ほかの女と比べると、際立って美しいということが、彼女の周りに違う空気を作っていた。みなと一緒の仕事をしていても、周りにいる人間が自分を違う目で見ているのを常に感じていた。自分の村にいながら、アロンダは自分だけが異部族の人間ではないのかと思うことがたびたびあった。男もあまり近寄って来なかった。
その自分を、あの男はまるでなんでもないかのようにつかみ、後ろに引き戻したのだ。そんなに無造作に人に扱われたことは、アロンダにはあれが初めてだった。
自分はカシワナ族ではない。彼らのように赤い土を顔に塗るなんてとてもできない。言葉も変だし、彼らは時々、ヤルスベ族には信じられないようなこともするのだ。
わたしはヤルスベだ。交渉をするのなら、胸に刺青のある自部族の男の方がいい。カシワナの男なんてぞっとする。それなのに、なぜ、あの男のことばかり、思い出すのだろう。
茣蓙を編みながらアロンダの心は迷走していた。頭の中は幻想のようなことを考えているのに、手は別物のように動き、美しい茣蓙を編んでいく。アロンダの茣蓙も美しかった。もう母の茣蓙にも負けずとも劣らない。編みあがったら、隣の家のマルコバに、干しすぐりの実と換えてもらおう。
日が、西側の山の方に傾くころ、アロンダは再び、川に向かった。エビをとるためにしかけた罠を見るためでもあったが、本当は向こう岸を見たかったのだ。
エビはかかっていなかった。それを確かめると、アロンダは向こう岸を見た。いつからか、時々こうして、夕方近くに岸に立ち、ひとりで向こう岸を見ることが習慣になっていた。
カシワナ族の村に行っても、また似たような目で人に見られるだろう。いや、もっと嫌な目で見られるかもしれない。でも、もう一度、あの男に会ってみたい。そういう気持ちが自分の中にあることを、アロンダはもう否定できなくなっていた。