◇ 『夜の庭師』 著者:ジョナサン・オージエ(Jonathan Auxier)
訳者:山田 順子 2016.10 東京創元社 刊(創元推理文庫)
カナダ生まれのゴーストストーリーである。カナダ図書館協会児童図書賞を受賞した作品で、
ディズニーで映画化が決定しているという。確かに小学校の中学年あたりには格好のゴースト
ファンタージーであろう。
小説を読んでいると背景の時代設定が気になるのが常であるが、この本ではなかなか時代を
示唆する材料が出てこない。昔話では「むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんが
住んでいました」が定番で、読み手はそれで満足、自分なりの想像で時も場所も設定できる楽
しみがある。この本もその昔話の類かと思っていたら、ナポレオンの話が出て、主人公モリ-
が「それは30年も前のこと」と口走った。そこで判明。1845年ころの話なのだ。このころア
イルランドではじゃがいもの大凶作で100万を超す人々が餓死した。人々は先を争って仕事と
食を求めイギリスに渡ったのである。
主人公のモリ-(14歳)とキップ(11歳)はロンドンに向かう船が難破、両親を失う。やっ
と働き場所を見つけ、1台の馬車を駆ってはるばると働き口のウィンザー屋敷を目指す。
屋敷に向かう道の四つ辻でヘスター・ケトルという語り部の老女に出会う。へスターはウィ
ンザー屋敷の怪異を示唆する。
その屋敷の住人は親子4人。気弱そうなバートランド・ウィンザー。奥様はコンスタンス。
弱い者いじめの長男はアリステア。そして7歳のペネロープ。モリ-は食事と掃除、キップ
は庭仕事を受け持つことになった。
この苔や蔦に覆われた古びた屋敷の傍らには巨木がある。幹や枝が屋敷に食い込み一体と
なっている。この館は夜な夜な強風が吹き荒れ、黒ずくめの帽子の男が徘徊する。この男は
「夜の庭師」。庭に育つ巨木は人々の望みを叶えてあげる力を持つ。しかしその代償は魂の
一部。その木は人々の魂を糧に生きながらえている。ウィンザーの両親は借財を返すために
投機にのめりこみ、返済金と引き換えにに巨木に精気を吸い取られていた。
館には鍵がかかった緑の部屋がある。そこには家に入り込んがだ巨木の幹の大きな洞があ
り、願い事をするとその洞に望みのものが現れる。モリ-とキップはある夜「夜の庭師」
がここで手に入れた魂をじょうろに入れ、ひそかに巨木の根に与えている姿を盗み見する。
主人公のモリ-もキップもとても14歳と11歳とは思えない思慮深さと行動力がある。外
国人はこうも早熟なのかと錯覚しそうになるが、そうではあるまい。物語の登場人物はえて
してそうである。物語を進めていく上でどうしても大人びた言葉や行動をさせなければなら
ない必要があるのだろう。
モリ-とキップは八面六臂の活躍でこの巨木と「夜の庭師」と渡り合い、ついにウィンザ
ー親子を救い、自分たちは「おもしろい物語を聞かせてもらったお礼に、喜んで部屋と食事
を提供してくれる人」たちを求めて、再び語り部としての旅につく。
著者は「著者ノート」の冒頭で、11歳の時に父親に読んでもらったレイ・ブラッドベリの
『何かが道をやってくる』に<夜の庭師>のインスピレーションを得たと言っている。興味
深い。
(以上この項終わり)