多彩な句 ~句集『肥後の城』を読む~
後藤信雄
永田満徳さんのこの第二句集は、八年間で作った五千句の中から三四四句を収めたものとのこと。なんとひと月平均五十句以上の計算となる。多作の中から選び抜かれた句が多彩な表情を見せる。
肩書の取れて初心の桜かな
衣擦れのして運ばるる夏料理
花筏鯉の尾鰭に崩れけり
ポンポンダリア空の一角より晴れて
実感のよく伝わる句であったり、写生がよく効いていたりする句である。
喧嘩独楽手より離れて生き生きと
夭折にも晩年のあり春の雪
群をなすことを力に鶴引けり
春筍の目覚めぬままに掘られけり
これらは発見のある句と言えようか。手から離れて生き生きとする喧嘩独楽はまさにその通り。夭折にも晩年のあるという発見と春の雪の取り合わせ、違和感であろうか。
薄氷の縁よりひかり溶けてゆく
白梅のひかりあふれてこぼれなし
消ゆるまで先を争ふ石鹼玉
一物仕立ての句を集めてみた。薄氷の美しさ、石鹼玉の儚さなどがよく現れている。
いがぐりの落ちてやんちやに散らばりぬ
冬籠あれこれ繋ぐコンセント
どら焼きの一個をあます暮春かな
あんな人こんな人ゐる涼しさよ
面白み(俳味)のある句群である。口語「やんちやに」の面白さ。「コンセント」という現代的なものへの視線。三句目は「肥後のいっちょ残し」というところか。
落葉踏む音に消えゆく我が身かな
蝌蚪生まるどれがおのれか分かぬまま
夜半の秋頬を撫づれば顔長し
庭一杯菊を咲かせて老いにけり
自分を意識して詠んだ句。落葉踏む音の一句目は感慨深い。三句目は何気ない日常の一齣ながらしみじみとしたものがある。
水俣やただあをあをと初夏の海
死に至る烈士の意志や楠若葉
手足より苗立ちあがる御田祭
曲がりても曲がりても花肥後の城
熊本の風土を詠んだ句。水俣の海や阿蘇の御田祭に思いを寄せて詠んでいる。
こんなにもおにぎり丸し春の地震
この町を支へし瓦礫冴返る
一夜にて全市水没梅雨深し
阿蘇越ゆる春満月を迎へけり
そして熊本地震・人吉水害にまつわる句群。災害の多い歳月であったが、それを句に書き留めた。四句目は、そのような災害を越えて春満月が熊本の地を照らしてくれているかのようである。
最近の永田さんは多作なだけではなく、ネット句会やズーム句会を次々に立ち上げるなど、ますます旺盛な行動力を示している。その行方にも目が離せない。