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抜き書き帳『出発は遂におとずれず』(7)

2016年07月16日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
「出発は遂におとずれず」①
【374ページ】
オワッタ、オワッタとむくむくした煙のようなものが胸もとにつきあげてきて、私は思わずにっこり笑ってしまい、口もとをしめようと思ってもしめられない。からだの中の毒素を出してしまわなければそれは止まらないと思い、しばらく声を立てずに独笑しながら歩いた。私は生き残れるかも知れないと思うと、筋肉のどの部分もてんでんにおどりはじめたようで、からだが熱く、中心に太い心棒が立ち、トエが傍に来たか誰かに見られたか、そんな感じがして思わず前後を見廻したが、誰もいるようではない。

[ken] 沖縄の戦跡を訪ねたり、広島・長崎への原爆投下の日が近づいたりすると、誰しもがもう少し日本が早く降伏していたら、という想いを強くしますね。第二次世界大戦の戦死者数を調べてみると、はっきりとした数字が残っていません。戦闘以外の飢饉や病気の被害者数も含めた数字としては、連合国・枢軸国および中立国の軍人・民間人の総計は5000万〜8000万人といわれています。一説には8500万人とする統計もあり、当時の世界人口の2.5%以上が被害者となったとのことです。また、事情は日本(人口71,380,000人)でも同じであり、第二次世界大戦における人的損失は、軍人2,120,000人、民間人50~100万人、合計262~312万人とされています。そんな状況にあって、特攻兵としての島尾さんに「出発は遂におとずれず」8月15日を迎えました。その瞬間、助かったことを知った直後の心境が正直に吐露され、「筋肉のどの部分もてんでんにおどりはじめた」という記述が心に沁みました。(つづく)
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