ミーロの日記

日々の出来事をつれづれなるままに書き綴っています。

ヘルパーのお仕事

2014-01-10 13:14:39 | 日記
急用の為に休むことになった同僚に代わって、仕事で70代後半の女性宅へ行くことになった。

すこし鬱の傾向がある方だと聞いていた。

さっそくお宅へ行くと、生気のない声と表情でドアを開けてくれた。

女性に促されて室内に入ってみたら、部屋はかなり汚れていた。

部屋のすみの方には綿ぼこりが積もり、干からびたミカンの皮など食べこぼしが落ちている。

また布団や衣服も散乱していた。

ヘルパーは週に一回入ることになっているが、女性の精神状態がよろしくない時は、断りの電話が来るので、実際はあまり入入れず、なかなか掃除をすることができなかった。

急に代理の私が行くことになって、よく断られなかったなぁと思ったら、あとから女性が「本当は断りたかったんだけど、事務所の電話番号が見つからなかった」とおっしゃった。

これだけ物が散乱していたら、電話番号の書いた紙も見当たらなくなるだろう。

本当は来て欲しくはなかったと言いたそうな女性だったが、来てしまったからには少しでも快適に暮らせるようにしてあげたい。

散乱している布団や衣服をたたみ、掃除機をかけていたら、女性が話しかけてきた。

「実は昨年、旦那が死んで・・・」

ご主人は長く病気を患っていたが、昨年、老衰もあって亡くなったのだそうだ。

亡くなってしばらくは大丈夫だったが、最近、身体も精神ともに、とても辛くなってきたのだそうだ。

「そうですか、それはおつらいですね」と女性の話を聞いて相槌を打ちながら、私は黙々と掃除を続けていた。

その時、私は猛烈に「掃除をしたい!」という衝動にかられていた。

あまりの汚さを前にして戦意さえ湧いていた。

「布団はどこへ片付けますか?」

「服は?」

女性に指示をしてもらうようにお願いして、女性の言う場所に布団や服を片付けていたら、なんと女性も一緒に掃除を始めてくれた。

はたきをかけ、雑巾をもって、あちこちを拭き始めた。

「ありがとうございます。じゃあ、拭き掃除はお任せしてもよろしいでしょうか」と言うと、女性は「本当は私は掃除好きなの。具合が悪くなってからやる気が出なかったんだけどね」と言いながら、せっせと掃除をしていた。

女性が手伝ってくれたせいで、一時間が経つ頃には部屋の中はずいぶん綺麗になり、明るくなったような気がした。

「やっぱり綺麗になるといいねぇ」と言いながら、女性は冷蔵庫からジュースを取り出し、美味しそうに飲み始める。

汗ばむくらい身体を動かして掃除をしたので、のどが渇いたのだろう。

そして、私にもコップに注いだジュースを勧めてくれた。

本当はお客様のお宅では、お茶も頂いてはいけないことになっているのだけれど、せっかく入れてくれたので、ありがたくご馳走になることにした。

向かい合ってジュースを飲みながら、女性の口からは話が途切れることなく続いていた。

最初はずっと亡くなったご主人の悪口だった。

若い頃に、旦那のせいでどれほど自分が苦労したかという話を、怒りの感情のこもった声で話しまくる。

まったくこちらが口を挟む暇はない。

「うんうん」と相槌を打って聞いていたが、途中、すこし女性が沈黙をした時に「でも、いい所もあったんじゃないですか?」と聞くと、「うん、子煩悩な人だった」と言われた。

そこから、ご主人の悪口が徐々に良い思い出の話に変わって行った。

ふと時計を見たら、仕事の時間が終ってから一時間近く経っている。

「事務所に戻らなければいけないので」と言って帰ろうとしたら、「今日はなんだかすっきりした。胸のつかえがひとつ取れたような気がした」とおっしゃった。

多分、女性は誰かと話したかったのだと思う。

そして、掃除をしてすこし身体を動かしたら、気持ちが明るくなれたのかもしれない。

私はヘルパーでカウンセラーではないので、女性の話をずっと聴く事はできないが、一緒に掃除ができたことは良かったと思う。

ヘルパーの仕事では、リハビリの為にできることはお年寄りにも手伝ってもらうということにはなっているが、実際はヘルパー任せで、なかなか一緒に掃除をしようとするお年寄りは少ない。

しかし、こうして掃除をしようと思う気力が湧いてくるくらいなら、その女性はまだ大丈夫と思った。

帰り際、「あんたはもう来ないんでしょ?だったら、電話番号を教えて」と女性に言われた。

「それは難しいです」と言うと「お願いだから。あまり頻繁にかけないから」と言われたが、やはりそれは出来ない。

「また交代で来ます」と言って、ドアを閉めようとしたら、外まで出てきて見送ってくださった。

空いている時間にお小遣い稼ぎくらいの軽い気持ちで始めたヘルパーの仕事だったが、なかなか奥が深い仕事だわと思う。







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