愛に、スペアはありません。
ひとつの愛を失っても、ほかにも愛はあるからいいと思っている方もいらっしゃるでしょう。
ですが、かのじょと同じ愛を表現できるものは、ほかにいません。
かのじょは暖かい。やわらかい。こまやかに愛する。
泣いている人間を見ると、すぐに下りてきてくれるというような天使は、かのじょだけだったのですよ。
まるで、ころんだ子供に思わず駆け寄ってくる母のように、かのじょはいつも、あなたがたのところに来ていたのです。
わかるでしょう。
顔を見れば、かのじょがそんな人だと、もうあなたがたにも、わかるでしょう。
もうあの愛はいないのですよ。
この世界に、どんなすぐれた天使がいようと、どんな美しい女がいようと、かのじょと同じ人はいないのです。
もう二度と会えないということの寒さがわかってくる頃には、もうあなたがたは凍りついている。
愛に、消えろと言ったことの結果が、どういうことなのか、わかってきたでしょう。
もはや元には戻りません。
あなたがたは今まで、このようにして、あらゆる愛をなくしてきたのです。
どれもみな、スペアのない、ただひとつの愛を、ことあるごとに侮辱し、なくしてきたのです。
そしてその寂しさを埋めるために、あらゆることをやってきた。
セックスと暴力に溺れ、きつい幻想を地上に描いてきたのは、ただ、なくしてしまった愛が痛すぎたことを、少しでも忘れるためです。
ただ一言、本当に愛している人に、愛していると言えなかった。
ただそれだけのことが、あらゆる人類史の起源なのです。
サビク