読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

曽根圭介の『本ボシ』

2012年10月08日 | 読書

◇ 『本ボシ』 著者: 曽根圭介  2012.8 講談社 刊(講談社文庫)

  


 2009.9『図地反転』として単行本を出版(講談社)したものを改題し文庫化したもの。
 曽根圭介の本は初めてであるが面白く読んだ。文章もテンポよいし、、人物も会話も
よく書けている。ちょっと粗雑な表現もあるが(猪口を口にくわえニタニタ笑っている中島
に…。(p40))口に咥えるのはキセルかパイプくらいで猪口は口に当てるくらいではない
か)、ま、いいか。

 最後まで本ボシがなかなか明らかにならないところがいいところではあるが、小説全体
の5分の4くらい進んで初めて登場する人物が本ボシとは、推理小説のルールに外れ
てはいないのかな。
 いずれにしても当初書きおろした『図地反転』という題名が示すごとく、この本の主題は
心理的な陥穽と錯覚が引き起こす冤罪事件の糾弾である。

 「ルビンの盃(ルビンの壺)」で知られる図地反転図形は、物の形となる「図」に注目する
と盃に見えるが、背景となる「地」に着目すると向き合う二人の顔になる。盃と人の顔は
同時には見ることが出来ない。
 この作品は殺人の唯一の決め手が目撃証人と本人の自白という脆弱な立件の中で、
目撃証人が警察の誘導と思い込みの中で次第に見てもいないのに見たと確信していく
プロセスと冤罪の発生メカニズムが主題となっている。
 主人公の一人一杉研志巡査部長の思わぬ過去が作品の最後の方で明らかにされ驚
く。また元警官に捜索を依頼していた連続殺人の被害者の父親が、犯人を突き止めた
元警官が警察に報告する前に自分に会わせろと迫る場面がある。その先は書いていな
いが読者に考えさせるのも書き手の作戦だ。 

「現在と過去に起こった二つの幼い少女の殺人事件を「図」と「地」にして、無実の人を犯
罪者にするだけでなく真犯人を野放しにすることで新たな犯罪を生み出す危険がある冤
罪発生のメカニズムを丹念に掘り下げていく。」(解説:末国善巳)

 (以上この項終わり)

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