コロナ禍で読んだ小説の中で、2作は飛び抜けて秀作だった。逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』と、韓国の女性作家のチョ・ナムジュさんの『サハマンション』である。前者は新聞の書評欄で知り興味を持ったが、後者は書店で別の物と間違えた買ったものだったが、読み終わりとても満足している。
『同志少女よ、敵を撃て』については以前も書いた。第2次世界大戦の独ソ戦が舞台で、戦場に狙撃兵として送り込まれた少女たちが主人公である。敵はもちろんドイツ兵だが、読み進んでいくとそれだけではないと気付く。ウクライナとロシア、カザフスタンとロシアの歴史にも触れていて興味深い。
『サハマンション』は現実を超えていながら現実的な小説である。どこか分からないが、本国から独立した都市国家の中の無法者が暮らしているマンションの住民の物語だ。大企業が地方都市を買い上げ、そこに関連企業も集めて独立国家にし、都市の機能は企業が責任を持って維持している。
マンションは正規の住民になれない人たちが集まり、都市の人たちがしない仕事を低賃金で引き受けている。いろんな事情で住民登録出来ない人たちは、マンションの中で互いに干渉せずある意味で助け合って生きている。私たちの現実の暮らしも、そんな身分の差は無いように見えても変わらない気がする。
逢坂さんは1985年生まれ、チョさんは1978年生まれ、ふたりとも私の娘たちよりも若い。想像力と観察力がずば抜けているから、次作を心から期待している。「恋した女性たちは1月生まれだった」などと構想して悦に入っているようではダメだ。