読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

マイクル・コナリーの『燃える部屋(上・下)』

2022年10月06日 | 読書

◇『燃える部屋(上・下)』(原題:THE  BURNING ROOM)

   著者:マイクル・コナリー(Michael Connelly)
   訳者:古沢 嘉通    2018.6  講談社 刊

      
  マイクル・コナリーを最初に読んだのは『チェイシング・リリー』で、次いで『贖罪の街』(ハリー
  ・ボッシュシリーズ第18作)を読んだ。とにかく圧倒される面白さで一気読みだった。本作もハリー・
 ボッシュシリーズ第17作目に当たる。

  本作品の主人公ハリー・ボッシュもロス市警での刑事仕事で25年、年金が付く歳になった。あと1年ほ
 どでリタイア―となるところで、いわばコールド・ケースである「未解決事件班」で過ごすことになった。
 相棒は25歳のメキシコ系女性ルシア・ソト。市警に入ってまだ5年なので刑事としての捜査手順などノウ
 ハウ伝授をボッシュは期待されている。
  ボッシュはソトに「事件捜査は辛抱と微々たる進捗で行うものだ。電撃的な解決なんてない」と教える。

  21年前に射殺事件被害者となって一時有名人となった車椅子のミュージシャンが亡くなった。犯人未詳
 の未解決事件であるが、前市長ザイアスが政治的に動いて、ボッシュたちが再捜査に当たることになった。
  事件自体はそうむつかしいものではないものの、証拠も目撃証人も少なく、まさに足でかせぐ捜査とな
 った。
        アメリカの刑事も操作手順は日本とそう変わるわけではない。街頭の監視カメラ画像を多次元映像に
 加工して銃弾の発射ポイントを特定する技術などはさすがに米国の方が先を行っていると感心する。
  ボッシュは古い捜査記録を再度読み直し、自分なりの視点で物証、証言などを洗いなおすのであるが、
 作者はその過程を丁寧に追っていく。一人娘のマデリンとのやり取りなどボッシュの日常生活も含めし
 つこいほど克明にしかもアップテンポなタッチで綴る。作者の特徴である。

  この未解決事件は、同時刻に起きたEZバンク(小切手現金化店)現金強奪事件が絡んでいること、近
 くの共同住宅で起きた火災で地下室にある無認可保育園の幼児が9人亡くなった放火事件が現金強奪事
 件の陽動作戦だった可能性が出てきたりして捜査も複雑な様相を見せる。その裏には州知事選立候補を
 目指すザイアス前市長に選挙資金をつぎ込んでいるはチャールス・ブルサードという実業家とスピヴァ
 クという選挙参謀がうごめいているなど、奥行きが深い関連事件の解明に奔走する二人の捜査プロセス
 が見事である。

       ボッシュは捜査におけるソトの高い能力を評価し、ソトはボッシュの経験に裏打ちされた判断能力を
 信じ二人には強い師弟愛が生まれてくる。
  実はソトが無認可保育園で生き残った幼児の一人だったこと、そしてこの放火事件を解明する目的で
 警官になったという思わぬエピソードがあって、ボッシュは「これは君の事件だ」と言って放火事件の
 真相と捜査要約を書き上げ地区検事局に提出する作業をソトに任せた。
  しかしボッシュたちの捜査結果の立件は検事局に拒否された。そしてボッシュは停職を言い渡される。
 その訳は…。
  衝撃的展開で驚いたが、これでボッシュをリタイアーさせてしまうのは惜しい。

  巻末に作者がハリー・ボッシュシリーズ第20冊目(『Two Kinds of Truth』2017
)に当たり書いた特別
 エッセイ『走る男』が載っている。ハリー・ボッシュのリタイアーに対する献辞である。

                                (以上この項終わり


  

 
 



  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする