アシメックは丸太をたたきながら、みなの様子を楽し気に見ていた。恋が次々に成立していった。イディヤをめぐって、二人の男が争っていたが、それもなんとかできそうだ。ケンカには発展しないように、セムドやダヴィルが目を光らせていた。
隅の方では、ネオがぼんやりと突っ立っていた。信じられないというような顔で、みんなの様子を見ている。サリクは、ケルマという女にしきりに歌を歌いかけていた。ケルマは気のりがしなさそうなのだ。他に気になる男がいるらしいが、そっちは来てくれないのだ。だから迷っている。サリクはその気持ちを、何とか自分の方に向けようとしているらしい。
子供でも歌垣では一人前の男なのだ。立派に自分の方から女に歌を歌いかけねばならない。そうサリクに教えられていたが、ネオはどうしていいかわからなかった。女とどんなことをすればいいのかも、はっきり言ってわからなかったのだ。
どうしよう、と思って皆を見回しているうちに、ネオはある女と目があった。小さい女だ。名前はとっさに思い浮かばなかったが、顔には見覚えがある。目があった女に、歌を歌ってみろ、とサリクが言っていたのをネオは思い出した。そうすると、何だか体の奥から熱いものがこみ上げてくるような気がして、ネオは思わず歌っていた。
おれは蛙だ
水に飛び込みたい
すると女はびっくりしたような目をした。小さいやつに歌いかけられたからだろう。そしてしばらく迷うように目を揺らしたあと、ネオを見て歌った。
わたしは水でも
小さな井戸よ
OKだという意味だ、とネオは思った。そして思わず女に近寄った。近寄って見ると、女は自分より少し背が大きかった。どんぐりのような丸い目が、ちょっとかわいい。
「おれ、ネオっていう」
「ああ、あ、あたしはモラっていうのよ」
それから、ネオは自分がよくわからなくなった。何かが自分を動かしているような気がした。いつの間にかネオは、モラと手をつないで、イタカの野を出ていた。
恋というのは難しいようで、びっくりするくらい簡単に成立してしまうこともあるのだ。サリクがようやくケルマを口説き落としたころ、ネオはモラの家で初めての恋をしていた。