鼎子堂(Teishi-Do)

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『金輪際:車谷長吉・著』

2012-09-10 22:58:10 | Weblog
もう、いい加減にしてほしい暑さ。


気が滅入っているときに、車谷長吉の作品を読むと、更に落ち込む。
何気なく読んだりすると、とたんに、返り討ちにあう稀有な才能の作家だと思っていいだろう。

ご本人は、自分の事を、『能無し(スカタン)』と評しているが、信じては、いけない。
どうして、スカタンで、一流大学(慶応大学)を卒業できるんだろうか・・・?
所謂、エリート崩れ。
自分で、何とかしようとすれば、たぶん、どうにでも、なる・・・という下地は、そろっている・・・にも、関わらず、定職を辞めて、放浪してみたり、貧乏を悔んだりしているようだ。
その証拠に、数々の文学賞を手中にしているし、このひとは、たぶん、自分の言う程、スカタンでは、ないような気がする・・・というよりは、(作家としては)超有能。

本当にスカタンな人間は、やっても出来ないし、どうすることも出来ない人間の事を言うのだ。

このひとが、スカタンと自分自身を称するのは、即座に、人間の裏側に潜む邪悪さを見抜いてしまう・・・とういことだろうか?同質の邪悪さを有するが故に。

主に少年時代から始まって、少年期に味わった屈辱、或いは、周囲の人から張られたレッテルをずっと原罪として受け止めているし、最初から与えられている天賦のステータスの違いを、イヤと言うほど、味わっている・・・ということなのかもしれない。

・・・それでも・・・。
このひとに関わった人々の誰よりも、ステータスは、高くなったではないか・・・。
直木賞受賞など、社会的にも認められている。
芥川賞落選の時の審査員を実名であげ、嫁はんが、眠りについてから、丑の刻参りに行く程の怨みの情念(『変』)・・・実名を挙げられた人達は、どう反応したのだろうか・・・。

陰々。滅滅。怨み。妬み。陰湿。ひっそり。隠棲・・・たぶん、世間では、受け入れることを拒否するような情念の世界を、精緻に丹念に表現することを生業とした稀な文士なのだろうと思う。

タイトルの『金輪際』に出てくる『澤田君』は、特に強烈。
たぶん、父親の後を継いで判事にでもなって、何の瑕疵もなく、人を傷つけて、ステータスは、親から受け継いだものを死守し、世間でいう幸福な一生を終えるんだろうな・・・というのが、子供のうちからわかるような気がして、そら恐ろしい。やはり、人生は、生まれ落ちた環境によって、ほぼ決まってしまうと言っていいのかもしれない。

車谷長吉・・・怖い作家である。せめて、心の長ドスくらいは、用意してから読んだ方がいい。



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