読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

今野 敏の『海に消えた神々』

2022年03月10日 | 読書

◇『海に消えた神々

 著者: 今野 敏          2005.3 双葉社 刊

  

 これまでに読んだ今野敏の作品とは印象が違う。やや異色の長編サスペンス。
 古代史をさかのぼる紀元前1万2千年の超古代文明の世界が背景にある。
 沖縄列島にムー大陸があったという説を主張する地質学者仲里昇一が自殺した。
海底の鍾乳洞に発見された古代文明の痕跡を捏造したという記事が発端で自殺し
たと報じられた。
 この自殺説に不審を抱いた高校生園田圭介から「仲里教授の無念を晴らしてほ
しい」という依頼を受けた元警官の探偵石神達彦が沖縄の現地で真相解明に取り
組むというのが大筋である。
 また石塚の口を借りて政治家、学者、新聞記者などに対し歯切れよく小気味よ
い批判をしていて共感の拍手を送りたい。

 ムー大陸を巡る諸説、沖縄ムー大陸説、沖縄陸橋説、邪馬台国沖縄説、沖縄の
ニライ・カナイ信仰、沖縄・南西諸島のトラフ海底火山活動によるムー大陸沈降
説など興味は津々と尽きない。
 石神が調査の過程で必要になったスキューバダイビングの体験と海中世界もリ
アルに紹介される。

 海底に鍾乳洞があった。鍾乳洞は地上のもので海底に生まれるはずはなく、彗
星か隕石の衝突で海底に沈んだに違いない。
 仲里麻由美という仲里教授の娘、探偵事務所の助手明智大五郎がアクセントに
なる存在。
 警察組織の上層部がどこかからの要請で事件捜査をうやむやにする。よくある
話だが、今回もその匂いが濃厚になったところで仲里教授の遺跡捏造をチクった
洞窟調査同行のダイバーが事故死したという事実が出て事態が複雑化する。

 石神に張り付けられた志喜屋という刑事が鍾乳洞に潜って帰って来た石神に濡れ
た海水パンツを見て言うシーン。
「おい、シートを海水で汚すな」
「心配するな、新聞紙でも下に敷くよ」

私ならこう書くかもしれない。「心配するな、沖縄の海水だ」

 この本ではサスペンスという本道よりも超古代文明史と海底遺跡のロマンに浸
った方が良いかもしれない。
                        (以上この項終わり)

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