No,85
オーブリー・ビアズリー、「踊り子の報酬」、19世紀イギリス、アール・ヌーヴォー。
これこそ、猟奇的だね。実に恐ろしい。
ワイルドの戯曲「サロメ」につけた挿絵だが、サロメはヨカナーンに恋するものの受けいれてもらえず、エロド(ヘロデ)王の前で踊ることの代償にヨカナーンの首を要求するのである。
もちろんこれは史実ではない。愛するあまりに相手を殺すというのは、男にはよくあることだが、女には滅多にない。
ワイルドはこの、男の中にある、女に対する殺人的な愛を、女に仮託することによって表現したかったのだろう。事実、戯曲の主人公が女ではなく男だったら、これほど美しい挿絵は描けない。
男は自分たちの中にある激しい愛を、女に変換することによって、美しく洗練させたかったのかもしれぬ。だがその美は、いかに美しかろうとも、背徳の匂いが激しく染み付く。
おもしろい作品だ。人間はこれを見ると、強く惹かれるだろう。時には、人道を排しても手に入れたい愛がある。そういうことを考える時が人間にはある。
愛というものを考える時、重要なことを教えてくれる作品だ。