読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

朱野帰子の『駅物語』

2022年02月13日 | 読書

◇『駅物語

             著者:朱野 帰子   2015.2 講談社 刊 (講談社文庫)

 

 大企業商社内定を蹴って、大手鉄道会社に入社した若菜直を中心とした、若手駅員の悲喜
こもごもの奮闘譚。テンポの良い小気味いい会話で楽しく読み進める。 

 「お客様に、駅で幸せな奇跡を起こしたい」そんな意気込みで東京駅に配属された直の抱
いていた夢は雲散霧消するかに見えたのだが…。
     カッコイイ応答で副駅長の評価は良かったものの、先輩駅員の鍛え方は結構厳しかった。
 鉄道オタクであることを知られたくなくて必死に抑えている同期の犬飼。
 上司に盾突いてばかりいるヤンキー風先輩の藤原。
 手厳しくても何かと庇ってくれる橋口由香子。 
 あこがれの女性新幹線運転士羽野夏美。 
 営業助役の松本。エリート風吹かす副駅長の吉住。
 いろんな人に脅され、叱られ、おだてられ、けなされ、諭され、結構気が強いところがあ
りながらやさしさも備えた直。
 次第に一人前の駅員に成長していく姿がまぶしい。
 
 第一志望の総合商社内定を蹴ってなぜ鉄道会社に就職を決めたのか。鉄道マニアの弟は重
度の喘息で若くして亡くなった。
 就職試験の日弟の危篤に知らせを受け、急いで病院を目指す彼女は東京駅のコンコースで
転倒し、頭を打つ怪我をした時200万人という乗降客が行き交う中で、5人の人が立ち止まっ
て手を差し伸べてくれた。そんな奇跡のような出来事があって、自分を助けてくれた5人の
人たちを探し出し、お礼を言いたい気持ちが彼女を鉄道駅員の道に向かわせた。
 駅員になる夢を語っていた弟にまともに相手をしてやらなかった。久しぶりに先頭車両に
立ちたいという弟を否定した自分が喘息発作の原因を作ったのだというトラウマから抜け出
すためにも、駅員として鉄道駅に立つことが必要だったのだ。

 同僚たちの助けもあって、何とか5人の人たちに巡り合えた若菜直は、先頭車両に乗って運
転席の車窓から行き交う電車の光景を眺めながら、鉄道駅員としての新たな出発を誓う。
 日常単なる駅で働く従業員としてしか見ていなかった駅員たちも、いろんな目的や悩みや夢
を持って生きている生身の人間なのだということを、改めて気付かせる作品だった。
                               
                              (以上この項終わり)
 

 

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