
長野県議会11月定例会が始まる。開会日の午前中長野県公共交通対策会議として、新交通ビジョン及び5カ年計画に地域公共交通の活性化策を盛り込むことを中心課題とした提言を申し入れました。申し入れ内容は以下の通りです。
2012年11月21日
長 野 県 知 事
阿 部 守 一 様
長野県公共交通対策会議
代表委員 高 橋 博 久
同 竹 内 久 幸
同 鈴 木 武 志
同 吉 田 進
「長野県新総合交通ビジョン」策定に関する要請書
県民生活の向上に向けた日頃のご活躍に対し心から敬意を表します。
戦後日本の経済成長期の交通運輸政策は、新幹線と高速道路に象徴される高速交通網、国道などの基幹道路を全国津々浦々に張り巡らせ、人とモノの移動のスピードアップを図ることにありました。都市間輸送の高速化が企業の全国的な投資を呼び、インフラ整備が加速し、地方の労働力が活用されることで右肩上がりの経済成長を実現しました。
しかし現在は、日本市場が成熟化し、少子高齢化により低成長どころか、経済の縮小が予想される事態となりました。高速交通網・基幹道路が経済成長のテコとなる時代は終わりつつあります。公共事業の地方への投資と社会基盤の整備、経済成長を目的とした交通網整備は、逆に、マイカー増加と都市部の慢性的な交通渋滞、公共交通機関の縮小による「交通空白地帯」の出現、マイカーを持たない「移動制約者」へのしわ寄せなど、さまざまな社会問題を引き起こしています。
いま求められていることは、交通政策の目的の転換を図ることです。高速交通網と基幹道路の整備から、生活交通=地域公共交通の整備・拡充に軸足を移し、公共交通を地域社会の基礎的インフラ、地域活性化のための公共財的役割と位置付けていくことです。過疎化や少子高齢化に加え、都市の拡散化、中心市街地の空洞化などが重なり、いずれも公共交通にとっては不利な経営環境ですが、このような問題を克服して地域が自立し、活性化していくには、その基盤である公共交通の維持再生が不可欠です。
ここ数年、県内においても地域公共交通をめぐる諸課題が山積しています。長野電鉄屋代線は、沿線住民の廃止反対が強かったにもかかわらず3月末で廃線となりました。また、生活バス路線の維持・存続問題、北陸新幹線の金沢延伸に伴う並行在来線の経営問題などが大きな社会的課題となっています。
長野県は現在、従来の「長野県交通ビジョン」に変わり、2013年度から15年程度を展望する新たな総合交通ビジョンを策定するために、「検討委員会」を設置して論議を行っています。
県公共交通対策会議は、以上のような基本的な視点から、新しいビジョンの策定に関する提言をまとめましたので、ビジョンに盛り込まれるように要請いたします。
記
1.基本的な視点について
(1)地域公共交通の将来に重点を置くビジョンに
県が新しい交通ビジョンを策定する契機となったのは、北陸新幹線の金沢延伸やリニア中央新幹線の開業など新たな高速交通網に対応する交通ネットワークの構築が求められているためと説明しています。リニア新幹線などの高速交通網の整備の必要性は理解しますが、県民の日常生活を支える地域公共交通の維持・確保に重点を置いたビジョン策定を求めます。
(2)県民の移動権(交通権)保障の明記を
お年寄りや障害者、学生などのいわゆる「移動制約者」への「交通権」=「移動権」保障をビジョンに明記するように求めます。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と謳う日本国憲法25条の精神は、「移動する自由」を含むものと考えられています。交通空白地帯が市街地にも広がる現状のなか、県行政として県民の「移動する自由」を確保する責務があると考えます。
(3)地域公共交通の維持・確保は、重要な公共サービスとして位置付けを
マイカー社会の定着、ここ10数年の規制緩和政策により、交通事業者は厳しい経営環境におかれています。乗客数の減少傾向が続き、交通事業者は、鉄道路線からの撤退やバス路線の廃止や減便などの対応策で経営を維持しています。もちろん交通事業者も、効率性・採算性だけを強調して公共交通部門を切り捨てることは許されず、維持存続のための社会的責任を有していることは言うまでもありません。
県民への「交通権」=「移動権」保障という視点から、地域公共交通は、民間企業だけが担うものではなく、県民・交通事業者との協働を通じて、重要な「公共サービス」として提供されなければなりません。ビジョンにその位置付けを明記するように求めます。
(4)「総合交通政策」の観点から検討を
従来の交通政策は、国・県も含めていわゆる“タテ割り行政”によってすすめられてきたため、国の担当省庁や、県の担当部局を超えた様々な課題をトータルに検討して施策を立案する発想が欠けていました。地域公共交通に関わる政策は、環境・低炭素社会づくり、産業の振興、物流・輸送の拡充、観光の振興、まちづくり・都市計画との調整、災害への対応、高齢者などへの福祉政策、交通事故対策や歩行者・自転車などへの安全対策の拡充など、さまざまな視点から検討すべき性格を有しています。いわば、交通政策を軸として、他の公共政策及び社会政策との統合が求められています。
新しいビジョンは、県組織の一部署だけが担当するのではなく、部局横断的な庁内会議を設置し上記のさまざまな視点からの検討を加え、「総合交通政策」として策定されるように求めます。
(5)地域公共交通の維持・確保のため、県が積極的な役割を
長野電鉄屋代線の存廃問題や生活バス路線の再編、コミュニティーバスの運行など、この間、市町村は住民の身近な足を確保するために、国の制度を活用しながら地域公共交通を維持・確保しています。一方、それらの課題に対して、県が積極的に関与し、県行政としての役割を果たしてきたか疑問を呈さざるを得ません。県は、廃止代替バス路線への支援制度を、国から特別交付税の措置があるため廃止、また、長野電鉄屋代線の存廃問題では、交通事業者と地元自治体に方向性を委ねるなど、消極的な対応が目立ちました。
新しいビジョンの策定にあたり、県が地域公共交通の維持・確保のため、市町村まかせではない積極的な責務・役割を果たすように明記すべきです。
2.具体的な施策について
(1) 新しいビジョンは、将来の青写真や目標を盛り込むだけでなく、実現に向けた具体的な方策
や新たな制度の創設なども合わせて検討し明記すべきです。
(2)地域公共交通の維持・確保のため、「規制」と「政策誘導」を基本的な考え方に据えるよう
に求めます。マイカーの総量・流入規制を大胆にすすめるとともに、公共交通への利用転換を
促進するため、単なる啓発事業ではなく、効果的に県財政を投入し公共交通利用への転換を図
る政策誘導策を策定するべきです。
例としてあげるならば、規制面では、バス専用レーンやマイカー乗り入れ禁止地域の拡大、
政策誘導策としては、通勤に公共交通を積極的に活用している企業への減税制度の導入や、モ
デル事業所・地域を選定しての社会実験の実施などが考えられます。
(3)県は現在、「中期総合計画」を策定中です。新しい交通ビジョンと「中期総合計画」の地域
公共交通に関わる部分をさらに具体化・豊富化する「長野県総合交通計画」(仮称)の策定を
求めます。
県条例に基づく常設の「長野県総合交通政策審議会」(仮称)を設置し、県民や交通事業者、
市町村、有識者の意見を聞きながら「長野県総合交通計画」を策定すべきです。「長野県総合
交通政策審議会」では、「計画」の達成率や課題について検証するとともに、市町村をまたぐ
広域圏での交通政策の調整をおこなうべきです。
また、部局横断的な総合交通政策を推進するために県組織に「総合交通政策局」を設置すべ
きです。
(4)地域公共交通の維持・確保に向け、市町村が実施する事業への支援・補助を目的とする県独
自の制度創設を求めます。
国の「地域公共交通確保維持改善事業」は、残念ながら補助対象が狭く、使い勝手の悪い制
度となっています。市町村がおこなう事業で、国の補助対象とならない事業に対し、財政支援
も含む県単独の統合補助制度を新しいビジョンに盛り込むべきです。
具体的には、市町村が経営するコミュニティーバスの運行補助、公共交通の利用促進運動、
パークアンドライドの整備、デマンド事業への支援、エコ通勤、ノーマイカーデー、カーフリ
ーデーなどの補助メニューを具体的に提示し、市町村が計画を立案し、県に申請する制度です。
そのための財源を確保されるように求めます。
(5)公共交通の利用促進を官民協働ですすめるため、常設の「長野県公共交通推進県民会議」(仮
称)を創設することを求めます。
(6)タクシー業界は、経済不況に加え、規制緩和政策により大変厳しい経営状態に置かれていま
す。しかし、「交通空白地帯」でのデマンドタクシーや乗り合いタクシーの運行、観光地にお
ける交通手段など、公共交通としての社会的役割を発揮しています。タクシー事業を、地域鉄
道や生活バス路線と同様に地域公共交通・公共サービスとして位置付け、新しいビジョンに、
県の積極的な支援策を明記すべきです。
(7)鉄道は、大量輸送性・定時性・安全性に優れている公共交通ですが、近年、輸送人員の減少
が続き、独立採算による事業運営が厳しくなってきています。公共性の高い鉄道という社会イ
ンフラを維持するために、国の支援制度に加え、県が積極的な役割を果たすことが求められて
います。
国の制度の活用だけではなく、地域鉄道を担う事業者への「損失補填補助金」や国庫補助制
度への上乗せ支援、国の補助では対象外となる部分への補助金の交付などを盛り込む支援制度
をつくり、財源は、地域鉄道の維持を目的とした「基金」を創設するように求めます。
(8)定期高速バスは、県内の都市間輸送にとって重要な役割を果たしています。採算性から休廃
止する路線が増えていますが、定期高速バスについても生活交通の広域路線と位置付け、県の
積極的な支援策を新しいビジョンに明記するように求めます。