「土曜日なのに、観るものが無いわねぇー」と、カミさんは番組表を見て言う。カミさんがチャンネル権を放棄することは滅多に無いので、私は何気なく映画が観たくなった。映画は『ムーンライト』というタイトルだった。活劇なら切ればいいとスイッチを入れた。
画面はキレイな南部アメリカの黒人街で、同じような家がズラリと建ち並ぶ。豪華なアメリカ車に乗った男が、麻薬の集金に来ていた。その前を小学生の男の子が走って行き、その後を悪童たちが追いかけて行く。
逃げて行った男の子は、映画の主人公で瞳がキレイだ。本名は「シャロン」なのに、「リトル」と呼ばれ、内気でいつも下を向いている。彼は母親と二人暮らしだが、母親は麻薬を吸い売春で生活している。シャロンは家に居場所が無い。
そんないじめられっ子のシャロンを助けるのが、麻薬売人の男で、まるで息子のように可愛がる。けれど、母親に売人とののしられ、シャロンにも気付かれてしまう。孤独なシャロンにも一人だけ友だちがいた。ケヴィンはシャロンに「いつもイジメられていて平気なのか。強いところを見せろ」と言う。ふたりは取っ組み合いをして遊ぶ。
高校生になったシャロンはふとしたはずみでケヴィンと唇を重ねる。しかし、学校では相変わらずいじめの対象で、悪童たちはケヴィンにシャロンを叩き潰せと命じ、シャロンは打ちのめされる。シャロンは教室にいた悪童のボスにイスを振りかざして叩き潰し、少年院に送られる。
成人となったシャロンは筋肉隆々の男で、高級なアメリカ車に乗る売人のリーダーになっていた。そこにケヴィンから電話が入り、シャロンはケヴィンのレストランを訪れ、ケヴィンの料理をいただく。ふたりは昔を懐かしむ。ケヴィンは結婚し、子どもがいると話す。シャロンはケヴィンと唇を重ねて以来、人の肌に触れたことは無いと告げる。
映画はそこで終わってしまうから、この先が気になるし、何がテーマなのかと考えさせられる。全編、黒人しか出てこないのも映画の狙いなのかも知れない。