作業員:
もちろん危険です。
彼らの商売に影響を与えるから。
これは、
何十億という金のかかった『利権』 である。
ある地方一体を、除染する作業だ。
福島県の大部分は、
高線量のフォールアウトのため、住むことができない 。
政府はそれを変え、住民に帰還させたい と思っている。
しかし、そのためには、
数百万立方メートルという汚染された土を、剥ぎ取らなければならない 。
福島県のいたるところで、土が掘られ、パワーショベルが動いている。
この危険な作業に携わる労働力が、たくさん必要だ。
そして、ここで活躍するのが、やくざである。
Q:
商売は、どのように行われるんですか?
除染作業員:
やくざ自身は、現場での作業には関わりません。
彼らの手先である組織が、人集めをして、作業員を福島に派遣するだけです。
Q:
どうやって、どういう人を集めるんですか?
除染作業員:
借金のある人、または失業者などですね。
仙台の駅周辺で、彼らは、仕事の口があるよ、と声をかける のです。
ただ、
実際に金を受け取ってみると、約束した額よりかなり少ない のです。
Q:
で、どれくらい受け取るものなんですか?
除染作業員:
日取りで5千円から9千円、といったところですが、
そこから1割から2割が、やくざにピンはねされます 。
やくざが、
ことに好んで雇うのは、ホームレス だ。
「それには理由がある」と、今井誠司牧師は語る。
今井牧師は、何年も前から、仙台のホームレス支援組織で働いている。
原発事故発生後、ホームレスの数は、著しく増加したという。
何十万人という人が、地震、津波、原発事故で、一切合財を失ったからだ。
今井誠司牧師:
ホームレスには、職も、住所も、住民票もないので、それで普通の仕事の口はありません。
しかし、原子力業界では、仕事がもらえるのです。
例えば、除染作業や、原子炉の収束作業などです。
どれもとても危険で、誰もやりたがらないからです。
それで、弱い者が、こうして雇われていくのです。
やくざに雇われ、彼らが行き着くのは、危険な場所にある下請け会社 である。
住む場所も家族もなく、また、
福島にいたということがわかると、ほかの仕事にありつけなくなるという不安がある ことが、
原発産業にとって 、皮肉にも
好都合な効果を招いている と、今井牧師は語る。
今井誠司牧師:
実際に病気になっても、証拠がありません 。
彼らは「いや、福島にいたことはない」と言いますから。
彼らは、嘘をつかざるを得ないのです。
そしてもし、ガンになることがあっても、彼らがそこいにた、という証拠はありません。
まったくひどいことです。
大事なのは金のことばかりで、人間のことはどうでもいい のです。
いつも金の話しばかりです。
私たちに情報を提供してくれた人も、やくざの手先として働いていたが、足を洗った。
もう、福島で働きたくない、と思ったからだ。
しかし、
沈黙を破るのは非常に危険 だ、と彼は言う。
情報提供者:
顔や姿を見せるのは、とても危険です。
Q:
どんなことが起きるのでしょうか?
情報提供者:
恐ろしいことをするだろうね。
殺しはしないまでも、思い知れという、かなりの戒めが待っているだろう。
きっと拉致されて、暴行されるだろう。
危険な仕事を引き受けるホームレスは、いつか死んでも、死を悼んでくれる人もいない。
原子力ムラに対立した総理大臣や大臣は、辞任に追い込まれ、科学者たちに圧力がかかり、事故の真実を隠蔽する - いったいどうしてなのか?
私たちは答えを求めて、福島県の隣にある、新潟県を訪れた。
ここには、
世界最大の原発 がある。
日本が自慢とする、この原発設備が建つのは、新潟市の中心街から目と鼻の先だ。
福島の原発事故以来、運転が停止されている。
東電と政府は、この原発を再稼動したい と思っている。
原子力発電をまた復活させるには、この原発が、中心的な役割を果たしているから だ。
私たちは、新潟県知事に取材した。
この知事は、今までは、政府与党である自民党に支持を受けていたが、それは取り消されることになるかもしれない。
それは、この知事が、再稼動を拒否しているからだ。
新潟県知事・泉田裕彦:
現在の
「東電再建計画」では、事故があった場合に、銀行も株主も、責任を取らなくていい ことになっています 。
そう計画書で、設定されているのです。
もし事故が起きれば、
そのしわ寄せは、またみんな、国民に来る のです。
しかし、
銀行や投資家が、なんの損害も受けないということであれば 、
彼らはこれからも、リスクを冒していくでしょうし、安全第一の文化が壊されていく でしょう。
私はこれを、
『倫理的なリスク計画』と呼んでいる のです
ここでも、何百億、何千億という単位の、お金が絡んでいる。
東電の広瀬社長は、泉田知事に再稼動計画を認めてもらおうと、あらゆる手を尽くしている。
「
フクシマの事態はコントロールされている 」。
あのような事故があっても、「
原子力エネルギーは制御可能だ 」というメッセージを、変えようとしない。
泉田裕彦:
東電は、真実を話してきませんでしたし、これまで一切、責任を取らない できました。
すべてコントロールされている、などというのは、私にはなんの意味もない言葉 です
彼らが、
たくさんのことで嘘をついてきた、というだけでなく、たくさんの問題に、正面から立ち向かうのを避けてきたことが、問題 なのです。
「原子力ムラが、嘘、隠蔽、危険の過小評価をするのには理由がある」、と泉田知事は語る。
泉田裕彦:
日本には、安全神話というのがあります。
安全神話は、日本の原発は安全で、ほかの国のような事故は決して起きない、というものでした。
今、原発の再稼動に関する議論を見ていますと、彼らが、
新しい安全神話をつくろうとしている 、という印象を受けますね。
新しい安全神話?
私たちは福島に戻った。
島の反対側だ。
日本政府と原子力ロビーが、原発事故の事態は制御できる、と見せようとしていることは確かだ。
福島第一原発の周りに凍土遮水壁を作る、という計画 も、それに属している。
これで、
常時、原子炉建屋に流れ込み、放射能でたちまち汚染されていく地下水を、食い止めようという のである。
新川達也氏は、政府の原発事故収束対応室長だ。
遮水壁がいつ完成するのか、彼に話を聞いた。
事故収束対応室長・新川達也(経済産業省):
現在、可能性を探る調査を行っているところです。
今年度終了までに、プロジェクトの工事を終えたい、と希望しています 。
日本の会計年度は、3月に終わりますので、つまり、
2015年の3月を目指しています 。
それから、
土が実際に凍るまで、2ヶ月ほどかかります 。
遮水壁を作る、という
初めの計画があがってから、数年が過ぎた 。
この数年の間に、毎日、何百トンもの地下水が、放射能に汚染され、そのうち毎日200トン以上の水が、太平洋に流出している 。
そしていまだに責任者たちは、可能性調査をしている という。
そもそも、
凍土による遮水壁が、本当に目的を果たすかという疑問には、まだ完全に答えが出ていないのが現状 だ。
そのことは、この政府代表者も認めた。
新川達也:
まだ、いくつかの課題があります。
まず、この技術は、これほどの規模で試されたことがありません 。
そして、地下水の移動速度、という問題 があります。
私たちは、低いと考えていますが、もし速度が高ければ、水は凍りません。
それから、地質の問題 があります。
原発の周りに、どのようなものが埋まっているか、土がその条件で凍るか、ということです。
Q:
それでも、状況がコントロール下にあるとお思いですか?
新川達也:
はい!
まだ技術の性能が試されたこともなく、福島の現場の条件でそれが機能するかどうか明らかでなくても、
それでもコントロールできている?
かつて、事故収束を担当した馬淵澄夫氏が、なぜ東電と政府が、この計画を決定したのか、その簡単な理由を教えてくれた。
馬淵澄夫:
国がお金を出すのは 、凍土遮水壁のように、
技術的に難解で、まだ課題の多いものに対してだけ なのです。
これが、日本のやり方なのです。
それより、どうやったら確実に水をせき止められるのか、考えなければいけない。
難解なプロジェクトを始めることが、目的ではあり得ないはずです。
よく性能が実証されている技術を、使うべきです
しかし
国は、技術的に手間のかかる、初めてのプロジェクトにだけ、お金を支払う ことになっています
それで、凍土遮水壁が作られるのです。
つまり、
投資家や株主は責任を問われず、したがって賠償をする必要がなく、
まだ実証されていない技術に頼って、日本と世界を大災害から守ろう、ということ だ。
そして
日本の一般大衆は、これらのことを、ほとんど気にもとめない 。
マスコミでは、福島第一原発から今でも発生している危険や、事故の影響について、ほとんど報道しない 。
それで、
忘れられた、と感じている人たち、牛飼いの吉沢さんのような人たちに、世論を喚起する役を任せる以外にない ようだ。
彼は月に一度、ここ、東京の渋谷を訪れる。
吉沢:
東京の住民の皆さん、話を聞いてください。
あなた方が使っている電気は、毎晩こうして、明るく照らしてくれる東京の電気は、40年来、福島から来ているんです。
今は、福島の火力発電所から来ています。
だけど、人間として、どうか考えてみてほしいのです。
浪江町や富岡町、大熊町、小高町、飯館村の人たちは、もう二度と、故郷に帰ることができない。
米づくりなど、二度とできやしないよ。
再稼動と今言っている人たちは、ここを見たことがないんです。
ことに安倍首相は、何も見ていません。
本当にがっかりします。
事故を起こした原発を所有する東電に、状況をどう判断しているか、訊いてみようと思った。
状況が、本当にコントロール下にあると思っているのか、嘘をついていると言われて、どう反論するのか。
私たちが質問表を用意すると、応じてもいいといわれていたインタビューを断られた。
ヨハネス・ハーノ記者報告
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