だれにも自分の存在をまっすぐに受け止めてもらえないような、苦しい壁のようなものが村にはあった。みんなは彼女をいじめたりはしなかったが、あまりかかわろうともしなかった。
美しい女というものには、何か神霊めいたものを感じてしまうのだ。だからふざけたことができない。ヤルスベ族の人々は、アロンダをなんとなくそんな感じで見ていた。
そのようにアロンダは自部族の中にいても、どこか自分をみんなと隔てて感じていた。そういう気持ちが、他部族の男のことを思わせるのかもしれなかった。
何度か川と家を往復し、水を入れた壺を家の隅におくと、アロンダは囲炉裏のそばに座り、小さな茣蓙を編み始めた。干した茅草の束に手を突っ込み、適当な茅を一本取っては編みこんでいく。子供のころに母親から習った仕事だ。一日に四枚は編む。編んだ茣蓙は一枚は家に蓄えておき、あとの三枚はほかの村人と、なにがしかの品物と交換するために使った。
アロンダは四年前に母親が死んでから一人で暮らしていた。他に兄弟はいなかった。母親もかなり美しい人であったので、そのためにあまり男が来なかったらしい。そういうものだ。きれいな女というものは、かえって男がよりつきにくい。
茣蓙を編みながら、アロンダは母親のことを思い出す。いつもさみしそうな顔をしていた。家に来てくれる人間も少なかった。それなりにいい茣蓙を作っていたが、なぜかあまりいいものと交換してもらえなかった。
「上手に編めるようになるんだよ、アロンダ。いいものを作らないと暮らしていけない」
母が編んでくれた茣蓙は今も残っている。自分の下に敷いて使っている。もう擦り切れてところどころ崩れてきているが、捨てられなかった。母以外に、自分をわかってくれる人はいないと、彼女は思っていた。
「おまえはきれいになるだろう。だから、つらいことにひとりで耐えなくてはいけないよ」
母が言っていた言葉がよくわかったのは、本当につい最近のことだ。