5月2日(木)晴
午後4時過ぎに、「季刊・金つなぎ」36号が完成を見た。
このたとえようの無い解放感!
次は郵便局に行き、病友がたやサポーターの皆さまからのご厚志を記帳しなければ…、それから預金を下ろしてGWに集う家族のためのお買い物をしなくては…
…で。
午後5時過ぎから、郵便局→銀行→しまむら→キリン堂→百均→トップバリューと回ってバイクで帰路に着いた。
運動公園の桜並木の道を帰る途中で、事件は起きたのだ。
桜花の季節が過ぎて、「こんなに暗い道になっているのね!」と思いつつ、時速30キロ弱のスピードで路肩を走っていたさくらの眼の前に、突然車のライトが飛び込んできた。(ように見えた)
強烈な光であった。
同時に、眼の前に迫った白い乗用車のフロント部分がのしかかってくるような恐怖感に襲われた。
「わぁっ!」
叫ぶのと両ブレーキを握りしめたのと、横倒しになるのが、殆ど同時に起こったのだった。
慌てて起き上がり、散乱した買物袋やダンボール箱の中身を拾い集める。
GWの後半に、我が家に集う息子や孫たちのための食材などをたくさん買い込んで帰る途中の事件である。
一刻も早くその場を離れたい、誰にも迷惑や心配をかけたくない。
「救急車を呼びましょうか?」と、どなたか男性が訊ねてくださったけれど、「大丈夫です」と答え、心中は、何よりも早くこの場を逃れたいのだった。
「でも、警察には連絡した方がいいですよ」と重ねて言っていただき、名張警察に電話をかけた。
さくらの携帯には、名張警察が登録されているのだ。
独居の老女には、いつ何どき災難が降りかかるか分からないのだもの。
「あなたは、どなたですか?」と電話の向こうの警察官。
「あ、事故の被害者ですぅ」とさくら。
「あー、それなら当事者同士でこちらに来てください。 そしたら、早く済みますから!」
「そんなぁ。 私は怪我をしていますし、バイクも壊れているんですよ。 来てくださいな!」
10分近くのちに、サイレンを鳴らしてパトカーが来てくださった。
◆
この時間帯は折悪しく、新体操のグループが体育館を後にするとあって、事故の相手方・Tさんは娘さんを迎えに来られて、その目の前で事故を起こされたのだった。
私は母子の前で、「ここに来合わせたばかりに、事故が起こってごめんなさいね」と言い、中学生と思しき少女に自分の孫娘を重ね合わせていた。
周囲には子どもたちがわらわらと駆け寄ってくる。
誰かが呼びに行ったらしく、新体操の関係者らしき女性が駆けつけて来られた。
目礼したさくらには一瞥もくれず、「大丈夫ですか!」とTさんの背中を撫でさすり、「何かあったら、連絡してくださいね!」と言い置いて、戻って行かれた。
なぜか、自分がとても悪いことをしたかのような錯覚に陥っていた。
特筆しておくけれど、さくらはこのとき、善意の被害者だったというのに!
◆
パトカーから降り立った警察官が、「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょう!」と再三言ってくださったのだけれど、やせ我慢を張って、かたくなに拒み続けた。
息子たちに知られたら、心配もかけるし叱られるし、救急車の方にも病院にも迷惑をかけるし、世間さまにも恥ずかしいし、どの道良いことなんか、ナニもないのだ。
少しくらい痛くったって、ドンマイ、ドンマイ。
自分だけ辛抱すれば、日々薬(ひにちぐすり)で、ほどなく治るわ♪
「では、一人ずつ話を聞きましょう」
3人来られた警察官のそれぞれが、事務的に調書を取っていかれる。
でも、興奮しているさくらは、警察官の質問にうまく答えられないのだ。
「…だから! 私はこの道路の左の路肩を、時速30キロ弱のスピードで向こうからこちらに走ってきたのですぅ」
「あー、もういいですわ。 聞いて上げましょう。 それで?」
警官のおひとりが、道路の真ん中に出て状況説明しようとするさくらを「奥さん、危ない!」と大声で制止され、「もうっ! びっくりするじゃないですか!」とさくらも応じ、「そんな真ん中に出て行ったら、また引かれますよ」など言われ、事故に至るまでの状況を縷々説明して、「…そうですよ、ね!」と相手方のTさんに同意を求めようとすると、「向こうは向こうできちんと話を聞いていますから…」などとおっしゃって、自分の正当性を伝えたいさくらとしては、すこぶるせつない展開となった。
この夜は、意外に冷え込みがきつかった。
午後5時過ぎ、市中に用足しに出る前に、背中にほかほかカイロを張って出たのだけれど、冷たい風にさらされ、両足が締め付けられるように腫れてくるのが自覚される。
ついに、ギブアップだ。
「済みません。 足がとても痛んできたんです。 やはり救急車を頼んでいただけませんか」
あー、心ならずも迷惑をかけてしまう…!
救急車の皆さま、ごめんなさいね。
夜の闇の中、サイレンを鳴らして救急車が到着した。
「大丈夫ですか? どう、されました?」と言いつつ、あっという間にテレビドラマで見るような展開で、折り畳み式の医療用簡易ベッドに乗せられ、車内に引き上げられた。
「ご迷惑をおかけしますぅ」
「お世話になりますぅ」
「ごめんなさいね」
これ以外に、何が言えただろう。
とにかく、寒くて痛くて、せつなかった。
名張市の救急救命士は、手早い。 優しい。 親切である。
住所、氏名、年齢、職業などを手際よく聞きながら、別の手が心電図を取り、血圧を測り体温計を貸してくださる。
かっこいいなぁ!
しかし、痛いなぁ! 寒いなぁ!!
「どなたか、ご家族は?」
「あー、居ません。 独り暮らしなんです」
「子どもさんは? 近くに居られないんですか?」
「すぐ近くに長男が居ますけれど、知らせたくないんです。心配するから!」
「電話番号を教えてください。 僕が電話します。 病院に着いてから手術、…なんていうことになったら困りますから…」
とうとう観念して、友人の香代子さんに電話をかけた。
自分が話せば、元気であると分かっていただける。
「えー! ナニよ!! すぐ行くわ」と言ってもらって、「持つべきは友!」と感謝の手を合わせる。
病院に着いて、救急出入り口から救急用ベッドのまま、処置室に入り、車いすに乗せ換えていただいた。
ほかにも救急の患者さんがおられるらしく、カーテンの陰で少し待つように指示があった。
救急隊員のお3方は、Dr相手にてきぱきと報告などをしておられる。
お買物の袋が車いすの脇に置いてあり、中からタウリン入りのドリンク剤が覗いている。 今日も会社に出ている息子に飲ませよう、と買ったものだ。
「ちょうど3本入り♪ …お疲れでしょう? どうぞ、1本ずつ…」と差しだしたら、丁重に断られた。
…うふ。
名張警察署の皆さま、救急隊の皆さま、名張市立病院救急外来の皆さま。
今夜は、ほんとうにお世話になりました。
ありがとうございます。
◆
午後11時半に、香代子さんの車で自宅に戻り、ほどなく長男夫婦が会社の帰りに来てくれて、午前1時過ぎまで話に花が咲いた。
Tさんが「バイクが見えていませんでした」とおっしゃって、その話を紹介したら3人が口をそろえて「その方、正直な人やねぇと感心している。
【正直の頭(こうべ)に神やどる】
痛みと興奮で、午前3時まで眠られず。
午後4時過ぎに、「季刊・金つなぎ」36号が完成を見た。
このたとえようの無い解放感!
次は郵便局に行き、病友がたやサポーターの皆さまからのご厚志を記帳しなければ…、それから預金を下ろしてGWに集う家族のためのお買い物をしなくては…
…で。
午後5時過ぎから、郵便局→銀行→しまむら→キリン堂→百均→トップバリューと回ってバイクで帰路に着いた。
運動公園の桜並木の道を帰る途中で、事件は起きたのだ。
桜花の季節が過ぎて、「こんなに暗い道になっているのね!」と思いつつ、時速30キロ弱のスピードで路肩を走っていたさくらの眼の前に、突然車のライトが飛び込んできた。(ように見えた)
強烈な光であった。
同時に、眼の前に迫った白い乗用車のフロント部分がのしかかってくるような恐怖感に襲われた。
「わぁっ!」
叫ぶのと両ブレーキを握りしめたのと、横倒しになるのが、殆ど同時に起こったのだった。
慌てて起き上がり、散乱した買物袋やダンボール箱の中身を拾い集める。
GWの後半に、我が家に集う息子や孫たちのための食材などをたくさん買い込んで帰る途中の事件である。
一刻も早くその場を離れたい、誰にも迷惑や心配をかけたくない。
「救急車を呼びましょうか?」と、どなたか男性が訊ねてくださったけれど、「大丈夫です」と答え、心中は、何よりも早くこの場を逃れたいのだった。
「でも、警察には連絡した方がいいですよ」と重ねて言っていただき、名張警察に電話をかけた。
さくらの携帯には、名張警察が登録されているのだ。
独居の老女には、いつ何どき災難が降りかかるか分からないのだもの。
「あなたは、どなたですか?」と電話の向こうの警察官。
「あ、事故の被害者ですぅ」とさくら。
「あー、それなら当事者同士でこちらに来てください。 そしたら、早く済みますから!」
「そんなぁ。 私は怪我をしていますし、バイクも壊れているんですよ。 来てくださいな!」
10分近くのちに、サイレンを鳴らしてパトカーが来てくださった。
◆
この時間帯は折悪しく、新体操のグループが体育館を後にするとあって、事故の相手方・Tさんは娘さんを迎えに来られて、その目の前で事故を起こされたのだった。
私は母子の前で、「ここに来合わせたばかりに、事故が起こってごめんなさいね」と言い、中学生と思しき少女に自分の孫娘を重ね合わせていた。
周囲には子どもたちがわらわらと駆け寄ってくる。
誰かが呼びに行ったらしく、新体操の関係者らしき女性が駆けつけて来られた。
目礼したさくらには一瞥もくれず、「大丈夫ですか!」とTさんの背中を撫でさすり、「何かあったら、連絡してくださいね!」と言い置いて、戻って行かれた。
なぜか、自分がとても悪いことをしたかのような錯覚に陥っていた。
特筆しておくけれど、さくらはこのとき、善意の被害者だったというのに!
◆
パトカーから降り立った警察官が、「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょう!」と再三言ってくださったのだけれど、やせ我慢を張って、かたくなに拒み続けた。
息子たちに知られたら、心配もかけるし叱られるし、救急車の方にも病院にも迷惑をかけるし、世間さまにも恥ずかしいし、どの道良いことなんか、ナニもないのだ。
少しくらい痛くったって、ドンマイ、ドンマイ。
自分だけ辛抱すれば、日々薬(ひにちぐすり)で、ほどなく治るわ♪
「では、一人ずつ話を聞きましょう」
3人来られた警察官のそれぞれが、事務的に調書を取っていかれる。
でも、興奮しているさくらは、警察官の質問にうまく答えられないのだ。
「…だから! 私はこの道路の左の路肩を、時速30キロ弱のスピードで向こうからこちらに走ってきたのですぅ」
「あー、もういいですわ。 聞いて上げましょう。 それで?」
警官のおひとりが、道路の真ん中に出て状況説明しようとするさくらを「奥さん、危ない!」と大声で制止され、「もうっ! びっくりするじゃないですか!」とさくらも応じ、「そんな真ん中に出て行ったら、また引かれますよ」など言われ、事故に至るまでの状況を縷々説明して、「…そうですよ、ね!」と相手方のTさんに同意を求めようとすると、「向こうは向こうできちんと話を聞いていますから…」などとおっしゃって、自分の正当性を伝えたいさくらとしては、すこぶるせつない展開となった。
この夜は、意外に冷え込みがきつかった。
午後5時過ぎ、市中に用足しに出る前に、背中にほかほかカイロを張って出たのだけれど、冷たい風にさらされ、両足が締め付けられるように腫れてくるのが自覚される。
ついに、ギブアップだ。
「済みません。 足がとても痛んできたんです。 やはり救急車を頼んでいただけませんか」
あー、心ならずも迷惑をかけてしまう…!
救急車の皆さま、ごめんなさいね。
夜の闇の中、サイレンを鳴らして救急車が到着した。
「大丈夫ですか? どう、されました?」と言いつつ、あっという間にテレビドラマで見るような展開で、折り畳み式の医療用簡易ベッドに乗せられ、車内に引き上げられた。
「ご迷惑をおかけしますぅ」
「お世話になりますぅ」
「ごめんなさいね」
これ以外に、何が言えただろう。
とにかく、寒くて痛くて、せつなかった。
名張市の救急救命士は、手早い。 優しい。 親切である。
住所、氏名、年齢、職業などを手際よく聞きながら、別の手が心電図を取り、血圧を測り体温計を貸してくださる。
かっこいいなぁ!
しかし、痛いなぁ! 寒いなぁ!!
「どなたか、ご家族は?」
「あー、居ません。 独り暮らしなんです」
「子どもさんは? 近くに居られないんですか?」
「すぐ近くに長男が居ますけれど、知らせたくないんです。心配するから!」
「電話番号を教えてください。 僕が電話します。 病院に着いてから手術、…なんていうことになったら困りますから…」
とうとう観念して、友人の香代子さんに電話をかけた。
自分が話せば、元気であると分かっていただける。
「えー! ナニよ!! すぐ行くわ」と言ってもらって、「持つべきは友!」と感謝の手を合わせる。
病院に着いて、救急出入り口から救急用ベッドのまま、処置室に入り、車いすに乗せ換えていただいた。
ほかにも救急の患者さんがおられるらしく、カーテンの陰で少し待つように指示があった。
救急隊員のお3方は、Dr相手にてきぱきと報告などをしておられる。
お買物の袋が車いすの脇に置いてあり、中からタウリン入りのドリンク剤が覗いている。 今日も会社に出ている息子に飲ませよう、と買ったものだ。
「ちょうど3本入り♪ …お疲れでしょう? どうぞ、1本ずつ…」と差しだしたら、丁重に断られた。
…うふ。
名張警察署の皆さま、救急隊の皆さま、名張市立病院救急外来の皆さま。
今夜は、ほんとうにお世話になりました。
ありがとうございます。
◆
午後11時半に、香代子さんの車で自宅に戻り、ほどなく長男夫婦が会社の帰りに来てくれて、午前1時過ぎまで話に花が咲いた。
Tさんが「バイクが見えていませんでした」とおっしゃって、その話を紹介したら3人が口をそろえて「その方、正直な人やねぇと感心している。
【正直の頭(こうべ)に神やどる】
痛みと興奮で、午前3時まで眠られず。
こんな場面でも旺盛な記者魂を発揮され、臨場感伝わる一巻のショートショートを拝読する心地です。
くれぐれもご自愛専一に、やせ我慢と突っ張りはご無用に。