読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ロス・マクドナルドの『動く標的』

2018年05月11日 | 読書

◇『動く標的』(原題:THE MOVING TARGET)
                      著者:ロス・マクドナルド(Ross Macdnald)
                      訳者:田口 俊樹    2018.3東京創元社 刊

  

  ハードボイルドの巨匠ロス・マクドナルドのリュー・アーチャーシリーズのデビュー作
『動く標的』の新訳版である
 リュー・アーチャーはどんな男だろうか。「やせ細った略奪者の顔をしていた。鼻は細す                         ぎ、耳は頭蓋にくっつきすぎていた。瞼は外側に垂れ下がり、それでたいていは眼の形が自
分でも気に入っている三角形になるのだが、今夜の私の眼は…(鏡に映った自分の顔を説明
している79p)。背丈はあるが必ずしもタフガイではない。本書でも2日間の間に4回も頭
を殴られて失神している。だが確かにふらふらっとすることはあっても決して女に甘くはな
いし、金にもきれいである。アーチャーは料理もする。牡蠣が大好きだが前妻は大嫌いだっ
た。で、今は夜だろうが昼だろうが台所に収まって、牡蠣のシチューなど作って心行くまで
食べることができる。酒は飲まない。

 物語は行方知れずとなった億万長者の石油王サンプソンを探し出す仕事をその妻に依頼さ
れるところから始まる。結局身代金要求があり誘拐事件となる。誘拐のターゲットである石
油王は最後に死体で現れるだけ。仕組まれた誘拐事件の背景がかなり混み入っていて、真犯
人は後半の新展開まで判然としない。最後に緊迫したアクション場面が展開し、意外な人物
が殺人を犯す。


 ロス・マクドナルドは登場人物の造形が巧みである。石油王で億万長者のサンプソン。20
歳も若いサンプソンの妻のイレイン。前妻の娘二十歳のミランダ。彼女が恋する自家用機の
操縦士タガート。
ミランダに思いを寄せている中年の弁護士グレイヴス、落ち目の映画女優
イースタブリュック、不法移民売買を手掛けるトロイ、いかさま宗教家のタガート…。冷め
た目で捉えた個性の言動が生き生きと描写される。

 ちなみに「動く標的」という本書の題名。標的というと犯人や事件の対象者のように思うが
そうではない。
 ミランダが言った「退屈な時に車を飛ばす。何かに出会えるかもしれないと自分に言い聞か
せて。何か新しいことにぶつかるかもしれない、道路上にあって、むき出しで、キラキラして
いるいわば動く標的に」(160p)が元。

 新訳版と言っても目を剥くような新しい訳がされるわけではない。確かに部分的には違った
表現があるが、大方は変わらない。しかし例えば旧訳(井上一夫訳版)「ドレスを頭からかぶ
ろうと腕を上げると、」(268p)が新訳版では「ワンピースを頭からかぶろうとして両手を
上げた。」(285p)とあるが、ドレスがワンピースになるとはどういうことか、原書を読ん
でみたい。
 どちらかというと私は旧訳版の方がすんなりと読める。
                                (以上この項終わり)


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池井戸潤の『空飛ぶタイヤ』

2018年05月08日 | 読書


 ◇『空飛ぶタイヤ』著者:池井戸 潤  2006.9 実業之日本社 刊

  

 
企業小説の名手池井戸潤のヒット作。6月に作者としては初めて映画化される。136回直木賞の
 候補作ともなったが文学性が薄いということで受賞作とはならなかったそうである。
  直木賞は読者が高く評価すればよく、文学性が多少弱くてもかまわないと思うが審査員がそう
 言っているのであればしょうがない。それにしても登場人物のキャラクターづくりも巧みで、ストー
 リーの進行も人情の機微をとらえてなかなか読ませる。  

  かつて事件となったタイヤ脱落事故と大手自動車メーカーのリコール隠しをテーマにした作品。
 事故を起こした中小の運送会社社長が、自社の無実を証明すべく巨大企業の不正に立ち向か
 うという一種の経済小説であるが、2002年に発生した三菱自動車製大型トラックの脱輪による
 死傷事故、同社の度重なるリコール隠し事件などを物語のモデルにしていると思われる。作者本
 人が「まともに経済小説を書こうと思って書いたのは、これがはじめて」と言っているという。

  父親の後を継いで中小の運送会社を
経営する二代目社長の赤松徳郎は、自社のトラック等(ホ
 ープ自動車製)
がタイヤの脱輪事故を起こし、死傷者を出してしまい経営危機に陥る。事故原因
 はホープ自動車の調査で一方的に整備不良とされるが、赤松は納得しない。
事故原因は整備不
 良ではなく、事故を起こした車両自体に欠陥があったのではないかと考える赤松は、一向に動か
 ない警察に業を煮やし、独自に事故の真相究明に奔走する。この間業績が低迷するホープ自動
 車へのホープ銀行等ホープグループからの金融支援、赤松運送からの融資依頼拒絶、果ては貸
 しはがしなどがあり、ホープ自動車、ホープ銀行内の権力争い、正義派と唯我独尊派の軋轢など、
 企業内企業間の醜い場面がくりかえされうんざりさせられる。

  結局最後はホープ自動車内の社会的正義重視派の人たちの内部告発でリコール相当の事故
 
を隠ぺいしたグループを告発、社長・専務らが道交法違反、過失傷害致死で告発され、赤松運
 送の整備不良による事故という容疑は消えた。
  度重なるリコール隠しでホープ自動車の信用は失墜し、グループによる金融支援も不調に終わ
 
り、ついに同業の有力自動車会社との合併という非常手段により辛うじて倒産を免れることになる。

  ところで赤松社長は息子が通う小学校のPTA会長を務めている。ところが車両整備不良で死
 亡事故を起こし、刑事責任を問われている人が会長という由々しい事態であるとして会長交代を
 求めるモンスター会員が現れ、存亡の危機を乗り切ろうとしている赤松は四面楚歌状態で苦悩
 するというサイドストーリーが並行して進み、緊迫感がただよう物語に和らぎを与えている。

  特定の業種の企業内に起こるありきたりの経済小説ではなく、カーメーカーの構造的欠陥が引
 き起こした車両死亡事故という社会的関心の大きい事件をとらえて、財閥系グループ企業間のも
 たれあい、まやかしのコンプライアンスを指弾するなど
勧善懲悪のエンターテイメントとして成功さ
 せた好作品である。
                                                                                                         (以上この項終わり)



     


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「下谷七福神」を歩く

2018年05月05日 | 里歩き

◇ 東京七福神巡りのうち「下谷七福神」
   ゴールデンウィーク恒例の東京七福神巡り第9弾は『下谷七福神』。4月30日(月)は振替休日。
出発は山手線鶯谷駅で三ノ輪までの4キロ足らずという楽勝コースなので気楽に9時半ころ家を出
かけたのが間違い。柏駅では特急を見送り次の電車は北千住で特急を通過待ち、おまけに下町の
迷路のような路地と番地で迷うこと30分も時間をロスして、あげくの果ては目星をつけていたうなぎ
屋は祝日が休業、もう一つは不幸があって臨時休業。結局食事にありついたのが2時となって
しま
って、家に帰りついたのが3時という長丁場の七福神巡りとなった。
 この日は当初曇り日と
いうことであったが結構陽が出て気温26度という真夏日。相棒の妻は途中
で日焼け止めを塗りこ
むことに。

<元三島神社>台東区根岸1-7-1  (寿老人)
 先ずは寿老人の元三島神社。ここは鶯谷駅のすぐ前にある。世事に疎く知らなかったが駅前が
ラブホ銀座というか、ラブホ団地というか競う
ように飾り立てたビルが並んでいて、目的はひとつしか
ないカップルが何組も道を行き来していま
す。駅を降り立った二人連れが別の目的で歩いていて
も一緒くたにされること間違いなし。老境に
入った七福神巡りの二人連れがうろうろしていたら、場
違いなところに迷い込んだ田舎者と見られ
ればまだしも、年甲斐もなく…と勘繰られるのも心外な
のでそそくさと神社を後にしました。

       
 JR鶯谷駅   元三島神社                     ラブホ銀座入口

<永信寺>台東区下谷2-5-14   (大黒天)

裏道から入ったので見つけるのに苦労しました。大黒天です。

            
永信寺                      大黒天               昔懐かしい下町の路地

<法昌寺>台東区下谷2-10-6   (毘沙門天)
永信寺の近くに毘沙門天の法昌寺がありました。鍬と苗木を持った二宮尊徳像があってびっくり。
この辺りは戦災でも焼け残ったのか、由緒ありげな立派な構えの店屋が残っています。

        


<入谷鬼子母神>台東区下谷1-12-16   (福禄寿)
言問通りを渡ると入谷鬼子母神。福禄寿です。

       

<弁天院>台東区竜泉1-15-9  (弁財天)
 
三ノ輪に向けて北進します。先ずは弁天院。 その昔樋口一葉が住んでいた家は飛不動の前にありました。「樋口一葉記念館」
 は龍泉3-18-4にあります。

 
      
 飛不動

 
 

  樋口一葉記念館 

 
<壽永寺>台東区三ノ輪1-22-15  (布袋尊)
 
最後は東京メトロ「三ノ輪駅」近くの壽永寺、布袋尊です。
 日光街道沿いに南千住駅まで歩きました。


 
   
 布袋尊      境内の二宮尊徳像


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トマトの支柱立て

2018年05月03日 | 畑の作物

◇ トマトの支柱を立てる
  このところ風の強い日が続き、まだひ弱なトマトが心配でならない。これまではビニール
 の袋など使って風除けをしたものだが、最近の打ち続く風のことを考えて、一挙に支柱を立
 てることにした。しかし昨夜の台風並みの風雨はひどかった。風雨は夜中も続いており、と
 うとう立てた支柱とトマトが残らず倒れてしまった夢を見た。
  今朝しっかりと立っている支柱とトマトを見て安堵した。

  

  
  花芽もしっかりとしてきた  
  

  
  初めて植えた”彩りミニトマト”
  

  
  傍らの青島ミカンも白い花をつけ始めた
  

                     (以上この項終わり)

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いま時の果物を水彩で描く

2018年05月01日 | 水彩画

ぶどうの篭とりんご・バナナ

   

 WTOSON F4

 今どきの果物を描こうということになっていたが、選ばれた果物は季節を問わないリンゴとバナナ、
ブドウもやや季節外れではあるが、オーストラリアからの輸入品(クリムソンとトンプソン)ということで不合格、
わずかにでこぽんと彩りのために添えられた葉付きのキンカンだけが季節の果物ということになった。

 ブドウが入った器は凝った作りで丁寧に描こうとすると気鬱になりそうなのであっさりと処理した。
背景色はあわい暖色にした。

                                  (以上この項終わり)

 

コメント (2)
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