◇ 『バッド・カントリー』(原題:Bad Country)
著者:C・B・マッケンジー(CBMcKenzie)
訳者:熊谷 千寿 2016.8 早川書房 (ハヤカワ・ミステリー文庫)
この作品は、アメリカ南西部を舞台にしたミステリーの最優秀処女長編作品に贈
られるトニー・ヒラーマン賞を受賞した。
アリゾナ州ツーソンの近くロスハロス郡に住む私立探偵ロデオ・グレース・ガー
ネットが休暇旅行から帰ると、自宅の敷地前でアメリカ先住民の男が殺されていた。
これが物語の発端である。
作者マッケンジーの叙述は一種独特なものがあり、ちょっとジェームズ・エルロ
イの語り口に似ていなくもない。饒舌ではない。しかしやや偏執なところがあり、
被害者の部屋に残されていたコンサート・チケットを延々1ページ半使って列挙す
る。ほとんど本筋に寄与しないのに。
ロデオはアメリカ先住民(アメリカインディアン)の血が半分混じっている。仕
事もアメリカ南西部、しかもロスハロス郡にとどまっているようだ。これまでお目
にかかった私立探偵では異色である。生まれ育ったところなので依頼された殺人事
件を調べまわっても、ほとんどが知り合い。都合の良いこともあるが悪い時もある。
実はロデオの敷地前で殺された先住民のほかに、都合6件の殺人事件が短期間に
起こっている。ロスハロス郡保安官まで殺された。インディアン居留地警察の警官
も怪しいし、かつての恋人で保安官の娘サイリーナも怪しい(「酔っているときも
危ねえが、素面の時はもっと危ねえ」女)。橋の袂で殺された少年サムエルの兄ロ
ナルドからは「3日以内の犯人を見つけないとお前の命はない」などと脅されたり
する。
とにかく関係者が多く、話も混み入っていて、最後にロデオが全体像を読み解い
てくれるまでなかなか理解できないのだが、アリゾナ州ツーソン近くの小さな郡の
砂漠の田舎町の、裕福な白人と貧困にあえぐ先住民と、メキシコ系アメリカ人の確
執が産み出した異様な事件と、荒涼とした砂漠の地理的情景が魅力である。
☆荒涼としているのに美しい作品(NYタイムズ・ブックレビュー)
☆ロデオ競技者上がりの私立探偵を主人公に据えるこの土埃にまみれたノワール
小説は、コーマック・マッカーシーに比肩されるという栄誉を早くも勝ち取っ
た。 (エスクァイア)
第二作『Burn What Will Burn』は2016.6 出版とのこと。
(以上この項終わり)