『日和下駄』⑤
【277ページ】
近頃日和下駄を曳摺(ひきず)って散歩する中(うち)、私の目についた崖は芝二本榎なる高野山の裏手または伊皿子台から海を見るあたり一帯の崖である。二本榎高野山の向側なる上行寺は、其角の墓ある故に人の知る処である。
【280ページ】
芝伊皿子台上の汐見坂も、天然の地形と距離とのよろしきがために品川の御台場依然として昔の名所絵に見る通り道行く人の鼻先に浮かべる有様、これに因ってこれを観れば古来江戸名所に教えられる地点ことごとく名ばかりの名所でない事を証するに足りる。
[ken]本節の「高野山」は慶応大学東門と隣接したお寺で、昨年、地元の反対を押し切り「納骨堂」を建設しました。伊皿子台上の汐見坂には今も道標が建って、以前は海を眺める名所であったと記されています。たしかに高台ではあるのですが、今は海が見えず、私にとっては泉岳寺までの散歩コースの途中地点です。
これからの時節、陽が長くなるので永井荷風さんの歩いた坂、眺め見た崖の景色などを追想しながら、お昼休みと帰路の回り道を楽しみたいと思っています。「陽が長くなる」といえば、永井荷風さんの文章は句読点が極端に少なく、「読みやすいように、なるべく句読点を打つ」ことに心がけていた自分にとって、初めはとても読みづらく違和感を持ちましたが、あくまでも自分のつたない思い込みに過ぎないと納得しました。
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近頃日和下駄を曳摺(ひきず)って散歩する中(うち)、私の目についた崖は芝二本榎なる高野山の裏手または伊皿子台から海を見るあたり一帯の崖である。二本榎高野山の向側なる上行寺は、其角の墓ある故に人の知る処である。
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芝伊皿子台上の汐見坂も、天然の地形と距離とのよろしきがために品川の御台場依然として昔の名所絵に見る通り道行く人の鼻先に浮かべる有様、これに因ってこれを観れば古来江戸名所に教えられる地点ことごとく名ばかりの名所でない事を証するに足りる。
[ken]本節の「高野山」は慶応大学東門と隣接したお寺で、昨年、地元の反対を押し切り「納骨堂」を建設しました。伊皿子台上の汐見坂には今も道標が建って、以前は海を眺める名所であったと記されています。たしかに高台ではあるのですが、今は海が見えず、私にとっては泉岳寺までの散歩コースの途中地点です。
これからの時節、陽が長くなるので永井荷風さんの歩いた坂、眺め見た崖の景色などを追想しながら、お昼休みと帰路の回り道を楽しみたいと思っています。「陽が長くなる」といえば、永井荷風さんの文章は句読点が極端に少なく、「読みやすいように、なるべく句読点を打つ」ことに心がけていた自分にとって、初めはとても読みづらく違和感を持ちましたが、あくまでも自分のつたない思い込みに過ぎないと納得しました。