◇ 『 絡新婦の糸』(警視庁サイバー犯罪対策課)
著者:中山 七里 2023.11 新潮社 刊
警察庁にサイバー対策の組織(サイバー警察局)が設置されIT人材を求めてるという記事を読 を
んだ記憶がある。
さすが時代の寵児中山先生、こうした時代性があるテーマを放っておくはずがない。先頃著名な
暴露系ユーチューバーが脅迫、名誉棄損等の罪で訴追され断罪される事件があった。
当節匿名で自由に自分の意見を開陳できるSNSという媒体のなかで、いい気になって根拠のない
情報を元に誹謗中傷を重ねる者が後を絶たないが、SNSが公共空間であり、発言には責任を負わね
ばならない。状況によっては相応の咎めを受けるという話である。
この作品でも「市民調査室」というアカウントで食いレボや旅レポなどで当たり障りのない話題
でフォロワーを増やし、人気あるインフルエンサーとなるや、やおら狙った個人や組織のフェイクニ
ュースを流し拡散させた上で対象者を悲嘆の底に陥れ、あるいは利益を得る。
この「市民調査室」の動きに興味を持ったのが警視庁「サイバイー犯罪対策室」の延藤慧司(多
分警部)。
まず最初「市民調査室」のターゲットになったのは老舗旅館「雅楼園」。最近料理の質が落ちた、
それで客数が減り近々廃業かというフェイクニュースを流し経営不安をあおる。TVなどのマスメデ
ィアで話題となると密かに株式市場でカラ売りなどで荒稼ぎをする。
こうした経済犯事案になると捜査2課(刑事部)など他部署と の情報共有も必要になる。
最終段階で「市民調査室」のアカウントが特定される。意外な人物であったが捜査情報のだだ漏
れが疑われた時点でほぼ見当がついていたので意外でもない。 それにしてもいかにも安直に過ぎる。
サイバー犯罪対策室の活躍ぶりもいまいちで存在感が薄く食い足りない。
SNSに流通する膨大な言葉は思考を奪う。集中力を失しない、思考停止に陥り,他者への攻撃的
態度が増す。SNSの負の局面である。
因みに初めてお目にかかったが、絡新婦はジョロウグモと読むらしい。不勉強でした。
(以上この項終わり)
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