◇両性具有の美「阿修羅像」
本年3月から6月まで上野国立博物館で奈良興福寺の国宝がいくつも公開された。生憎鑑賞する機会が作れなかったが、観客の長蛇の列は観た。
人気の一つは門外不出であった天平彫刻の傑作のひとつ、「阿修羅像」のようである。かつて興福寺参観の折に、西金堂の「八部衆立像」
の中の「阿修羅像」を観た。予て美術書などでこの著名な仏像を知り、一度は本物をと思っていたので、薄暗い金堂内の光の中に立つ阿修羅像には感動した。
奈良時代の734年の作とされているが、この頃の仏像に多い脱活乾漆造。
座像・立像を問わず、仏像はおおむねパターンが決まっていて、お顔の表情にわずかに個性を感じ取るだけであるが、この像は何故これほどまでに人気を博しているかと言えば、あまりにも人間的な魅力をあからさまにしているからであろう。
一般的には美少年、ないしは美しい青年ということのようであるが、
年若い女性であるという人もいる。これも決して少数派でもないだろう。
確かにすらりとした華奢な腕、切れ長で清冽な眼差し、やわらかな頬骨、あえかな胸のふくらみ、等々女性説を裏付ける徴は多々ある。
(私はかねがね阿修羅の、ややつり上がった切れ長な眼差しに、今は亡き女優夏目雅子を見ていた。)
男女どちらともとれるということは、人間が男女に引き裂かれる前の原初の姿を表象するものとして、奇しくも作者(正倉院記録で仏師将軍万福絵師牛養とされる。)が選んだ阿修羅像なのかもしれない。
元来八部衆はインドで古くから信じられていた異教の8つの神を集め、仏教を保護し仏に捧げものをする役目を与えたものという(興福寺国宝殿解説から)。阿修羅は八部衆の一人。
阿修羅は梵語「アスラ」の音写で、インドでは太陽神、仏教では釈迦を守護する神に位置づけられている。
八面六臂の活躍などという言葉があるが、阿修羅像は三面六臂。
両側の二面は明らかに男性(少年と青年)であろう。表情からは力強さが伝わってくる。
さて、この神秘的ともいえる「阿修羅像」の表情をどこまで写せるか。
無謀ともいえる試みではあるが、まずは挑戦。
本物を前に写生することはできないので、写真を見ながら描く。
写真は国立博物館展示のポスターと、「国民の歴史」の挿入写真。
一番のポイントは眼。次は唇。ついで柔らかくかつ初々しい頬。
なかなか本物の姿は写し取るのは難しい。さらなる研鑽が必要だ。
<参考>
国立博物館のポスター