山崎拓元自民党副総裁と亀井静香元金融担当相、藤井裕久元財務相、武村正義元官房長官が12日、東京都内の日本記者クラブで共同記者会見を行いました。前記の元外務省審議官田中均氏の会見を踏まえていることにも注意。
「亀井静香」氏
あんまり評判のよくない亀井静香でございます。われわれがジジイだからといってこういう危機に黙っておるわけにはいかん。そういう意味で、われわれの思いを政治の場におられる方々、国民の皆さん方に発信しようということになった。ご承知のように、日本は戦後、国際的に、いわゆる普通の国ではない国ということを国是として進んできた。それを一内閣だけでこれを変えてしまう。ルビコン川を渡る。そういうことにしてしまったわけだ。
当然ながら、ワニが出るか、サメが出てくるか。それをわれわれが制御することはできない。相手は制御できない。相手は勝手にやってくるわけだ。
必ず戦死者が出る。今、自衛隊員のリスクがある、ないということが議論になっている。そんな生やさしいものじゃない。戦闘行為をやって戦死者が出るのは当たり前だ。出ないことはあり得ない。
にもかかわらず、一内閣が一国会でそのことをやろうとしている。国会議員も変わる、内閣も変わる。子供が考えてもむちゃなことがまかりとおろうとしている。国会議員だけで決めようとしている。こういう基本的な問題については国民の意思を問うことが当たり前だと思う。子供でも分かる常識だ。それをしないで国家のあり方をがらっと変えようとしている。
「藤井裕久」氏
今、国会で議論が始まっているけれども、機雷掃海というのは極めて具体的すぎる話で、根っこは去年の集団的自衛権行使容認の閣議決定だと思う。あれは個別的自衛権の話だ。
集団的自衛権というのは、対等の軍事同盟だ。日本は過去に2回、対等の軍事同盟を結んでいる。日英同盟と日独伊三国同盟だ。戦後はない。この対等の軍事同盟には特徴がある。仮想敵国を必ずつくることだ。安倍首相は嘘をいって『どこの国も仮想敵国にしない』というが、仮想敵国というのは集団的自衛権の本質だ。
憲法とともに長年にわたり定着している憲法解釈を変更し、集団的自衛権を行使できることとする現政府の方針は、わが国の将来のあり方に大きな禍根を残す。
集団的自衛権とは、特定国と対等の軍事同盟を結ぶことであり、明治以来1902年の日英同盟、1940年の日独伊三国同盟の2例があり、戦後はない。
戦後の集団的自衛権の締結の例として、1949年の北大西洋条約機構(NATO)条約があるが、これらを通じての基本的性格は、現在の世界政治情勢につき、中国の肥大化が危惧されているが、これは対立的軍事同盟ではなく、国際連合による対応を第一義とすべきである。この国際機関は第一次世界大戦がセルビア-オーストリアの二国間問題から世界戦争に至った事態の反省の上に立ち、ウッドロウ・ウィルソンが提案・実現したものであり、日本は国防の基本方針4項目のトップに国連の対応を平和への基本として掲げていることを想起すべきである。
また、アメリカが日本に世界戦略の役割分担を求めていることについては、現首相の祖父岸信介が現行憲法では海外派兵はできない、したがって憲法改正が必要だと考えていることを重く受け止めるべきである。なお、アメリカでも現首相の歴史修正言動に疑念を持っている人が多いことも申し添えたい。
では、これだけ肥大化した中国にどう対応するかという話だが、私は敵対的な行動をするのは決していいことではないと思っている。殴られれば殴り返すのが常識だ。それが世界の常識であり、僕らの常識だ。国連は機能していないといわれるが、人種、人権、貧困といった分野では非常に役に立っている。それから米国の話だが、米国は完全に肩代わりを日本に求めていると思う。自分たちだけで世界の警察官をやるのはだめだということだ。
本当のことをいうと、経済でも肩代わりを求めてきている。こういうことをやっていたら、日本は間違った道を歩む。
「武村正義」氏
安倍首相は70年続いた日本の平和主義をがらりと変えようとしている。海外で武力を行使しないはずの日本が、行使できる国に変わっていく。これでは外国の戦争に日本が巻き込まれていく。専守防衛という考え方がくずされようとしている。日本は専守防衛を貫いたから世界から信頼を得てきたと思っている。また、専守防衛こそが日本の最大の抑止力ではないかとさえ思っています。
歴代内閣は憲法上、集団的自衛権を行使できないという考えを貫いてきた。一定の条件を付けながらこれを認めようとする政府の新3要件は極めて表現があいまいで分かりにくい。そして時の政権によって都合のよい解釈が行われる可能性が高い。米国などに協力をしていく後方支援についても、極めて高いリスクを負っている。戦っている米国などに対して、弾薬や戦闘機の油などを日本の自衛隊が運ぶことは、まさに兵站活動そのものだ。それこそ相手国から見れば格好の攻撃対象になる。極めてリスクが高いといわなければならない。
さらに加えて申し上げれば、今回の安保政策の進め方は一貫性がないし、荒々しい感じがする。そもそも衆議院選挙の時には、憲法を変えようとしていたのではないか。選挙で勝った時も憲法96条を改正して発議要件を変えようとしていた。これは世論の反撃にあってひっこめた。そのあとに出てきたのが閣議決定によって解釈改憲をおこなった。国の基本的な形を変える大きな政策が、論議が未成熟なまま何もかも一挙にけりをつけられようとしている感じがする。国民が納得しないまま数を頼んで一方的に採決すれば、大きな禍根を残すことになる」
私は3つのことを提案したいと思う。一つは、存立危機や国民の諸権利の侵害に対しては、個別的自衛権の幅の中で対応が可能ではないかということだ。もう一つは、近隣諸国の安全保障環境が変わっていることは認識せざるを得ないが、そのためにはわが国の自衛力をGDP1%以内という制約を超えて強化することがあってもいいのではないか。3番目は、それでも(集団的自衛権の行使が)必要であると考えるならば、正々堂々と国民投票を前提にした憲法改正の道を歩むべきではないか。
「山崎拓」氏
今回の安保法制の改正については大きなポイントが2つある。一つは集団的自衛権の行使を容認すること、もう一つは自衛隊の活動の舞台を地球規模に広げることだ。この2つが何のために行われるかということへの説明として、安倍晋三首相が最も好んで使うフレーズに『積極的平和主義』がある。この積極的平和主義に確たる定義はない。現在でもわが国は積極的平和主義の立場をとっているが、それにもかかわらず、積極的平和主義がなければ国際軍事情勢の変化に対応できないというかなり無理な説明が行われている。
私なりに考えてみると、結局、わが国も国際平和の構築のために大いに軍事力を使おうじゃないかと。これが安倍首相のいう積極的平和主義ではないかと考えるが、私はそれをやってはならないという考え方だ。今回の安保法制の改正では『後方支援』という言葉がふんだんに出てくる。わが国が事実上、武力を行使するという意味合いのもので、『存立危機事態』でも『重要影響事態』でも後方支援を行うことになっている。後方支援は実際に戦闘が行われている地域ではなく、離れた場所で行うという説明になっているが、そんなことは事実上できない。積極的平和主義の名の下で、自衛隊が地球の裏側まで行って後方支援活動を行うのは、武器使用や武力行使に及ぶことになり、明らかに憲法違反だ。それは自衛隊が自ら血を流し、相手方も血を流させることになることは間違いない。
現行法の整備で平和主義を十分貫ける。要するにほとんど必要性のない法改正だ。現行法制で十分に対処できる。中国の軍事力の膨張と北朝鮮の核戦力の着々たる整備にどう対処するかということは、まさに個別的自衛権の範囲内のことだ。
《質疑》
○安倍晋三政権は今国会で安保関連法案を成立させたいようだが、これを収める知恵はないか
亀井氏「そんな知恵はないが、私は安倍首相はむちゃなことはしないと思う。もしやれば、自滅状態に陥る。どのメディアの世論調査を見ても、国民は安倍首相が今やろうとしていることを支持していない。それは明白だ。
そういう状況の中で強行採決をして突き進んでいくと、反対世論はもっと大きくなる。この反対世論がやむことはないだろう。その後の選挙で厳しい審判を受けるのは、当然の話だ。安倍首相はそんなに愚かではない。自分の志と違うかもしれないが、そういう道を選ぶことはないだろう。
この議論の中で、『自衛隊員のリスク』なんてことがいわれているが、これは戦死者や傷病者が出る話だ。自衛隊員が戦死する話だ。今の自衛官にその覚悟があるのかという基本的な問題だ。また、そういう状況を国民が認める覚悟があるのか」
○集団的自衛権の行使容認は抑止力の強化につながるか
亀井氏「日本が集団的自衛権を認めると、中国が『これはやばい』といって自制するようになるのか。そんなことはあり得ない。そういう意味では全くナンセンスだ。
米国は米国の判断で世界中に対応しているわけで、自国の利益を考えながらやるはずだ。そんなことは中国は十分承知している」
○なぜ自民党内から反対の声が上がらないのか
山崎氏「今の自民党は1期生、2期生が大半だ。安倍首相も含め、ことごとく戦争を知らない世代だ。平和や安全が空気や水と同じように、タダで手に入れることのできるものだという感覚を持っている。
それに、ほとんど安全保障問題に関心がない。衆院の場合、小選挙区制度のもとでは2分の1以上の有権者が強く関心を持つ分野に、特に力を入れて政策を訴えていくことになる。
有権者の最大の関心事は社会保障、あるいは経済、あるいは教育だ。安全保障の問題を訴えて票になる人はいない。勉強しないということになると、安全保障法制について党内で議論が成り立たない状況になる」
亀井氏「これは国会議員だけじゃなく、マスコミ自身の問題でもある。言いにくいことを言うけどね。マスコミ自身が思っていることをどんどん発信しているか。私は自主規制がかかっていると思う。
私は長い間、政治家をやっているが、今は大変な自主規制をしていると思う。言論の自由が事実上、死にそうではないか。今の日本ほどマスコミ自身が自主規制をかけている時代はない。国が滅びますね」
○安倍首相の「1強」で声を上げづらい状況にあるのではないか
山崎氏「おっしゃるとおりだ。非常に声を上げづらい雰囲気になっている。ヒラメ状態になって、みんな上を見ているということだが、安倍政権の権力にひれ伏して、うかつな声を上げると出世の妨げになるという面もかなりあると思う」
○イラク戦争の教訓を安倍政権はどうとらえていると思うか
山崎氏「当時の認識では、自衛隊の海外派遣は許されるが、海外派兵は許されないという厳然たる線引きがあった。今度の安保関連法案で、海外派兵が行われるようになるから、そこが重大問題だ。
しかるにイラクに大量破壊兵器があったかどうか。答えは『なかった』だ。パウエル米国務長官は後日談で『自分の人生の中で最大の判断の誤りだった』としておられる。その間違いが、そのままわれわれの間違いになった。
今度の安保法制が整備されると、私が非常に恐れることは、イスラム国(イスラム教スンニ派過激組織)の退治に自衛隊が投入されることだ。
後方支援という形をとると思うが、歴史的にイスラエルと中東諸国の対立は解消できない根深いもので、中東紛争に日本が軍事的に関わってはならない。湾岸戦争のトラウマ、つまりあのときは参戦せずにお金だけ出してバカにされたということになっているが、私はあれでよかったと思う」