世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

アロンダ⑧

2018-01-30 04:12:59 | 風紋


テヅルカの神話にはカシワナ族のことはかけらも出てこなかった。彼らは何者なのかを教えてくれる話はなにもなかった。

彼は何者なのだろう。あの男は。あんなに美しいのに、なんで刺青をしないのだろう。

刺青をしない男など、ヤルスベの村では考えられないのだ。大人になる痛みに耐えられないということだからだ。だのにあの男と来たら、自分の知っているどんな男より、大人に見えるのだ。

あんな男がいていいのだろうか。

シロマゴの話を聞き終えると、アロンダは広場で会った知り合いに軽い挨拶をして、家に帰ろうとした。だが、家に帰ってひとりになればなったで、いやなことを考えるような気がした。だからシロマゴが弓を持って帰ってしまっても、まだ広場でまごまごとしていた。子供が広場の隅に集まって、何か話をしている。

「ねえ、知ってる? アルトゴがカシワナ族の漁師に聞いたんだってさ」
「うん、知ってるよ。カシワナ族の族長が、鹿にやられたんだろう」

その子供の話を聞いて、アロンダはびっくりした。思わず振り向き、子供たちの顔を見た。三、四人の子供が顔を寄せ合い、面白そうな顔をして笑っている。

「仲間をかばって、おっきな鹿と闘ったって、カシワナの漁師が自慢げに話してたんだってさ」
「大けがしたって。やっぱりカシワナ族って馬鹿なんだ。テヅルカを尊敬してないからだ」

アロンダはいつの間にか、小走りに川に向かって走っていた。




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