◇『黙示』
著者:今野 敏 2020.6 双葉社 刊
今野敏としては珍しい古代史とか伝説に焦点を当てた推理作品。とりたてて緊迫感もないし知識の開陳と
その繰り返しが多く、やや冗長の感があるのは否めない。
そもそもアトランティスとかイスラムの暗殺団とか伝説をベースにそれを証明する遺物(秘宝)が存在するかど
うかが犯罪成立の証明にかかわってくるということ、そしてそれが事件性を持つかどうかに問題があるし、警視
庁捜査三課(窃盗)の刑事がこの方面に相当な知見をもって容疑者に相対していくというのもかなり不自然で
もある。
渋谷区松濤に住む富豪の持つ「ソロモンの指輪」が盗難に遭ったという届出があり、なおかつ持ち主の舘脇
が身の危険を訴えてきたことから、所轄の渋谷署から本庁捜査第三課に応援が求められて、萩尾警部補とペ
アを組む武田秋穂が事案に取り組むことになった。
秘書、家政婦、私立探偵、美術館キュレーターなど関係者に事情を聴いているうちに、指輪のあった部屋が
荒らされるという事態が起きた。
関係者からの事情聴取を進めながら萩尾の推理が始まる。
「誰が、なぜ嘘をつくのか。何のために嘘をつくのか、だれがどういう嘘をついているのか。それが分かれば事件
の仕組みが見えてくるだろう」(本書274p)
最後は盗難の現場に関係者全員が集められ、萩尾が推理を披露しながら犯人を指し示すというお決まりの安
楽椅子探偵のシーンが展開される。事件発生からわずか3・4日で解決された事件。萩尾警部補シリーズという
が、 今野敏らしくないあっさりした小説だった。
(以上この項終わり)