日本との時差が14時間のこちら米国東海岸も、2018年の元旦を迎えました。
明けましておめでとうございます。
昨年は、年末の2ヶ月間、このブログを書き始めてから初めて、
先日のニューヨークタイムズのWEB版に、伊藤詩織さんの記事が載りました。
記事には、詩織さんと山口氏両名の写真が、大きく掲載されていました。
She Broke Japan’s Silence on Rape
https://www.nytimes.com/2017/12/29/world/asia/japan-rape.html
詩織さんが受けた被害、日本のレイプ被害者が遭遇する理不尽な扱いについて書かれていて、さらに、日本の主要メディアがどうしてこの件を報道しないのか、ということにも言及しています。
アメリカでは今や、大物プロデューサー、俳優、インタビュアー、報道関係者などによる性的暴力行為が、被害者の女性たちの告白で公になり、続々とその地位を剥奪され、大いに非難を浴びています。
それは当然のことであり、下劣で醜い行為をした者は、どんな地位にいようと、どんなに立派な作品を生み出していようと、どんなに社会に貢献していようと、罰せられなければなりません。
告白者の勇気に推され、思い出したくもないグロテスクな瞬間を、もう一度自分の言葉で話し始めた女性も、次から次へと現れ始めています。
Me, too!
日本でも、伊藤さんや、様々な理由で暴力を受けた人たちを応援し、支えようとする人たちが、今以上に大勢出てくることを願っています。
そしてまた、暴力を受けたにもかかわらず、誰にも話せないまま苦しんできた人たちの痛みが、少しでも和らぐよう願っています。
偶然か否か、日米ともに、政権トップの人間としての質が甚だ低く、特権を振りかざしてやりたい放題をしている最中ですが、
事の成り行きを見ていると、少なくともアメリカの方がマスコミと司法がまともである、いや、日本のマスコミと司法が想像以上に異常であることがよくわかります。
もう人任せではなく、その社会に生きる市民の側から、このような状況は続けるべきではない、マスコミと司法は態度を改めよという声を集め、戒めるべき相手にしっかり伝わる大きな声にしなければなりません。
以下は、フリージャーナリストの志葉玲氏が、これまでの事実関係を簡潔にまとめて書いてくださった、去年の11月7日の記事です。
詳しい事情をまだ知らない人は是非、この記事の後に紹介させてもらう、
【全文1/2】
伊藤詩織氏、2年前の「悪夢の始まり」を振り返る
元TBS記者によるレイプ被害を告発
http://logmi.jp/242770
【全文2/2】
レイプ被害告発の伊藤詩織氏「女性からのバッシングもあった」
会見中には、元TBS同僚の行為を非難する記者も
http://logmi.jp/242901
や、
https://www.amazon.co.jp/Black-Box-伊藤-詩織/dp/4163907823
を読んでください。
詩織さん VS 山口氏
元TBS記者「準強姦疑惑」反論の疑問点ー国会で「安倍政権への忖度」の追及を
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20171107-00077859/
安倍晋三首相と親しい元TBS記者・山口敬之氏に、若手国際ジャーナリストの伊藤詩織さんが、性的暴行を受けたと告発した問題で、
伊藤さんは、10月24日、外国人特派員協会で会見を開き、真相の究明を求めるとともに、日本の司法や性犯罪被害者への支援の在り方についての課題を語った。
一方、山口氏は、10月31日発売の月刊誌『HANADA』(2017年12月号)で、伊藤さんの主張に対し、全面的に反論した。
ただ、今回の山口氏の主張には、自身の過去の主張と食い違う部分もある。
●「不起訴相当」検察審査会の判断への疑問
伊藤さんによると、彼女は2015年の4月、当時TBSのワシントン支局長であった山口敬之さんに、米国での就労ビザの相談のために会った。
二人で飲食している間に、伊藤さんは、急に昏倒し、意識を取り戻すと、山口氏にレイプされている最中だったという。
被害後、伊藤さんは、彼女の下着から検出された山口氏のDNA、山口氏のホテルへ移動したタクシー運転手の証言や、ホテルの防犯カメラ映像などの証拠を集め、
告発を受けた高輪署も、山口氏の逮捕令状を、裁判所から得た。
しかし、まさに、捜査官が山口氏を逮捕しようとしたその時に、警視庁本部の中村格・刑事部長(当時)の突然の指示で、逮捕は見送られた。
その後、捜査は、警視庁本部捜査一課に引き継がれたが、十分な捜査は行われず、東京検察は不起訴。
伊藤さんは今年5月に、検察審議会に審査申し立てしたものの、同9月21日、検察審議会は、『不起訴相当』を議決した。
検察審査会は、小沢一郎氏の強制起訴など、かねてから、政治的思惑にその議決が左右されることが指摘されている。
今回の不起訴についても、伊藤さんは会見で、以下の点で、公正な審査が行われたかに疑念を示した。
・検察審査会に、証人や申立人の代理が呼ばれ、証言することがあるにもかかわらず、伊藤さんや、彼女の弁護士も呼ばれることはなかった。
・検察審査会の不起訴相当議決の理由として、不起訴処分の裁定を覆すに足りる理由がない、その内容の具体的な説明はなかった。
・伊藤さんが山口さんからタクシーから下され、ホテルへ引きずられていく防犯カメラの動画を、審査員に見てもらいたいと伊藤さんは主張。
だが、実際に動画として証拠が提出されたのかについて、検査審査会は回答しなかった。
・伊藤さんの申し立てを扱った審査員の男女比は、男性が7名、女性が4名。
男女比を半々にするべきではなかったか。
●伊藤さんが望むこと―真相の究明と性犯罪被害者の救済
逮捕令状が発令されていたにもかかわらず、山口氏が逮捕されなかった件についても、
伊藤さんは、当時の警視庁本部刑事部長・中村格氏に対し、何故、急に逮捕をやめさせたか、取材を何度も申し込んでいるにもかかわらず、中村氏は取材に応じないと報告。
中村氏に対する追及が、国会の場でも行われることを期待する、と述べた*。
*中村氏については、同氏が菅義偉官房長官の秘書官時代に、
テレビ朝日『報道ステーション』に強い圧力をかけていたことを、当時、同番組のコメンテーターであった元経産官僚の古賀茂明氏が指摘している。
安倍晋三首相と親しい山口氏が逮捕されなかったことも、なんらかの政治圧力が働いた可能性がある。
会見では、伊藤さんは、先月18日に出版した手記『Black box』(文芸春秋社)についても触れ、同著で伊藤さんが最も訴えたかったことは、
「捜査や司法のシステムの改正に加え、社会の意識を変えていくこと、そして、レイプ被害にあった人々への、救済システムの整備が必要だということ」と語った。
伊藤さんは手記の中で、スウェーデンでの性犯罪被害者の病院などの受け入れ態勢を紹介。
同国のような性犯罪被害者救急センターを、日本でも充実させるべきだと訴えている。
また、今年7月に、刑法改正を評価しつつ、
「被害者が抵抗できないほどの暴力、脅迫があったと証明できなければ、罪に問われることがない、という現状は変わっていません」と課題を指摘。
3年後の見直し向けて、さらなる議論が必要になること、その議論に、自身の手記が役立つことを期待する、と述べた。
●山口氏の反論と、その疑問点
一方、山口氏は、月刊誌『Hanada』の記事(2017年12月号)に、約20ページにわたり、自身の主張を寄稿。
「伊藤さんはホテル内を自力で歩いて、部屋に入った」
「汚れたブラウスの代わりに、私が貸したTシャツを伊藤さんは着て帰ったが、レイプ犯の服を着て帰る被害者がいるだろうか?」
「ホテルでの件での後も、ビザについてのメールを送ってきている。被害者がレイプ犯に送るメールだろうか」等と、伊藤さんに反論している。
だが、今回の山口氏の主張には、伊藤さんが被害を受けたとするホテルでの件の後、山口氏自身が彼女に送ったメールと食い違いがある。
今回の『Hanada』の記事では、ホテル入室後、トイレに駆け込んだ伊藤さんの描写として、山口氏は以下のように書いている。
しかし、伊藤さんが被害を受けたとする晩の約2週間後、彼女に山口氏が送ったメール(2015年4月18日送信)では、以下のように書いているのだ。
問題の晩から約2週間後のメールでの文面では、意識がない、或いは朦朧としている伊藤さんの服を脱がし、ベッドに寝かせたのは山口氏だ。
だが、今回の『Hanada』の記事は、より伊藤さんが、「自らの意志で服を脱ぎ下着姿になった」と強調する意図があるのではないか。
この描写の食い違いについて、筆者は山口氏に、月刊Hanada編集部を通じて説明を求めたが、山口氏からの回答は無かった。
今年7月、改正前の刑法においても、泥酔し意識がない、あるいは正常な判断能力や抵抗する能力が失われている女性に対し、性行為を行い、その女性が被害を申告した場合には、準強姦罪(3年以上の懲役)となる。
●なぜ「泥酔した」女性をホテルに無理矢理連れて行ったのか?
山口氏の他の主張についても、疑問を持たざるを得ない。
「伊藤さんが、自力で歩いて部屋に入った」ということに関しても、ホテルのロビーの防犯カメラの映像を観ないと、第三者には判断がつかないし、
山口氏が確保していた部屋のあった2階の廊下には、防犯カメラがないため、映像で確認できない。
山口氏が貸したTシャツを、伊藤さんが着たことについても、ブラウスが濡れていたため、他に着るものが無く、仕方なく着たが、帰宅するなり、ゴミ箱に投げ込んだことが、伊藤さんの手記の中で書かれている。
また、ビザに関するメールも、警察への告発に山口氏が気づかないよう、引き延ばしのために、伊藤さんやその友人達が内容を考え、送ったものだと、やはり伊藤さんの手記の中に書いてある。
また、山口氏は、ホテルの室内と浴室で、伊藤さんが二度嘔吐したとしているが、伊藤さんがホテル側に確認したところ、吐しゃ物を清掃した記録はないというのだ。
つまり、問題の晩のホテル室内で起きたことについての、山口氏の主張が事実か否か、疑わしいわけであるが、なぜ山口氏は、吐しゃ物にこだわるのか。
伊藤さんの、「薬物を使用し昏倒させた」という疑いに対し、「酒を飲み過ぎただけ」との印象を持たせようとするためだろうか。
そもそも、山口氏は、伊藤さんがタクシー内で、「駅で下して」と訴えていたにもかかわらず、ホテルに連れていったことについて、
「泥酔した伊藤さんを、駅に置いておくわけにはいかなかった」とするが、
常識的に考えても、出会って間もない他人同然の女性が、体調不調を訴えて帰りたがっているのに、既婚男性が、自分の部屋へと連れ込むこと自体が、極めて不自然だ。
もし、伊藤さんの身体を本当に気遣っていたのであれば、警察や救急に預けるべきだったのではないか。
この点についても、筆者は山口氏に説明を求めたが、やはり回答は無かった。
本件について、伊藤さん寄りの発言をしている、東京新聞の望月衣塑子記者やTBSの金平茂紀氏らについて、
山口氏は、自身のフェイスブックで、「一方的な主張をしている」と批判していたが、
あくまで自身が正しいと主張するならば、都合の悪い質問にも答えるべきであるし、その主張を裏付ける、客観的かつ具体的な証拠を提示すべきだろう。
●伊藤さんと山口氏だけの問題ではない
伊藤さんが被害を受けたとする晩に、何が起きたか。
伊藤さんと山口氏の主張は、相反するところが大きい。
しかし、そもそも何故、高輪署による逮捕を中止させたかについて、中村氏が伊藤さんの取材にも応じないのであれば、やはり国会での調査も、必要となってくるだろう。
中村氏の現在の役職は、警察庁組織犯罪対策部長。
共謀罪摘発を統括する役職だ。
多くの冤罪を生むことになりかねない共謀罪を扱う役職は、人権意識が高く、時の政権とも適切な距離を置ける人物であることが望ましい。
その役職に、中村氏がふさわしい人物であるか否か、と見極めるという点においても、伊藤さんの求める真相究明に、国会は協力すべきであろう。
また、日本において、性犯罪被害者がその被害を訴えづらいことも事実だ。
女性捜査官によるケアや、病院などでの被害者の受け入れ態勢の改善、セカンドレイプやバッシングから被害者を守る、社会の意識変革も必要だろう。
******* ******* ******* *******
以下は、詩織さんが自らの性暴力被害をつづった手記『Black Box』が、昨年10月18日に発刊されたことを受け、24日に行われた日本外国特派員協会での会見の内容です。
【全文1/2】
伊藤詩織氏、2年前の「悪夢の始まり」を振り返る
元TBS記者によるレイプ被害を告発
http://logmi.jp/242770
【全文2/2】
レイプ被害告発の伊藤詩織氏「女性からのバッシングもあった」
会見中には、元TBS同僚の行為を非難する記者も
http://logmi.jp/242901
https://www.amazon.co.jp/Black-Box-伊藤-詩織/dp/4163907823
痛々しいほど切実
2015年4月3日夜、『Black Box』の著者であるジャーナリストの伊藤詩織は、以前から就職の相談をしていた、当時のTBSワシントン支局長と会食した。
数時間後、泥酔して記憶をなくした彼女が、下腹部に激痛を感じて目を覚ますと、信頼していた人物は、全裸の自分の上にいた。
そこは、彼が滞在しているホテルの部屋だった。
一方的な性行為が終わって、ベッドから逃げだした彼女が、下着を探していると、
「パンツくらいお土産にさせてよ」と、彼が声をかけてきた。
当事者しか知りえない密室のやりとり、そして、レイプの被害届と告訴状を提出したからこそ直面した、司法やメディアの壁について、伊藤はこの本で詳細に記している。
本当は書きたくなかったに違いない。
しかし、ようやく準強姦罪の逮捕状が出たにもかかわらず、当日になって、警視庁刑事部長の判断で逮捕見送りになり、さらには不起訴処分となった以上、伊藤も覚悟を決めたのだろう。
今年の5月には、「週刊新潮」の取材を受け、検察審査会への申し立てを機に、記者会見を開いた。
審査会が「不起訴相当」と議決した際には、日本外国特派員協会で、会見に臨んでみせた。
マスコミの反応は今も鈍く、ネットでの誹謗中傷は続いている。
そんな状況下で、伊藤はこの本を上梓したのだが、通読して強く感じるのは、ジャーナリストとして真実に迫りたい、という彼女の心意気だ。
それは痛々しいほど切実で、心労で苦しみながら核心へと迫り、権力の傲慢さとともに、レイプ被害にまつわる法や社会体制の不備──ブラックボックス──の実相を、具体的に伝えてくれるのだった。
評者:長薗安浩
(週刊朝日 掲載)
内容紹介
真実は、ここにある。
なぜ、司法はこれを裁けないのか?
レイプ被害を受けたジャーナリストが世に問う、 法と捜査、社会の現状。
尊敬していた人物からの、思いもよらない行為。
しかし、その事実を証明するにはーー密室、社会の受け入れ態勢、差し止められた逮捕状。
あらゆるところに〝ブラックボックス〟があった。
司法がこれを裁けないなら、何かを変えなければならない。
レイプ被害にあったジャーナリストが、自ら被害者を取り巻く現状に迫る、圧倒的ノンフィクション。
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明けましておめでとうございます。
昨年は、年末の2ヶ月間、このブログを書き始めてから初めて、
先日のニューヨークタイムズのWEB版に、伊藤詩織さんの記事が載りました。
記事には、詩織さんと山口氏両名の写真が、大きく掲載されていました。
She Broke Japan’s Silence on Rape
https://www.nytimes.com/2017/12/29/world/asia/japan-rape.html
詩織さんが受けた被害、日本のレイプ被害者が遭遇する理不尽な扱いについて書かれていて、さらに、日本の主要メディアがどうしてこの件を報道しないのか、ということにも言及しています。
アメリカでは今や、大物プロデューサー、俳優、インタビュアー、報道関係者などによる性的暴力行為が、被害者の女性たちの告白で公になり、続々とその地位を剥奪され、大いに非難を浴びています。
それは当然のことであり、下劣で醜い行為をした者は、どんな地位にいようと、どんなに立派な作品を生み出していようと、どんなに社会に貢献していようと、罰せられなければなりません。
告白者の勇気に推され、思い出したくもないグロテスクな瞬間を、もう一度自分の言葉で話し始めた女性も、次から次へと現れ始めています。
Me, too!
日本でも、伊藤さんや、様々な理由で暴力を受けた人たちを応援し、支えようとする人たちが、今以上に大勢出てくることを願っています。
そしてまた、暴力を受けたにもかかわらず、誰にも話せないまま苦しんできた人たちの痛みが、少しでも和らぐよう願っています。
偶然か否か、日米ともに、政権トップの人間としての質が甚だ低く、特権を振りかざしてやりたい放題をしている最中ですが、
事の成り行きを見ていると、少なくともアメリカの方がマスコミと司法がまともである、いや、日本のマスコミと司法が想像以上に異常であることがよくわかります。
もう人任せではなく、その社会に生きる市民の側から、このような状況は続けるべきではない、マスコミと司法は態度を改めよという声を集め、戒めるべき相手にしっかり伝わる大きな声にしなければなりません。
以下は、フリージャーナリストの志葉玲氏が、これまでの事実関係を簡潔にまとめて書いてくださった、去年の11月7日の記事です。
詳しい事情をまだ知らない人は是非、この記事の後に紹介させてもらう、
【全文1/2】
伊藤詩織氏、2年前の「悪夢の始まり」を振り返る
元TBS記者によるレイプ被害を告発
http://logmi.jp/242770
【全文2/2】
レイプ被害告発の伊藤詩織氏「女性からのバッシングもあった」
会見中には、元TBS同僚の行為を非難する記者も
http://logmi.jp/242901
や、
https://www.amazon.co.jp/Black-Box-伊藤-詩織/dp/4163907823
を読んでください。
詩織さん VS 山口氏
元TBS記者「準強姦疑惑」反論の疑問点ー国会で「安倍政権への忖度」の追及を
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20171107-00077859/
安倍晋三首相と親しい元TBS記者・山口敬之氏に、若手国際ジャーナリストの伊藤詩織さんが、性的暴行を受けたと告発した問題で、
伊藤さんは、10月24日、外国人特派員協会で会見を開き、真相の究明を求めるとともに、日本の司法や性犯罪被害者への支援の在り方についての課題を語った。
一方、山口氏は、10月31日発売の月刊誌『HANADA』(2017年12月号)で、伊藤さんの主張に対し、全面的に反論した。
ただ、今回の山口氏の主張には、自身の過去の主張と食い違う部分もある。
●「不起訴相当」検察審査会の判断への疑問
伊藤さんによると、彼女は2015年の4月、当時TBSのワシントン支局長であった山口敬之さんに、米国での就労ビザの相談のために会った。
二人で飲食している間に、伊藤さんは、急に昏倒し、意識を取り戻すと、山口氏にレイプされている最中だったという。
被害後、伊藤さんは、彼女の下着から検出された山口氏のDNA、山口氏のホテルへ移動したタクシー運転手の証言や、ホテルの防犯カメラ映像などの証拠を集め、
告発を受けた高輪署も、山口氏の逮捕令状を、裁判所から得た。
しかし、まさに、捜査官が山口氏を逮捕しようとしたその時に、警視庁本部の中村格・刑事部長(当時)の突然の指示で、逮捕は見送られた。
その後、捜査は、警視庁本部捜査一課に引き継がれたが、十分な捜査は行われず、東京検察は不起訴。
伊藤さんは今年5月に、検察審議会に審査申し立てしたものの、同9月21日、検察審議会は、『不起訴相当』を議決した。
検察審査会は、小沢一郎氏の強制起訴など、かねてから、政治的思惑にその議決が左右されることが指摘されている。
今回の不起訴についても、伊藤さんは会見で、以下の点で、公正な審査が行われたかに疑念を示した。
・検察審査会に、証人や申立人の代理が呼ばれ、証言することがあるにもかかわらず、伊藤さんや、彼女の弁護士も呼ばれることはなかった。
・検察審査会の不起訴相当議決の理由として、不起訴処分の裁定を覆すに足りる理由がない、その内容の具体的な説明はなかった。
・伊藤さんが山口さんからタクシーから下され、ホテルへ引きずられていく防犯カメラの動画を、審査員に見てもらいたいと伊藤さんは主張。
だが、実際に動画として証拠が提出されたのかについて、検査審査会は回答しなかった。
・伊藤さんの申し立てを扱った審査員の男女比は、男性が7名、女性が4名。
男女比を半々にするべきではなかったか。
●伊藤さんが望むこと―真相の究明と性犯罪被害者の救済
逮捕令状が発令されていたにもかかわらず、山口氏が逮捕されなかった件についても、
伊藤さんは、当時の警視庁本部刑事部長・中村格氏に対し、何故、急に逮捕をやめさせたか、取材を何度も申し込んでいるにもかかわらず、中村氏は取材に応じないと報告。
中村氏に対する追及が、国会の場でも行われることを期待する、と述べた*。
*中村氏については、同氏が菅義偉官房長官の秘書官時代に、
テレビ朝日『報道ステーション』に強い圧力をかけていたことを、当時、同番組のコメンテーターであった元経産官僚の古賀茂明氏が指摘している。
安倍晋三首相と親しい山口氏が逮捕されなかったことも、なんらかの政治圧力が働いた可能性がある。
会見では、伊藤さんは、先月18日に出版した手記『Black box』(文芸春秋社)についても触れ、同著で伊藤さんが最も訴えたかったことは、
「捜査や司法のシステムの改正に加え、社会の意識を変えていくこと、そして、レイプ被害にあった人々への、救済システムの整備が必要だということ」と語った。
伊藤さんは手記の中で、スウェーデンでの性犯罪被害者の病院などの受け入れ態勢を紹介。
同国のような性犯罪被害者救急センターを、日本でも充実させるべきだと訴えている。
また、今年7月に、刑法改正を評価しつつ、
「被害者が抵抗できないほどの暴力、脅迫があったと証明できなければ、罪に問われることがない、という現状は変わっていません」と課題を指摘。
3年後の見直し向けて、さらなる議論が必要になること、その議論に、自身の手記が役立つことを期待する、と述べた。
●山口氏の反論と、その疑問点
一方、山口氏は、月刊誌『Hanada』の記事(2017年12月号)に、約20ページにわたり、自身の主張を寄稿。
「伊藤さんはホテル内を自力で歩いて、部屋に入った」
「汚れたブラウスの代わりに、私が貸したTシャツを伊藤さんは着て帰ったが、レイプ犯の服を着て帰る被害者がいるだろうか?」
「ホテルでの件での後も、ビザについてのメールを送ってきている。被害者がレイプ犯に送るメールだろうか」等と、伊藤さんに反論している。
だが、今回の山口氏の主張には、伊藤さんが被害を受けたとするホテルでの件の後、山口氏自身が彼女に送ったメールと食い違いがある。
今回の『Hanada』の記事では、ホテル入室後、トイレに駆け込んだ伊藤さんの描写として、山口氏は以下のように書いている。
しかし、伊藤さんが被害を受けたとする晩の約2週間後、彼女に山口氏が送ったメール(2015年4月18日送信)では、以下のように書いているのだ。
問題の晩から約2週間後のメールでの文面では、意識がない、或いは朦朧としている伊藤さんの服を脱がし、ベッドに寝かせたのは山口氏だ。
だが、今回の『Hanada』の記事は、より伊藤さんが、「自らの意志で服を脱ぎ下着姿になった」と強調する意図があるのではないか。
この描写の食い違いについて、筆者は山口氏に、月刊Hanada編集部を通じて説明を求めたが、山口氏からの回答は無かった。
今年7月、改正前の刑法においても、泥酔し意識がない、あるいは正常な判断能力や抵抗する能力が失われている女性に対し、性行為を行い、その女性が被害を申告した場合には、準強姦罪(3年以上の懲役)となる。
●なぜ「泥酔した」女性をホテルに無理矢理連れて行ったのか?
山口氏の他の主張についても、疑問を持たざるを得ない。
「伊藤さんが、自力で歩いて部屋に入った」ということに関しても、ホテルのロビーの防犯カメラの映像を観ないと、第三者には判断がつかないし、
山口氏が確保していた部屋のあった2階の廊下には、防犯カメラがないため、映像で確認できない。
山口氏が貸したTシャツを、伊藤さんが着たことについても、ブラウスが濡れていたため、他に着るものが無く、仕方なく着たが、帰宅するなり、ゴミ箱に投げ込んだことが、伊藤さんの手記の中で書かれている。
また、ビザに関するメールも、警察への告発に山口氏が気づかないよう、引き延ばしのために、伊藤さんやその友人達が内容を考え、送ったものだと、やはり伊藤さんの手記の中に書いてある。
また、山口氏は、ホテルの室内と浴室で、伊藤さんが二度嘔吐したとしているが、伊藤さんがホテル側に確認したところ、吐しゃ物を清掃した記録はないというのだ。
つまり、問題の晩のホテル室内で起きたことについての、山口氏の主張が事実か否か、疑わしいわけであるが、なぜ山口氏は、吐しゃ物にこだわるのか。
伊藤さんの、「薬物を使用し昏倒させた」という疑いに対し、「酒を飲み過ぎただけ」との印象を持たせようとするためだろうか。
そもそも、山口氏は、伊藤さんがタクシー内で、「駅で下して」と訴えていたにもかかわらず、ホテルに連れていったことについて、
「泥酔した伊藤さんを、駅に置いておくわけにはいかなかった」とするが、
常識的に考えても、出会って間もない他人同然の女性が、体調不調を訴えて帰りたがっているのに、既婚男性が、自分の部屋へと連れ込むこと自体が、極めて不自然だ。
もし、伊藤さんの身体を本当に気遣っていたのであれば、警察や救急に預けるべきだったのではないか。
この点についても、筆者は山口氏に説明を求めたが、やはり回答は無かった。
本件について、伊藤さん寄りの発言をしている、東京新聞の望月衣塑子記者やTBSの金平茂紀氏らについて、
山口氏は、自身のフェイスブックで、「一方的な主張をしている」と批判していたが、
あくまで自身が正しいと主張するならば、都合の悪い質問にも答えるべきであるし、その主張を裏付ける、客観的かつ具体的な証拠を提示すべきだろう。
●伊藤さんと山口氏だけの問題ではない
伊藤さんが被害を受けたとする晩に、何が起きたか。
伊藤さんと山口氏の主張は、相反するところが大きい。
しかし、そもそも何故、高輪署による逮捕を中止させたかについて、中村氏が伊藤さんの取材にも応じないのであれば、やはり国会での調査も、必要となってくるだろう。
中村氏の現在の役職は、警察庁組織犯罪対策部長。
共謀罪摘発を統括する役職だ。
多くの冤罪を生むことになりかねない共謀罪を扱う役職は、人権意識が高く、時の政権とも適切な距離を置ける人物であることが望ましい。
その役職に、中村氏がふさわしい人物であるか否か、と見極めるという点においても、伊藤さんの求める真相究明に、国会は協力すべきであろう。
また、日本において、性犯罪被害者がその被害を訴えづらいことも事実だ。
女性捜査官によるケアや、病院などでの被害者の受け入れ態勢の改善、セカンドレイプやバッシングから被害者を守る、社会の意識変革も必要だろう。
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以下は、詩織さんが自らの性暴力被害をつづった手記『Black Box』が、昨年10月18日に発刊されたことを受け、24日に行われた日本外国特派員協会での会見の内容です。
【全文1/2】
伊藤詩織氏、2年前の「悪夢の始まり」を振り返る
元TBS記者によるレイプ被害を告発
http://logmi.jp/242770
【全文2/2】
レイプ被害告発の伊藤詩織氏「女性からのバッシングもあった」
会見中には、元TBS同僚の行為を非難する記者も
http://logmi.jp/242901
https://www.amazon.co.jp/Black-Box-伊藤-詩織/dp/4163907823
痛々しいほど切実
2015年4月3日夜、『Black Box』の著者であるジャーナリストの伊藤詩織は、以前から就職の相談をしていた、当時のTBSワシントン支局長と会食した。
数時間後、泥酔して記憶をなくした彼女が、下腹部に激痛を感じて目を覚ますと、信頼していた人物は、全裸の自分の上にいた。
そこは、彼が滞在しているホテルの部屋だった。
一方的な性行為が終わって、ベッドから逃げだした彼女が、下着を探していると、
「パンツくらいお土産にさせてよ」と、彼が声をかけてきた。
当事者しか知りえない密室のやりとり、そして、レイプの被害届と告訴状を提出したからこそ直面した、司法やメディアの壁について、伊藤はこの本で詳細に記している。
本当は書きたくなかったに違いない。
しかし、ようやく準強姦罪の逮捕状が出たにもかかわらず、当日になって、警視庁刑事部長の判断で逮捕見送りになり、さらには不起訴処分となった以上、伊藤も覚悟を決めたのだろう。
今年の5月には、「週刊新潮」の取材を受け、検察審査会への申し立てを機に、記者会見を開いた。
審査会が「不起訴相当」と議決した際には、日本外国特派員協会で、会見に臨んでみせた。
マスコミの反応は今も鈍く、ネットでの誹謗中傷は続いている。
そんな状況下で、伊藤はこの本を上梓したのだが、通読して強く感じるのは、ジャーナリストとして真実に迫りたい、という彼女の心意気だ。
それは痛々しいほど切実で、心労で苦しみながら核心へと迫り、権力の傲慢さとともに、レイプ被害にまつわる法や社会体制の不備──ブラックボックス──の実相を、具体的に伝えてくれるのだった。
評者:長薗安浩
(週刊朝日 掲載)
内容紹介
真実は、ここにある。
なぜ、司法はこれを裁けないのか?
レイプ被害を受けたジャーナリストが世に問う、 法と捜査、社会の現状。
尊敬していた人物からの、思いもよらない行為。
しかし、その事実を証明するにはーー密室、社会の受け入れ態勢、差し止められた逮捕状。
あらゆるところに〝ブラックボックス〟があった。
司法がこれを裁けないなら、何かを変えなければならない。
レイプ被害にあったジャーナリストが、自ら被害者を取り巻く現状に迫る、圧倒的ノンフィクション。
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