goo blog サービス終了のお知らせ 

世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

夏⑧

2018-01-10 04:12:36 | 風紋


アシメックは驚いた。こんなに早く来るとは思っていなかったのだ。セムドは言った。

「ユカダのところの、コルというんだ。四歳だ。一応、会わせてみようと思ってつれてきた」

コルは四歳にしては小さめの子供だった。子供なら普通夏は丸裸だが、小さい腰布をつけている。時々神経の細い子供がいて、見えるのを恥ずかしがると、親が茅布で腰布をつくってやることがあるのは、アシメックも知っていた。

コルは大きな目で、不安そうにアシメックを見上げていた。今にも涙が出て来そうな目だ。母親に言われたものの、つらいのだろう。アシメックはしばし何も言えず、コルを見つめた。

沈黙が流れた。コルの表情がくもりはじめた頃、アシメックは意を決してコルに近寄り、膝を折って、やさしく声をかけた。

「おれのことは知ってるか」

「うん」とコルは言った。

「すぐに来なくてもいいんだぞ。おまえが嫌なら、嫌と言っていい」

するとコルは、大きく声を飲み込んで、涙をぽろぽろ流した。ものわかりのいい子供なのだ。幼いながら、母親が子だくさんで苦労しているのを、知っているのだ。

「かあちゃんが、アシメックのところは、いいぞって」
「言ったのか」
「うん。米、たくさん食えるって」
「ああ、たびたび食わせてやるよ」
「かあちゃんのところでは、めったに食えないからって」

そういうと、コルは、大きな声を上げて泣き出した。アシメックはたまらなくなった。抱きしめてやりたいが、子供が怖がるといけない。

「だいじにしてやる。ソミナもやさしいぞ。おまえがいいっていうなら、おれんとこに来い」

そう言ってやるのが、精一杯だった。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする