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良平は「じょろかき」(あぐら)になり、大吉は寝そべって巻たばこを出した。「朝日」という良平も知っているたばこで、しかし村では巻たばこを吸うものはないから、袋から一本それを指で引きだして、寝そべった上半身をおこして、くわえた口を燭台の方へ持って行って火をつけるのが見ていて珍しい。すうっとひと口吸って、それからふうっと吐きだすとき大吉の咽喉仏(のどぼとけ)がごくりと上がり下がりする。それが良平には珍しい。
[ken]「朝日」は私が子どもの頃まで、周囲の人が吸っていたので身近に感じるたばこです。「朝日」は1904(明治37)年に、「敷島」「大和」「山桜」と一緒に口付紙巻きたばことして販売が開始されました。ご存知のとおり、「朝日」のブランド名は本居宣長が詠んだ「しき嶋のやまとこころを人とはば 朝日ににほふ山さくら花」から付けられました。
長くトップブランドとして愛好されてきましたが、戦後は両切りやフィルター付きの紙巻たばこにとって代わられ、1976(昭和51)年12月で製造を打ち切られました。今回、初めて知ったのは、香川県高松市の「朝日町」(あさひまち)の町名が、専売公社の高松工場(2005年閉鎖、跡地に香川県立中央病院が2014年移転開院)で「朝日」が製造されていたことに由来していることでした。(つづく)