美しい女だから、男たちの見る目も違うのだが、まだ子供はいなかった。まともに交渉を挑んでくる男がいなかったのだ。またアロンダも、この人と思う男はいなかった。族長のゴリンゴは年が少々離れていたし、同じ世代の男ではものたりないものを感じていた。
なお、ケセン川のことを、ヤルスベ側では、ミタイト川という。こういう歌があった。
ミタイトの水は恋の水
愛しい人を思うてくめば
神のなさけがあふれて
くるぞ 愛しい人が
おまえのもとに
そういう歌を歌いながら、女たちは行列を作り、川の水を汲みにいくのだ。
アロンダはみなと一緒に川岸につくと、川の水を汲みながら、対岸を見た。向こう岸はカシワナ族の村だ。緩やかな岸辺の地形に、茅草が茂っている。そんなに遠くない。舟で渡ればすぐだし、泳いででも簡単に向こう岸にはたどり着ける。だがそれでも、アロンダにとってはどこよりも遠いところなのだ。
壺の中に水を入れながら、アロンダの目は見るともなく遠い記憶を見ている。あのとき、あの男が無理矢理自分を後ろに引き戻し、前に立って自分を守ってくれた。そのたくましい背中が、まだ忘れられないのだ。
馬鹿なことを、と思う。ヤルスベ族の女にとっては、他部族の男など蛙よりも嫌いなものなのだ。絶対に男と女の仲になどなりたくない。はずなのだ。