先日わたしは『堤未果さんが教えてくれはった、知らん間にしれっと通過した『環境改正法』のトンデモっぷり』という記事を書いた。
その記事に、ある匿名の方が、こんなコメントをくれはった。
『自治体レベルで、そのような権限は元々ありません。
なぜなら、大気汚染防止法27条で、放射線物質は適用除外になっているからです』
この、大気汚染防止法においての、放射線物質の適用除外については、以前わたしも知って憤慨し、それを記事に書いたような気がする。
放射能の大気汚染は、問題にされない⇒公害にはならない⇒誰もその汚染の責任を取らんでもいい。
いや、そらあかんやろ!
などと言うて、カンカンに怒ってた覚えがある。
その大気汚染防止法は、時々に、その汚染の対象となる事項や物が新しく加えられて、何回か変更されてきた。
それは、社会問題になるからで、なんで社会問題になるかというと、大勢の人が困り出して、それを報道屋が伝えるからで、
今の放射能汚染みたいに、あるのに無いことにされたり、深刻やのに大丈夫と言われたり、めちゃくちゃ迷惑かけてんのに、無主物やからうちは関係無いと平然としてたり、
それを、知ってか知らんでか、それとも命じられたか、買収されたか、すっかり子分に成り下がった報道屋らが、全くまともに伝えへんかったら、
問題なんかになるかいな!
ところがところが、山本弁護士が書いてくれてはるのを読ませてもらたら、放射能はすでに、環境基本法上、公害物質になってるがな?!
ほんでほんで、大気汚染防止法27条の、放射線物質は適用除外も、削除されてるがな?1
やのに、公害物質にしただけで、他のとこを丸っきり変えてへんからか、というか、わざと変えんと放っといてるからか、
汚染の原因を作った会社、機関、人間には、責任を取らせることができんままやがな!!
放射能が公害物質と認定されたからには、その公害法の基本である、「汚染するな!汚染した者は罰する!」が実効されるべきやのに……。
原子力公害に取り組むための、もっとも重要なキーワードは、「汚染防止」。
公害犯罪処罰法というのは、1970年の、公害国会で成立した法律で、当時「世界にさきがけて」立法化された、と言われたらしい。
現在でも、このような普遍性を持った法律を、実現した国はないんやて。
ああすごい!
山本さんはこう言うてはる。
「40年以上も前に、悲惨な公害被害を受けた人々が、我々に残してくれた法律です。
当時の人々の利益になる法律ではありません。
同じ思いをさせたくないという思いが、生み出した法律です」
大事に受け継ごう!
ヘラヘラしてんと、行動しよう!
もう門は開かれてるんやで!
放射能が公害物質やと認められたんや。
放射能汚染防止法、作らしたろうやないの!わたしらの声で!
ほんでそれは、山本行雄弁護士が言うてはるように、脱原発への確実な基礎固めになるはずや!
↓以下、転載はじめ
環境基本法改正と原発公害
*2012.8.29:追記<10 原子力規制委員会=独立行政院会の悪夢>
*2012.9.2字句表現訂正 2012.9.13 加筆<1-2,1-3追加>*2012.11.20加筆
*2012.12.6加筆 *2012.12.17加筆
*2013・2・13加筆(12 脱原発法制定運動との関係)
*2013・6・2加筆(1-1-2 大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの改正案)
*2013.6.18加筆(2013.6.17大気汚染防止法、水質汚濁防止法、環境影響評価法など改正成立)
*2013.6.28、1-1-2に大気汚染棒秘法、水質汚濁防止法<解説2>を加筆
『放射能汚染防止法』制定運動のための基礎知識:法律
前注:
これまで「原発公害」という表現を多用してきました。
今後はできるだけ、「原子力公害」という表現にいたします。
すでに、1970年代に使用されていたこと、使用済み燃料の問題や、汚染物質の問題を、広くイメージするのに適していることが理由です。
1-1 いつ、どのように、環境基本法改正がなされたのか。
2012年6月20日、環境基本法13条の放射性物質を適用除外とする規定の削除法案が、国会で成立27日公布されました。
異常なことに、新聞もテレビも、全く報道していません。
この法案は、「原子力規制委員会設置用案」の附則として提案され、可決成立したものです。
附則だから軽視ししてよい、などというものではありません。
それは、立法過程の形式に過ぎません。
今後の、放射能汚染政策にとって、原子力規制委員会の設置などより、遙かに重要です。(6月20日成立 。6月27日公布です。再訂正しました)
削除された規定
「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び、土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法(昭和30年法律台186号)その他の関係法律の定めるところによる」(第13条)
報道によりますと、環境省は、水質汚濁防止法など、4法の放射性物質除外規定の改正について、次期通常国会成立を目指すとのことです。
1-4を参照してください。
1-1-2 第183国会の、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの改正案(2013・6・2加筆)
上記改正案(
「放射性物質による環境の汚染のための関係法律の整備に関する法律案」)は、2013年6月17日、参院で可決され成立しました。
問題点などは、下記の通りです。
成立に伴い、<解説2>を加えました。(2013.6.18加筆)
*大気汚染防止法
・第27条(放射性物質適用除外条項)削除。
・第22条3項加入「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質(環境省令で定めるものに限る。第24条第2項において同じ。)による大気の汚染の状況を、常時監視しなければならない」
・第24条2項加入「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質による大気の汚染の状況を、公表しなければならない」
*水質汚濁防止法
・第15条3項「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質(環境省令で定めるものに限る。第17条第2項において同じ)による、公共用水域及び地下水の汚濁の状況を、常時監視しなければならない」
・第17条2項加入「「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質による公共用水域及び地下水の水質の汚濁の状況を公表しなければならない」
*環境影響評価法
・第52条1項(放射性物質適用除外条項)削除。
*その他の法律改正 南極地域の環境の保護に関する法律第24条(放射性物質適用除外条項)削除や、大気汚染防止法などの改正に伴う、地方自治法の改正などがあります。
<解説1>
重要なのは、大気汚染防止法と水質汚濁防止法ですが、
放射性物質の適用除外規定は削除されたものの、放射性物質による環境汚染や、水質汚濁そのものを、規制する条項はありません。
排出についての総量規制もなく、福島の事故のように、放射性物質を環境にばら撒いて汚染しても、何の罰則もありません。
公害規制の中心概念は、「汚染するな」であり、汚染した者には罰則を科すことにして、実効性を確保するものです。
今回の改正は、公害規制の実質をなしていません。
これらの改正案が成立しても、大気汚染についても、水質汚濁についても、公害法としては、法の空白状態が続くということになります。
立法機関が、国民の人権を守る機能を失っています。
2011年以来、我々は、北海道から、全国会議員に要望をするなど活動してきましたが、行政任せが続いています。
議員に、責任を自覚させる運動が必要です。
生産者である農民と、消費者にとって、土壌汚染防止法が重要ですが、改正案にありません。
また、環境影響評価法の、放射性物質適用除外規定は削除になったものの、有効に活用するためには、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染防止法などの規制法を、充実させこと必要です。
<解説2>
環境基本法の、環境基準と大気汚染防止法、水質汚濁防止法の関係について、追加説明します。<2013.6.28追記>
環境基本法16条
政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、及び騒音に係る環境上の条件について、
それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で、維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
これが、環境基準です。
大気汚染防止法も、水質汚濁防止法も、環境基本法16条の環境基準を、新たに定めなければならないのです。
当然、原子力施設からの排出総量基準や、基準を超えて漏洩した場合の罰則などが、法律上整備されなければならないものです。
しかし、この基準がありません。
両法は、公害法として実効性のない、欠陥法です。
今回改正されなかった土壌汚染防止法などは、環境基本法が放射性物質を公害物質にしていながら、これと矛盾する適用除外規定を置いたままです。
基本法と個別法が矛盾しています。
公害法としての体をなしていません。
なお、これらの法整備は、原子力施設が存在し、放射性物質がある限り、脱原発の動向如何にかかわらず必要です。
1-2 立法機関である国会のこれまでの動向は?
環境基本法改正の約1年前の、2011年6月14日に、水質汚濁防止法改正案が可決成立しました。
その付帯決議で、「本法(水質汚濁防止法:筆者)23条を含む、環境関連法令における放射性物質に係る適用除外規定等の、見直しの検討を含め、体制整備を図ること」を、政府に求めています。
このように、
放射性物質を、環境関連法から全面除外してきた法制度を、全面的に改めるという大きな流れがあります。
しかし、個別の公害防止法の適用除外規定はそのままで、今日に至っています。
環境基本法の改正の際、当然、個別の公害関連法の適用除外規定の扱いが、議論されなければならなかったのですが、なされていません。
1-3 国会の各党派の取り組みは?
具体的な政策を提示している党派は、ないようです。
放射性物質を公害物質として扱う、ということは、今後の原発政策に、決定的な影響を与えます。
具体的政策を、公約として発表しなければなりません。
政府が策定するのを待って、後追い批判をしているようでは、無責任です。
個別の公害関連法の、適用除外規定を削除し、どのような放射性物質による環境汚染の防止法を制定するのか、個別の法律に組み込むのか、
加えて、独立の放射能汚染防止法を制定するのか、公害犯罪処罰法(人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律)の改正など、官僚任せにしておくべきではありません。
次の選挙の争点にすべき、大きな問題です。
1-3-2 自治体の、国への働きかけ状況は?
2012.11.20現在、石狩市、北広島市、江別市、小樽市の議会が、国に法整備を求める意見を採択し、地方自治法99条により、国に意見書を送付しています。
北海道議会は、誓願の審議中です。
その他、札幌市の上田市長は、全国市長会などで意見を述べています。
詳しい案文などができなくとも、放射能汚染を防止する法整備を求める運動を、全国に広めていただきたいと思います。
1-4 中央環境審議会の動きに合わせて運動すればよいのか? 2012.11.20加筆
そのようなことで、放射能汚染を防止する、まともな法律は生まれません。
逆に、汚染容認法を作られてしまう恐れがあります。
次の二つの違いを知ってください。
①放射性物質による環境汚染を許さない。
②放射性物質による汚染の後始末をどうするか。
福島原発事故の後、政府・環境省が行ってきたのは、
①は放置して、②の後始末の法律を作り、放射能汚染容認政策を進めています。
汚染対処特措法では、廃棄物処分法の放射性物質適用除外規定の例外規定を設け、(例外の例外で適用ありと言うこと)、
放射性物質を、廃棄物処分法の「ゴミ」として処分するという、汚染拡大政策を進めています。
さらに、原子力規制委員会設置法の成立に合わせ、循環型社会形成基本法の、放射性物質適用除外規定を削除しています。
これは、汚染対処特措法と併せて、汚染拡大推進法の性格を有します。
今現在(2012.11)の動きをみてみます。
19日、中央環境審議会は、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、海洋汚染防止法、環境影響評価法の放射性物質適用除外条項を削除する、法改正方針を明らかにし、
来年の通常国会に、提出を目指すことにしています。
(2012.11.20毎日新聞)
この法律名を見る限り、上に述べた②の、汚染した後の、後始末の法律の可能性が大です。
①の、汚染を許さない、という、公害規制の、基本的な考えが見えてきません。
(後に議事録などを見て報告しますが)
放射性物質を、法律上の公害物質とするということは、
汚染を許さない、という基礎の上に、汚染した者を処罰するなどの、実効性ある制度を作ることです。
別な表現で言うと、「放射性物質をばらまいた者は、故意過失を問わず罰する」ということです。
環境審議会の動きに合わせていては、このような法律はできません。
中央環境審議会の、後追い批判では遅すぎます。
そこで、国会議員の役割も重要です。
「諮問を待って」などということでは、立法機関のメンバーとして失格です。
1-4-2 環境省、法改正の動向 (2012.12.7加筆 )
中央環境審議会2012.6.19議事録に、「意見具申案」とその概要が、PDFで提供されています。
「環境省」「審議会・委員会」「中央環境審議会」と辿ってください。
今後も、ここの動きを注視していきましょう。
内容的には、1-4で触れたように、
「汚染を許さない」という、公害防止の基本が欠けているように思います。
取り組みが必要です。
上記中央環境審議会の「意見具申」は、2012.11.30に、環境大臣宛に提出されています。
1-4-3 中央環境審議会「意見具申」は、環境基本法の公害規制の理念に即しているか?(2013・3.17加筆)
公害規制の基本理念に即していない、と判断します。
環境基本法13条の、放射性物質適用除外規定が削除され、同法上の「公害」物質となった意味を、再確認しましょう。
環境基本法は、従来の公害対策基本法を、承継した法律です。
したがって、放射性物質による、「公害を規制する」ものでなければなりません。
要するに、汚染させないことを柱にした、具体的な法律を制定する必要があるのです。
2012.11.30日の、中央環境審議会の「意見具申」には、この視点が明確になっていません。
個別法の、除外規定の削除を検討するものとして、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、海洋汚染・災害防止法、環境影響評価法の四法が挙げられています。
しかし、そこには、汚染そのものを規制する、立法の必要性が明示されていません。
たとえば、大気汚染防止法と水質汚濁防止法については、
「改正環境基本法の趣旨を踏まえ、適用規定の削除を検討する。
なお、放射性物質が環境に放出される事態に備え、関係法令との関係を整理しつつ、モニタリングの在り方を検討していくことが必要と考えられる」としています。
放射性物質を環境に放出することを、罰則を持って厳しく規制するのでなければ、公害規制とは言えません。
さらに、現時点で、適用除外規定の削除の適否を判断することが、適当でない法律として、廃棄物処理法、土壌汚染防止法を挙げ、
その理由として、
「特措法が昨年度から施行されたことにより、昨年の東京電力福島第一原子力発電所事故起因の、汚染廃棄物の処理、除染などの措置が、国や自治体等により行われているところ、
例えば、以下に掲げる法律は、当該汚染廃棄物等の処理責任の整合性や、他法令との関係などの観点から精査し、検討することが必要と考えられる」としています。
この考えは、二つの面から問題です。
第一に、
福島原発事故による汚染については、これを公害被害として捉えなおし、汚染の拡大阻止や、健康被害防止対策の法整備が必要です。
そこでは、廃棄物として、放射能公害を拡散するような特措法を、放置すべきでないという方針が示されなければなりません。
公害として扱う以上、当然です。
第二に、
土壌汚染防止法は、福島事故があろうとなかろうと、放射能汚染を厳しく取り締まる法律が必要です。
この二点から見ても、中央環境審議会には、放射能汚染をさせないという姿勢そのものが、示されていません。
1-5 公害犯罪処罰法はマイナーな法律ではないのか?
全く違います。
「公害は違法であり、罰する」という、普遍性を持った法律です。
環境基本法の、「公害」の意味と同じです。
1970年の、公害国会で成立した法律ですが、当時「世界にさきがけて」立法化された、と言われました。
現在でも、このような普遍性を持った法律を、実現した国はないようです。
この法律には、放射性物質の、適用除外規定がありません。
我々は、その意味を、もう一度確認する必要があります。
この法律は、大気とか土壌、水質などのような限定をせず、次のように規定しています。
<人の健康に係る公害犯罪の、処罰に関する法律>(略称「公害犯罪処罰法」「公害罪法」)抜粋
(目的)
第1条
この法律は、事業活動に伴って、人の健康に係る公害を生じさせた行為等を、処罰することにより、公害の防止に関する、他の法令に基づく規制と相まって、人の健康に係る公害の防止に資することを目的とする。
(故意犯)
① 第2条工場、又は事業上における事業活動に伴って、人の健康を害する物質(身体に蓄積した場合に、人の健康を害することとなる物質を含む。以下同じ)を排出し、
公衆の生命、又は身体に、危険を生じさせた者は、3年以下の懲役、又は300万円以下の罰金に処する。
② 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役、又は500万円以下の罰金に処する。
上の条項を見てわかるように、
物質が何であろうと、又、汚染の対象が何であろうと、「人の健康を害する物質」を排出して「公衆の生命、又は身体に危険」を生じさせる行為を、
公害犯罪行為として違法とするという、「普遍性」を持った法律です。
このような、普遍性を持った法律の性格上、放射性物質の除外規定を設けることは、論理矛盾を来すので、入れることができなかったと解釈できます。
この法律は、環境基本法以下の体系に位置づけられていますが、以上の理由から、この法律の成立時から、放射性物質にも当然適用になる法律であったと考えるのが、正当な解釈と思います。
このように、公害犯罪処罰法は、マイナーな法律どころか、「公害は違法」とする、法的価値を体現す重要な法律です。
1-4で述べた、①の、「環境汚染を許さない」という公害防止法の原型が、ここにあることを再確認しましょう。
なお、過失犯の規定もあり、これも重要です。
1-6 放射能汚染防止法にとって、公害犯罪処罰法の位置づけは?
公害犯罪処罰法は、放射能汚染防止法(仮称)の原型ともなるべき法律です。
1-5で述べたような、普遍性を体現した法律だからです。
放射性物質が、環境基本法上の「公害」物質となった以上、原子力公害は、同法と公害犯罪処罰法の体現する、普遍的な価値に基づいて、整備されなければなりません。
まず、放射能汚染を、違法として取り締まる法律が必要です。
その法律は、
公害犯罪処罰法のわずかな改正で、実現できます。
・放射性物質が適用対象になることを、明記させること、
・刑を、被害規模の大きさから、無期程度まで厳しくすること、
・安全性に関する情報を無視したり、軽視した者を、厳罰に処すること、
・国民が、危険な情報を、通報・通告する制度を設けること、
以上です。
放射能汚染防止法(仮称)も、基本はこれの応用と言ってよいと思います。
札幌の放射能汚染防止法制定運動は、当初から、法律制定要求と同時に、公害犯罪処罰法の緊急改正を求めています。
1-7 海外に模範となる法律はあるか?日本の公害法の歴史を再評価しよう。
福島原発事故の後、海外で、脱原発に向かう国が増えました。
中でも、ドイツが注目されています。
しかし、ドイツの法律や行政を、そのまま参考にするのは難しいようです。
ドイツの法律の専門家でさえ、「専門家も、環境法全体を見通すことはほとんどできない」と述べ、
「環境国際法、EC法、連邦憲法、州憲法、包括的な構想を伴う再統一協定による、特別規定、連邦法や州法、広範な法規命令、自治体の条例、技術的な規制・・多数の判例」などを列挙しています。
(ヘルムート・クリューガー「環境法における強みと弱みー日本とドイツを比較して-」立命館法学1997年1号)
基本的な政策動向は、参考になるとしても、具体的な法律制度としては、参考にするのは難しいと思います。
日本には、公害問題に取り組んだ長い経験があり、1970年の公害国会を経験しています。
その結果、生成された公害関連法は、比較的に体系的であり、公害犯罪処罰法という、世界に先駆けた、普遍性を持った法律も生み出しています。
これを再評価して、放射能汚染防止の法律に拡張して、原子力公害に立ち向かっていくべきでしょう。
法律になじみのない方は、この7箇条の法律を読んでみてください。
40年以上も前に、悲惨な公害被害を受けた人々が、我々に残してくれた法律です。
当時の人々の利益になる法律ではありません。
同じ思いをさせたくないという思いが、生み出した法律です。
2 放射性物質が「公害」物質になった。その公害とは何か。
環境基本法第2条3項の定義、
「この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動、その他の人の活動に伴って生ずる、
相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態、または水底の底質が悪化することを含む。第16条第1項を除き、以下同じ)、
土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるもの除く。以下同じ)、及び悪臭によって、
人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ)にかかる被害が生ずることを言う」
大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭を、一般に「典型7公害」と言っています。
環境基本法13条の削除によって、放射性物質で、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染をすれば、人の健康、または生活環境に被害が生ずる訳ですから
「公害」という定義に当てはまるわけです。
3 公害物質となった、放射性物質による汚染防止の法律は、どうなっているのか。
そのような法律はありません。
環境基本法の下に、具体的な公害規制など、環境関連の法律などがありますが、放射性物質を適用除外にしているからです。
既存の公害規制法に相当する、放射性物質による汚染防止のための、独立した法律もありません。
これが「法の空白」です。
それで我々は、放射能汚染防止法を作れ、という運動をしているのです。
放射性物質に適用しないと、明文で規定している主な法律は、以下の通りです。
( )内は、適用除外規定の条文です。
このため、たとえば、放射能で土壌汚染をしても、罰せられないのです。
大気も水質も、皆同じです。
水質汚濁防止法(23条)、
土壌汚染対策法(2条)、
大気汚染防止法(27条)、
農用地の土壌の汚染防止に関する法律(2条)、
海洋汚染等、及び海上災害の防止に関する法律(52条)、
科学物質の審査、及び製造等の規制に関する法律(2条)、
特定化学物質の、環境への排出量の把握等、及び管理の改善の促進に関する法律(第2条)、
廃棄物の処理、及び清掃に関する法律(2条1項)、
環境影響評価法(52条1項)
3-2 水質汚濁防止法、大気汚染防止法など、個別法の放射性物質適用除外条項を外せば、放射能汚染防止法のような、独立の法律までは必要ないのではないか。
独立の、総合的な放射能汚染防止法(仮称)が必要です。
既存の個別法を適用するだけでは、汚染を防止できません。
何万年もの間、安全隔離の必要な、高レベル核廃棄物、膨大な量の低レベル核廃棄物、廃炉に伴う長期の汚染防止、福島事故による汚染拡散の防止など、
放射性物質という「公害物質の特徴」に応じた、総合的体系的な法整備は、不可欠です。
特に注意を要するのは、環境省の、なし崩し的な法改正を、放置してしまうことです。
「悪い法律ができてから、後追い批判をする」という方向に流れがちです。
現在、立法作業が進行していることを念頭に、活動していきましょう。
4 原子炉等規制法や放射線障害防止法は、公害防止法とは違うのか?
全く違います。
公害防止法の柱は二つです。
① 汚染するな。
② 汚染した者は罰する。
この二つです。
公害防止法は、この2本柱からなっています。
汚染防止と、責任という概念を覚えておきましょう。
原子力関連の法律には、この2本の柱が抜け落ちているのです。
原子炉等規制法も、放射線障害防止法も、放射線や、放射性物質を扱う者に対して、
放射線レベルに応じて、「管理区域」や「周辺監視区域」を設け、立ち入りなどを制限しなさい。といっているだけです。
これを超えて、ばらまくことを禁止する規定もなく、従って、ばらまいた場合の罰則もありません。
別な表現をすれば、放射線を取り扱う者に対する、「取り扱いマニュアル」に過ぎないのです。
一般公衆は、事業者の放射線管理の問題だから、なにも文句を言わずに、ありがたく黙っていなさい、という構造です。
一般公衆の被爆線量限度は、年1ミリシーベルトですが、これを超えてばらまかれることは、法律上規制外なのです。
福島第一原発事故で、放射能を大量にばらまきましたが、
通常、公害物質で、何万、何十万の人が避難する「事件」が発生すれば、警察が動き、報道が加害企業の責任者を追い回すことになります。
しかし、福島原発事故では、警察の現場検証も、被疑者の逮捕もありませんでした。
法律がないからです。
今、原発の再稼働が問題になっていますが、次に事故が起きて、環境と人間を放射能まみれにしても、責任を問う法律はありません。
5 線量限度などを定めた法律が、複雑で理解しにくいのは?
一般公衆の線量限度年1ミリシーベルトなどは、どこにどのように規定されているのか、わかりにくいという方が多いようです。
線量限度を定めている法律はたくさんあり、
・それぞれに複雑に規定されていること、
・具体的な数値は、規則や告示などで定めていること、
・加えて放射線防止法などは、この限度を超えて環境を汚染したら罰する、というような、汚染防止法になっていないこと、
・事業者に向けて基準を作り、その反射として、公衆の被爆限度がわかる、このようなことも、わかりにくい原因だと思います。
しかし、「放射線障害防止の技術基準に関する法律」というのがあって、基準を変えるときは、一斉に同じ内容で定めることになっています。
基本的には、基準の数値自体は、一つで決まるとみてよいのです。
この法律は、
有斐閣六法全書にも載っていないようなので、覚えておかれると便利です。
線量限度について定めている法律は、放射線障害防止法、原子炉等規制法、労働安全衛生法などがあります。
これらの法律のどれかに、公衆線量限度とか、従事者線量限度、妊婦線量限度などの数値があったら、他の法律も同じだと理解してよいのです。
なお、どの法律にも、放射性物質による環境汚染を禁ずる内容の条項はありません。
結果として、
一般市民を、年1ミリシーベルト以上被爆させても、責任を問う法律はありません。
6 原子力公害の特徴と刑事責任
人を傷つけたり死亡させた場合は、傷害罪や殺人罪、過失致死罪などで処罰されます。
被害者が誰であるか、特定されています。
放射性障害には、急性障害と晩発障害がありますが、特に問題なのは、癌や遺伝障害の晩発障害です。
甲状腺癌を除いて、被害者の特定ができないのです。
通常の刑事事件では、数人を死亡させたら重大事件ですが、放射性物質をばらまいて、何千人、何万人を癌に罹患(りかん)させたり死亡させても、
誰が放射能被曝で罹患したのか、死亡したのかわからないのです。
他の原因による発病と区別できず、白血病が何パーセント増加したとか、推定死亡者何万人、などという把握しかできません。
このため、被害の重大性はとてつもない規模でありながら、刑事責任に問われないことになってしまいます。
完全犯罪と表現する人もいます(肥田舜太郎)。
実体は「人道に対する罪」に相当するような犯罪が、隠ぺいされてしまいます。
このため、
放射性物質は、人を汚染させること自体、環境汚染をしたこと自体を、大量死亡事件と同視して、厳しく罰する必要があります。
公害防止法の、「汚染するな」「汚染したら罰する」という基礎に立って、立法化する必要があります。
現在の「法の空白」のもとでは、犯罪学的には犯罪でありながら、法律がないために、犯罪として扱われていないということになります。
なお、日本には、公害犯罪処罰法があります。このブログの別の記事を参照してください。
7 放射能の影響論争と放射能汚染防止法
放射能の影響について議論がありますが、公害規制の基本を、理解していない傾向が見られます。
公害規制は、人間に害があるかないかのギリギリの線を設定して、規制するのではありません。
影響がある水準より、ずっと低い値を設定して規制し、それによって、人間や環境を守っていくのです。
その結果、違法に有害物質をばらまいたりすれば、被害の有無に関係なく、厳しく非難され、法的責任を問われるのです。
放射性物質には、このような法的規制がないので、議論が混乱しています。
加えて、放射線の晩発障害については、閾値なしというのが国際的合意です。
このような、放射性物質の特徴に応じた、公害規制が必要になります。
そうであれば、程度如何に関わらず、被爆させること自体、基本的に許されないものとして、一層厳しい基準を、設定する必要があります。
札幌の市民グループの「放射能汚染防止法(仮称)案骨子」では、法律に掲げるべき基本方針として、
① 放射性物質の排出を、罰則をもって禁止すること。
例外は、放射能汚染防止のための活動に必要な限りにおいて、最小限度認められること。
② 産業目的・営利目的の、放射性物質を増加させる行為を禁止すること。
③ 安全性、ないし汚染防止は、経済的、ないし経営上の事由に優先すること。
などを掲げています。
8 公害規制法の「調和条項」と放射能汚染防止法
日本の公害規制法には、経済的活動との「調和条項」があったのですが、反公害運動の中で、40年以上前に削除されました。
被曝線量限度は、ICRPの勧告が、国内法の基準として採用されていますが、この勧告は、「調和条項」と全く同じ考えで策定されたものです。
低線量被曝問題などで、ICRP勧告に批判があります。
日本では、40年以上前に克服された考えです。
放射性物質を公害規制する法律は、日本の法律の原則に従い、「調和条項」を排除して制定する必要があります。
9 公害犯罪処罰法について
我々は、放射能汚染防止法の制定運動の一環として、公害犯罪処罰法(「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」)の改正を求めています。
このブログの、他の記事を参照願います。
10 原子力規制委員会設置法=「独立行政委員会」という悪夢
国家行政組織法3条に基づく、原子力規制委員会が、環境省の外局として設置されました。
法律制度全体を見失って、無責任集団に独立性を与え、国民を危機に陥れる立法化です。
委員会設置法と同時に、環境基本法の、放射性物質適用除外条項の削除法案が成立したのですから、
それを具体化する、放射能汚染防止のための規制法を、立法化しなければならないのです。
以下に、「放射能汚染防止法(仮称)制定 『公害犯罪処罰法』緊急改正ガイドブック」の抜粋を紹介します。
放射能汚染防止法(仮称)制定運動の、理解に役立てていただければ幸いです。
<(7)独立行政委員会」という悪夢(抜粋)>
福島原発事故の後、独立行委員会としての、原子力規制委員会を設けようとする動きがあります。
理由は、
日本の原発行政は、規制する者とされる者が、相互に独立していない。
安全性の確保のためには、アメリカの原子力規制委員会のような、独立の行政委員会にする必要がある。
というものです。
これは、物事の順序が逆です。
日本の現実を無視した、悪夢のような考えです。
日本の原発産業を取り巻く学者や官僚は、まともな法律があれば、刑事罰の対象になっていたような者達です。
放射能汚染の責任を問う法律もないのに、このような無責任集団に独立性を与えたらどうなるのか。
次の事故を準備してくれ、というようなものです。
少数の「良心的な」者が参加して、どうなるというような状況ではないのです。
行政組織がどのようなものであれ、公害犯罪処罰法などによる厳しい罰則規定を設け、「法の空白」を埋めるのが先決です。
これを前提に、危険通報制度のような制度によって、国民が直接監視し、違反する者には厳罰を与える。
このような制度を基礎に据えた上での、「独立行政委員会」でなければなりません。
11 脱原発と放射能汚染防止法
原子力公害に取り組むための、もっとも重要なキーワードは、「汚染防止」です。
日本には、54基の原発と、それが生み出した膨大な放射性物質があります。
直ちに原発を止めても、そこには、膨大な量の核廃棄物があります。
我々はこれまで、「脱原発」を求めてきました。
これからも求めていきます。
しかし、脱原発で安心できる段階は、もはや過去のことなのです。
事故による汚染はもちろん、生み出された負の遺産である核廃棄が、環境を汚染しないように管理する体制を、作らなければならないのです。
「放射能による汚染から環境を守る」という視点から、「汚染なき脱原発」を実現する必要があります。
また、「汚染」という視点で現実を直視すると、「今すぐやめても大変なのに、原発運転を続けるのはとんでもないことだ」ということがよくわかります。
さらに、原子力公害は、地球規模の危機です。
世界の原発は、400基を超え、今後増えていく方向にあります。
放射性廃棄物は、増え続けています。
老朽化も進んでいます。
今後、世界のどこかで、次々と事故が起こる可能性があります。
事故の汚染に合わせて規制をゆるめ、「影響はない」と扱われてしまうことが予想されます。
この状況が、今後100年も続いたらどうなるのか。
日本の輸出が、将来の地球環境にもたらすもの、以上のように、「汚染防止」という視点で、現実をとらえることが必要です。
脱原発を確実に実現するためにも、汚染防止という法律制定に向けて、運動する必要があります。
原発産業は、巨大な力を持っています。
法律によって強制しない限り、この大きな力による放射能汚染は、防止できません。
*放射能汚染防止法(仮称)
公害犯罪処罰法、緊急改正ガイドブックを、PDF形式で提供中です。
環境基本法改正前の作成ですが、改正を見越して構成してあります。
12 脱原発基本法制定運動、原子力廃止基本法案運動との関係
集会などで、脱原発基本法の制定運動など、他の法律制定運動との関係について、質問を受けることがありますので、まとめておきます。
前期11と合わせて、お読みください。
*脱原発基本法案(抜粋)
目的
できる限り早期に、脱原発の実現を図り、もって国民の生命、身体財産を守るとともに、国民経済の安定を確保する。
基本理念
脱原発は、遅くとも、平成32年から37年の、できる限り早い3月11日までに、実現されなければならない。
*原子力廃止基本法法案(元衆議院議員平智之 抜粋)
目的
原子力の研究、開発、及び利用の停止に伴う原子炉の廃止、並びに…放射性廃棄物の長期管理に関する研究、及び開発…原子力利用の、速やかな停止を実現。
基本方針
エネルギー分野における原子力利用は、永遠にこれを禁止し……、
① 上記の法律は、放射性物質を公害として規制する法律とは、異質です。
放射能汚染防止法の、制定運動に取り組んでいる我々は、これまで脱原発を目指して活動してきましたし、今後も活動していきます。
しかし、脱原発は、原発による発電を止めることであり、放射性物質による、環境汚染を規制する法律ではありません。
脱原発が実現しても、汚染を規制する法律が必要です。
公害法の基本は、「汚染するな。汚染した者は罰する」という内容が核心となる法律です。
従来環境基本法は、放射性物質を、公害から明文で除外してきました。
除外条項13条が削除され、放射性物質は、同法上の公害物質となったのです。
放射性物質を、公害物質として取り締まる立法化の門が開かれた、ということです。
脱原発の法制定運動に取り組む方々には、積極的に、放射能汚染防止法制定に取り組んでいただきたい、と思います。
内容が汚染防止であれば、法令名は、「原子力公害防止法」など、自由に考えていいのです。
① 上のように、脱原発法と、公害防止法としての放射能汚染防止法は、異質なものですから、脱原発法が先か放射能汚染防止法が先か、という発想は誤りです。
脱原発法の動向とは別に、公害防止法としての、放射能汚染防止法の制定が必要です。
② 福島事故後、国会が、放射性物質の、公害関連法からの除外規定についての見直しの方向を示し、環境基本法が改正され、大気汚染防止法などの改正作業の途上にあるのですから、
まともな放射能汚染防止法の制定をさせるための活動が必要です。
脱原発法制定運動があるので、こちらの手を抜いてよいと考えるのは、せっかくの機会を見逃すことになります。
③ これまでの国会の動きもあり、アンケート調査などによると、
国会議員は、脱原発の賛否にかかわらず、放射能汚染防止法制定に賛成する人が多く、反対する人はほとんどいません。
一般の人たちも、脱原発の考えを持ってい方でも、放射能汚染を公害として防止する法律は必要、という反応が返ってきます。
④
日本に54基もの原発が建設され、指摘されてきた過酷事故に至った背景には、原子力産業が、公害規制から免れてきたことがあります。
放射能汚染防止法制定は、脱原発への、確実な基礎固めにもなります。