以前、このブログの「シリア南部スウェイダーの悲劇とドルーズの孤立」という記事(これ)に、「7月25日にISがスウェイダーを襲撃し、250人近い死者が出た。東郊のシブキー村では約30人の女性や子供が拉致された」と書いた。拉致されたうちの1人の若者が8月に殺害され、9月にはISが動画を出して(11日付)、その中で人質代表の女性が助けを求めていたことにも言及した。
その後も解放交渉は進まず(シリア政府は誰がどのような交渉を行っていたか発表していない)、国際組織・人権団体等がこの件に注目して人質解放に向けて働きかける気配もなかった。
10月3日の朝、スウェイダーの地元メディア「スウェイダー24」がフェイスブックに載せた記事で、ISがシブキー村で拉致した人々の「処刑」を警告する新たな動画を発信したことを知った。10月2日付の動画で、人質解放交渉を担当する委員会に送られてきたとのことだった。その中には覆面をして武装した男2人が登場して、人質の女性のうち1人をその場で射殺し、要求が受け入れられなければ3日後に残りの全員を殺害すると予告したとある。ISの要求は、スウェイダー東方のサファーで行われている政府軍の軍事作戦の停止と、政府側に収監されているIS関係者らの釈放。
上記の「スウェイダー24」の記事に添えられた写真。後藤さんや湯川さんの事件を含め、数年前はこういった写真を見る機会が多かったが、ISが衰退の一途をたどり、最近は目にすることはなかった。しかし、ISの脅威が終わったわけではないのは明らかだ。
10月3日、拉致被害者の家族たちがスウェイダー市内の県庁前で無期限の座り込みを開始した。彼らは動画の中で女性が殺されたことへの怒りを表明するとともに、人質の解放に向けて真剣に動くよう政府に求めている。スウェイダーの住民の大半が属する宗教マイノリティ「ドルーズ」の長老は、国連とシリア政府の後ろ盾であるロシアに助力を求めている。彼は今回の動画が出される以前、この件でモスクワを訪問している。そもそもシリア政府がロシアの了解の下で、ダマスカス南郊のヤルムーク・キャンプからIS戦闘員の一団をスウェイダー砂漠に移送したことが7月25日の事件に繋がったとスウェイダーでは見られており、シリア政府とロシアの責任を問う風潮が強い。
シリア政府は、動画公開後もISの要求に応じて軍事作戦を止める姿勢を示してはいない。IS側の収監者を刑務所から釈放する様子もみられない。
ISが動画で宣言した10月2日から3日間の猶予期間が終わったからといって、全員ただちに殺害されるわけではないにしても、楽観視する要素はどこにもない。
10月3日、フェイスブックで上記の「スウェイダー24」の記事を読んだ直後、スウェイダー関係の別の暗いニュースが目に入った。
スウェイダー出身のシリア難民の男性、ハサン・クンタール氏がマレーシア警察に拘束されたという内容だった。文頭で挙げたブログ記事にも書いたが、彼は徴兵を逃れてシリアを出国し、数か国を彷徨った末にクアラルンプール国際空港で足止めを食らって、空港内の狭いエリアで生活しながらツイッターで日々自分の置かれた状況を訴えかけていた。しかし、10月1日に「空港内の禁じられたエリアに滞在している」として拘束されたという。
彼が空港で暮らすのを半年も放置していたマレーシアが、なぜ突然拘束に動いたのかは定かではないが、同国警察は「しかるべき調査を行った後、身柄を送還する手順を円滑にするため、シリア大使館と連絡を取る」と発表している。徴兵回避をして出国し、ツイッターで有名人になったクンタール氏がシリアに送り返されたら、悪名高い政府の刑務所が彼を待っていることは想像に難くない。現在彼は、これも悪名高いマレーシア移民局の収容施設に勾留されているそうだ。カナダの有志が彼を難民として呼び寄せるためのプロジェクトを進めていたということなので、カナダ政府がマレーシアに働きかけてくれないだろうか・・・
(参考)
英語
Syria families demand regime action to free ISIS hostages
http://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/05102018
Malaysia detains Hassan Al Kontar after removing him from airport
アラビア語
تنظيم داعش يهدد بإعدام بقية الرهائن لديه خلال ثلاثة أيام
كواليس إعدام 'داعش' لرهينة من السويداء.. ما الذي جرى؟
(おまけの猫写真)
ここで取り上げた子猫とその母猫・兄弟だと思われる。猫は心の安らぎ。
(終わり)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます