ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

ようやく肩の荷が下りました。

2023年11月22日 | 音楽とわたし
先日の生徒の発表会に出られなかった3人の生徒のためのサロンコンサートが昨日終わった。


3人とも週末は都合が悪かったので、3人のうちの2人がレッスンを受ける月曜日の午後に行うことにした。
3人とも今回が初めての発表会だった。
だからよけいに、広い舞台に立たせてあげられなかったことを申し訳なく思った。


先日同様、ソロとデュエットに分けて演奏してもらった。
3人と彼らの家族と輪になって、ピアノのことについて話をした。
練習のことをどう思う?と聞いてみたら、Aちゃんが「わたし練習大好き!」と言う。
うわぁ〜びっくりした。
このAちゃん、実はほんの3ヶ月前まで、うちに来るなり練習をしてこなかった(彼女曰くできなかった)言い訳話を始める子だった。
幼い弟が鍵盤を手のひらでバンバン叩く、おかあさんが仕事でいない、ピアノの部屋が寒すぎる(暑すぎる)、学校の宿題が多すぎる、友だちが遊びに来て時間がない…etc。
彼女は子守りさんがうちまで送り迎えをしてくれているのだけど、その子守りさんはうちに着くや否やスマホいじりに勤しむので、家での様子を聞くこともできない。
同じ曲を同じところで間違えて、前に進めなくなって止まる。音符の名前をどんな方法で教えても覚えようとしない。
う〜ん、本人にやる気が無いのなら、無理に通わせるのはいかがなものかと、親御さんに相談して本人と話し合ってもらったりしたが、本人がやめたくないと言うので仕方がない。
まあまた突然練習に目覚める時が来るかもしれないから待ちましょうと、家族や子守さんに伝えたのが3ヶ月前のこと。
それがどうしたことか、突然ニコニコしながら部屋に入って来て、言い訳話も無しに弾き始めようとするではないか。
わたしはびっくりして、思わず「ちょっとAちゃん、今日は話はないの?」などと聞いてしまうところだった。
彼女はスルスルと、それも楽しそうに弾き始めて、そのまま曲を丸々弾き終えてしまった。
そんなことはそれまで一度も無かったので、わたしは仰天して、「いやあ、いいねいいね〜」と喜んでハイファイブした。
その時の、彼女のちっちゃな手の平とわたしの手の平が作ったパチンという音が、まだ耳の奥に残っている。
それからというもの、彼女は毎週きちんと練習をして、やって来るようになった。
そうか、彼女は今や、練習大好きっ子になっていたのか。
おかあさんが、「この子はなんでも始まりが遅くて、だから誤解されて残念な思いをしたことが何回もあったんです。今回は根気強く待ってもらえたのでよかったです」と話してくれた。

Hさんは20歳で、エジプトからの移民で、大家族の4人兄弟の一番上で、9歳の弟の習い事の送り迎えをしたり、資格を取るために大学の授業を受けながら会社勤めもしているので、それこそ練習するのは本当に大変なのだけど、大学のピアノを借りたりして一所懸命に練習している。
彼女が頑張り屋さんだということは知っていたけど、ここまで忙しく、また大変な思いをして練習をしているとは知らなかった。

10歳のLちゃんは、ものすごく恥ずかしがり屋だけど体操クラブに通っていて、負けん気が強いらしい。
口数が少なく、褒めると照れてうつむいてしまうような子だけど、同じ失敗をしていることを指摘したりすると、涙をポトリと落とすこともある。
悔しかったんだな。
彼女もスロースターターで、頭や体が納得するまでに時間がかかる。
そんなこんなの、普段のレッスン時にはなかなか聞くことができない話をたくさん聞かせてもらった。

わたしからは、先日の発表会同様、ピアノの練習のことについて話をした。
ピアノはレッスンが始まると同時に宿題が出される。
当然、その宿題の練習がもれなく付いてくるので、このことをまず、習い始める前に、本人はもちろん家族も理解していないと続かない。
練習は面倒だし面白くないと思っている人が多いかもしれないが、練習することが当たり前になるとどんどん面白くなってくる。
ほんの少しだけど、何かが良くなってきている感じがするからだ。
あまりにわずかなので気が付かないこともある。
1日に1センチしか進めない、仲間内でも一際歩みが遅いカタツムリ。
1日の終わりに見る景色は朝とさほど変わらなくて、自分が進んだかどうかも怪しいけれど、それでもぼちぼち進み続けていって1ヶ月も経つと30センチも進んでいる。
カタツムリからしたら、30センチも進んだ周りの景色は別世界だ。
練習中には思い通りにいかなくてイライラしたり、進んだと思ったら間違った道だったりしたり、一歩進んで二歩下がるみたいなこともあって落ち込んだり、それはもうバラエティに富んだ毎日が続くわけだけども、それでもなぜか心の底ではワクワクしている。
このワクワクを毎日味わえるようになるとクセになる。
そうなったらもう練習は特別なものではなくて日常になる。
小さな子どもから大きな大人まで、他の誰でもない、自分がやったことで自分を幸せにできるってすごい。
そうやって練習することが当たり前になると、人生のいろんな場面で活きてくる。
なにしろ根気が良くなるし、今は見えなくてもゴールは必ずやってくると信じることができる。

まあ、ピアノに限らず楽器を演奏できるようになるっていいなと思う。
わたしはいろんな理由でピアノが弾けなくなった時期があるのだけど、代わりにクラリネットやマリンバやティンパニーやドラムを練習して、それなりに演奏できるようになった。
それぞれの楽器に独特の面白さがあり、難しさがあり、どれもが音楽に関わる幸せを感じさせてくれる。

枯葉にも音楽がつながっている。

この季節の風物詩、枯れ葉掃除屋さんがあちらこちらに出没する。

近所の大イチョウの木。



すっかり葉が落ちた木と、これからが紅葉本番の木と。




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2 コメント

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Unknown (terryjam)
2024-01-10 14:15:39
練習の進度の話に深くうなずきました
何が変わってるのか、上達してるかもよくわからないけど、ある日突然、すぽんと階段を上がって1階上に進んでたり、ある瞬間にこういうことか!と納得できたり。練習はそれを一度経験するとそれほど苦しくなくなる気がします
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terryjamさんへ (まうみ)
2024-04-18 23:03:40
ある日突然、すぽんと階段を上がって一階上に進んでたり、ある瞬間にこういうことか!と納得できたり。

こういうのって経験者じゃないと実感できないですよね。
練習は上達するための行為ですけど、その過程にものすごくたくさんのおまけ効果があって、それらを身につけると生活の隅々に活かされてくるのがわかります。
terryjamさんも練習オタクのお仲間なんですね😅
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