読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

加藤陽子の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

2016年12月12日 | 読書

◇『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』  著者:加藤陽子
                            2009.7 朝日出版社 刊 
  
  

    購読している日経朝刊日曜版に『半歩遅れの読書術』という囲み記事欄がある。
 先月末、生物学者の福岡伸一先生が「専門家が、優秀な学生・生徒を前にして行った
 講義録を読む」という読書を提案したい。」として、本書をとりあげていた。

  近現代史の専門家・加藤陽子氏(東京大学教授)が神奈川県の進学校、栄光学園の
 有志中高校生を相手に行った講座の内容を単行本にしたものである(文庫版もある)。
  ここで加藤先生は「もし貴方がその場に置かれたらどんな判断をしただろうか」と
 問いかける。生徒はこのことによって歴史の瞬間・瞬間にタイムスリップさせられて、
 日本の過去が。自分の生まれる前の遠い昔ではなく、今もなお同じ風土と文化の中に
 生きる自分と地続きのものであることを実感しながら近現代の歴史を認識させられた
 のである。

  私自身「日清戦争はロシア・イギリスの代理戦争であった。それは日清間の「下関
 条約」を見るとよくわかる」、「戦争とは相手国の依って立つ社会の基本原理を変え
 させるところにある。(憲法を変える)」、日露戦争は、日本が満州という市場を求
 めてロシアと戦った戦争であった。という定説ではなく、戦略的安全保障の観点から
 朝鮮半島の帰属をめぐって始まった戦争である。そして日本よりもロシア側が戦争開
 始により積極的であった」などを知り、蒙を開かれた。

  ということはこの講義録の本の読者も同じような体験をする。表面的な歴史事実だ
 けではなくて、なぜ日清戦争は起きたのか、何を巡って中国と日本は戦ったのか、そ
 の時ロシアやイギリスはどうしたのか、一種の代理戦争であった日露戦争でフランス
 やイギリス・アメリカなどはどう考えていたのかなど、関連歴史事象と新しい研究成
 果などを取り入れながら、時に歴史上の人物のエピソードなどを入れビビッドに講義
 を進めていく。巧みである。(たらればであるが、もし私が中高校生の時に加藤先生
 に教わっていたら、もっと社会という教科に興味がわいて…その後…かもしれない)

  「生徒自身が作戦計画立案者だったら、満州移民として送り出される立場だったら
 …と考えてもらう。そのためには時々の戦争の根源的な特徴、国際関係、地域秩序、
 その国家、社会にどんな影響を及ぼしたか、簡潔・明解にまとめる必要があった。そ
 の成果がこの本である。」著者はこう述べている。

  福岡先生は「本当に優れた教師の講義とは、テキストに書いてあることをただ伝達
 するのではなく、テキストを勉強してきた自分が何に気づき、どのように理解してき
 たか、その学びのプロセス自体を伝達できた時、初めて成立するものなのだ。本書は
 そのことの類稀なる例証である。」と結んでいる。

  此処での日本近現代史の勉強は5日間にわたり、①日清戦争 ②日露戦争 ③第
 一次世界大戦 ④満州事変と日中戦争 ⑤太平洋戦争 を学んだ。

                             (以上この項終わり)

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