外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

ヨルダン料理教室に参加して、運命のマンサフを食べる

2017-08-22 11:32:41 | 日本における中東

「人生最後の食事に何を食べたいですか?」という質問に対して、以前なら私は「何を食べるかよりも、何を飲むかの方が重要なのよ。ビールを選ぶかワインを選ぶかで、食事内容は自ずと変わってくるからねえ~」という模範回答を返しただろう。

しかし、五反田の日本ムスリム協会で開催されたヨルダン料理教室で運命のマンサフを食べた今となっては、この質問に「最後の食事はマンサフがいい」と答えるしかない。久しぶりだったせいもあると思うが、それほど心にしみる美味しさだったのだ。

講師を務めたのは、ヨルダンから一時帰国中の友人、アブオディ(水本)佳子さんだ。このブログでだいぶ前にご紹介したと思うが(もう記憶の彼方だけど)、彼女は4人の子持ちで、ダンナさんはヨルダン人とトルコ人のハーフ。ヨルダン南部のマアーンという部族社会の伝統が色濃く残っている町(つまりド田舎)に在住で、無数の親戚や近所の人たちと日々交流して、手料理で接待したりされたりを繰り返すうちに腕前を上げ、今では「ヨルダン人よりも上手にヨルダン料理を作る日本人」と地元の人々に認識されている人物だ。

彼女はヨルダンで料理するだけでは飽き足りず、一時帰国中にも料理教室を開き、ヨルダン料理を日本で広めるための活動に勤しんでいた。なんてエラいんだ、佳子・・・さすが「忍たまの給食のおばちゃん」を目指しているだけある。


忍たまの給食のおばちゃん。佳子さんはもっと若々しいですがね
">


メニューはマンサフ、マクドゥース、マアムール、クラト・タムル、カフワ(コーヒー)2種だった。

「マンサフ」とは、山羊のミルクを発酵・乾燥させた「ジャミード」を入れたスープで羊肉か鶏肉を煮込み、ご飯にのせたもの。「ヨルダンの国民食」として知られ、イスラームの祝祭(イード)や冠婚葬祭には欠かせない。値段が高めな羊肉で作ったほうがご馳走感があるが、今回は手軽な鶏肉を利用。羊肉が苦手な日本人もけっこういるので、無難な選択だと言えるだろう。それを言ったら、そもそもヨーグルトの煮込み料理を苦手として、マンサフを敬遠する人も少なくないわけだが、中にはやみつきになる人もいるので、一度試してみる価値は十分あるだろう。問題は日本ではジャミードが手に入らないことだが・・・山羊を飼っている方は自家製にトライしてみて下さいね~(^-^)


中央のお皿の上の白い塊がジャミード。年季の入ったものは黄色っぽく、新しいものは白い



カチコチに乾燥したジャミードを床に置いてガンガン砕いている最中、佳子さんは金槌を破壊した・・・料理教室らしからぬ一コマだった



出来上がったマンサフ様。うっとり・・・



濃厚なヨーグルト風味の肉汁を別の容器に入れて、適宜ご飯にかけながら食べる。バターでソテーしたナッツと刻みパセリがアクセント




「マクドゥース」は、茹でた小ナスに切れ目を入れて塩をし、胡桃やにんにくのみじん切り等を挟んだ上で、オリーブオイルに漬けこんだもの。シリア料理として有名だが、ヨルダンでも作られる。ナスをよ~く茹でたらオイル漬けにしてから1週間で食べられるが、そうでなければ通常3週間くらいは待たないといけないらしい。今回の料理教室では、ナスに詰め物をするところまでやってお持ち帰りとなり、各自が自宅でオリーブオイルに漬けることになった。


オリーブオイルに漬ける前のマクドゥース。これを持ち帰ったわけだが、私は自宅にオリーブオイルが少ししかなかったため、魔が差してついごま油に漬けてしまったことを告白しておこう



「マアムール」は、セモリナ粉ベースで溶かしバター入りのサクサクしたクッキーで、日本人のファンも多い。ドライイースト使用。シナモンやアニスの風味がアラブらしさを醸し出している。今回は具としてデーツペーストを使ったが、ピスタチオや胡桃などのナッツ類を詰めたものも定番だ。ヨルダンでは表面にフジツボ風の模様をつけることが多いのだが、今回なんと佳子さんは、そのための専用の道具を地元で購入して持参し、参加者全員にプレゼントしてくれた。


これが模様付けの道具。先端がギザギザになっている幅広のピンセットみたいなやつ。



これがフジツボ模様。(イメージです)



みんなで作った完成品。セモリナ粉が細かすぎたようで、だいぶゆるくなっていたが、味は絶品だった。やはりマアムールは手作りが一番だ



ちなみに、マアムールの風味付けには「マハレブ」と呼ばれる乾燥したサクランボの種が欠かせないそうだが(刻んで少々入れる)、これも日本では手に入らない。サクランボを食べた時に種を取っておいて、洗ってから乾かせばいいんでしょうかね・・・


「クラト・タムル」は、アラビア語で文字通り「デーツボール」という意味だ。デーツペーストを手に取り、中に胡桃のカケラを入れて丸め、ココアパウダーをまぶしたもの。本場ではココナッツパウダーをまぶすことが多いそうだ。田舎のおばあちゃんの手作りっぽい手軽で素朴なお菓子だが、これが案外美味しいし、栄養もある。


右上のお皿の一見生トリュフ風なやつがクラト・タムル。林立した爪楊枝がアクセント


お菓子を食べながら、小さいカップでアラブの「カフワ」(コーヒー)2種を飲み比べた。普通に黒っぽいやつと薄茶色っぽいやつ。黒い方が豆の焙煎が深く、色が薄い方は浅いらしい。浅い方がカフェインが少なく、欧米では「グリーンコーヒー」と呼ばれて人気を博しているとか。どちらも豆を粉砕したものをカルダモンとともにお湯で煮出し、漉したものを飲む。




参加者は女性オンリーの十数人。最初に各自自己紹介をして、雰囲気が和んだところで作業を開始した。私は写真・ブログ要員ということで、調理はサボらせてもらったのだが、途中でカメラのバッテリーが切れそうになってあまり写真が撮れず、立場がなかった。しかも、時々写真を撮りながら眺めていただけなのに、疲れて自分の体内のバッテリーも切れそうになった・・・だって開始時間が12時半で、食べ終わったのが4時なんですよ。そんな長丁場を一瞬もサボらずに作業を指揮して、説明し続けた佳子さん。お疲れ様でした。


今回私は、マンサフを一口食べて「うっ」となった。泣くところまではいかないが、その2歩手前くらいな感覚(わかりにくいですね)。国を離れて長年外国に住み、マンサフをずっと食べていなかったヨルダン人がこれを食べたら、きっと泣く。そういう味だった。ただ美味しいだけじゃなくて、愛情がこもっている。運命のマンサフ、愛のマンサフ、とでも呼びたい逸品だった。


佳子さんはもうヨルダンに帰ってしまうが、彼女のヨルダン育ちの娘さんが現在こちらに住んでいて、いずれ日本ムスリム協会で料理教室をやるそうなので、本場仕込みのヨルダン料理を習いたい方は、ぜひ参加してみてくださいね~


日本ムスリム協会に新登場した物販コーナー。品数は少ないけど、スグレモノあり



日本ムスリム協会のHPはこちら。
http://www.muslim.or.jp/


おまけ。草を喰らう近所の白黒ネコさん


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