立憲民主党への「合流はやむなし」でいいのか
1、改憲阻止の裾野が広がっている
(1)「合流やむなし」の背景
2月22日、23日と社会民主党の定期大会が開催された。主要なテーマとなった第1号議案「立憲民主党の枝野代表からの呼びかけについて」が採択され、又市征治党首に変わり福島みずほ参議院議員が党首になった。提案は合流の是非を決めるものではないが、事の性質上合流の是非を問う発言が多かったのは致し方ない。統一と団結を求める声が多かったが、それも、「合流やむなし」も「合流反対」も自信と展望のなさの表れなのかもしれない。
長野県連合の合流についての意見集約でも「合流やむなし」が大勢であった。党員のほとんどが60才以上で「自分は社民党でがんばるが、その先はどうなるのか」、自治体議員も「後継者をつくれるのか不安」、だから「理念・政策・運動・組織が引き継げるのなら立憲民主党への合流へ足を踏み込んでもいいのではないか」という雰囲気である。
私の所属する社民党松本総支部は、県内でもがんばっている総支部の一つである。1990年代前半、社民党会館を自力で建設。当時は衆議院議員1人、県議会議員1人、市議会議員5人いた。社民党に移行してからも2003年までは衆議院議員を擁していたが、県議会議員は当選と落選を繰り返し、市議会議員は現在二人。党員は40人いるが、実質動ける党員は20人くらいである。総支部の財政も厳しく、党員の山に行きクヌギを切って薪をつくり販売することなども試みた(うまくいかなかったが)。運動としても毎月総支部常任幹事会を開催し、毎週月曜日に行っている松本駅前での定例の街頭宣伝も20年近く続けている。総支部副代表は市民と野党の共闘の事務局も担うなど、党員はみんな頑張ってきている総支部である。ただ、ここ数年若手の党員が入っていない。一番若い党員でも40代である。つまり、みんな頑張ってはいるが、10年先を考えた時このまま若手が入ってこなければどうなるかを想像すると、立憲民主党への合流に何か展望や確信があるわけではないが「やむを得ない」となっている。
(2)「大衆の中へ」
ただ私の問題意識は社民党長野県連合が全国幹事長会議の前に意見書として送ったが、「国政政党としての社民党維持が極めて困難な現状にある」としても、これまでの運動の総括抜きには合流しようがしまいが日本における社会民主主義政党の再生はないということである。
2014年全国連合の党再生の議論を受けて社民党長野県連合は、「衆参で多数をとった安倍政権の反動化の流れに対抗する勢力をどうつくりあげていくのか、社民党はただこの一点に向かって、われわれ自身の力も付けるとともに、同じ理念目標をもつ皆さんとの接着剤となり、あるいは縁の下の力となり、信頼をつくりあげていく必要があります。この改憲阻止の運動を通じて、つまり誰とどのように力合わせできるのか、その真剣な取り組みを通じて社民党再生の道を切り開いていくことができる」と提起した。
トランプ政治やアベ政治に象徴される新保守主義の政治は、あらゆる分野で強いものだけが生き残る政治をすすめているため、それに反対し、抵抗する市民運動が生まれてきている。福島第一原発事故を契機とした脱原発運動の広がり、沖縄新基地建設に反対するたたかい、TPPに関連した種子法廃止に変わる法律・条例を求める学習会、反貧困のたたかいなど。これらの運動は、憲法が保障する「個人の尊厳と基本的人権を守る」という点で共通であり、改憲阻止の闘いの裾野を広げるものである。
課題は、私たち社民党員一人ひとりに、意識的に、こうした市民の動きに結び付き、ともに学び、ともに行動する力が残っているのかということである。あらためて「大衆の中へ」を肝に銘じる時ではないかと思う。
2、食と農の課題から見えてくるもの
(1)長野県「種子条例」制定への運動から
一昨年から長野県内で「NAGANO農と食の会」や「子どもの食・農を守る伊那谷」など市民団体が、種子法の廃止の狙いや、遺伝子組換作物について、長野県に種子条例の制定を求めるなどの学習会に取り組んできた。伊那谷では500人、長野松代でも300人、ほか各地で100人規模の学習会が取り組まれ、延べでどのくらいの県民が参加したか分からないほど大勢の県民の皆さんが関心をもった。その多くが小さな子どもを持つ親や有機農業に取り組む皆さんが牽引してきた。
もちろん社民党としても問題意識をもち、2018年8月に行われた長野県知事選挙では「種子条例の制定」を現阿部知事と政策協定もしたし、社民党県議が所属する会派の県政要望の中にも主要な政策課題として位置づけられていた。しかし、学習会が次から次へと全県で開催され、そこに多くの県民が集まってくる姿に接し圧倒されるものを感じざるを得なかった。とにかく学習会に足を運び、「どんな議論が行われているのか、どんな不安を感じているのか」知らなくてはならないと思った。県議選に浪人していたこともあり、可能な限り、それが共産党系の学習会であっても出かけて行った。社民党員にも可能な限り参加を呼び掛けてきた。
こうした県民の強い関心の中で「長野県主要農作物及び伝統野菜等の種子に関する条例 」が制定された。あわせて、この条例制定に寄せられたパブリックコメントの中に「遺伝子組み換え作物が国内に流入することに対して不安がある」「遺伝子組み換え、ゲノム編集の汚染を受けないためにも県内にそのような種子を入れない、開発しないという担保が必要」という意見があり、県は「遺伝子組み換え作物との交雑を防止するためのガイドラインをつくる」ことにもなった。食の安全・安心に向けて動き出した県民の思いは、これで止まらず種子条例が制定されて以降も、食と農の学習会は続いている。この2月から3月にかけても小布施町、伊那市、高森町、安曇野市、長野市でゲノム編集や種苗法、学校給食の有機化などの学習会や、映画上映が行われる予定であった(新型コロナウィルスの影響でことごとく延期となった)。
そして、各地で行われた講演会に出席した自治体議員の皆さんが、有機農業を推進する議連を立ち上げようという声があがり、2月4日に「信州オーガニック議員連盟」が設立され50人余の市町村議員や私を含む県議会議員が参加した。当日、30年前から食と農のまちづくり条例をつくり有機農業を推進してきた愛媛県今治市の取り組みを聞いた。今治市では、学校給食に地元の低農薬・有機の農産物を使用することで有機農業の拡大や、食育の取り組みにつなげてきた。
おおいに触発された地方議員の皆さんは、それぞれの自治体で「学校給食に有機農産物を」提供できるよう動き始めている。長野県においても2月定例会で私から「有機学校給食の推進に向け、県が旗を振り、『学校給食有機の日』に取り組むこと」と「5月に開催されるSDGs全国フォーラム・イン長野において、分科会か特別企画でSDGs有機特別フォーラムを開催したらどうか」提案し、前向きに受け止められている。
(2)グローバル企業とのたたかい
国はTPP関連で「種子法を廃止」し、「農業競争力強化支援法により都道府県が有する種子生産に関する民間事業者への提供を促進」、さらに、「種苗法改正で育成者権を強化する」ということですから、この流れは種子のビジネス化の促進ということだ。ここにグローバル企業が入り、遺伝子組み換え種子やゲノム編集された種子が入ってくる恐れがあるし、正にそこにグローバル企業の儲けを求める狙いがある。
先に紹介した愛媛県今治市では、すでに平成18年に「食と農のまちづくり条例」の中で、有機農業の推進の項目で遺伝子組換え作物の栽培許可を厳格にし、違反した場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金まで課している。同様の条例が各地でつくられているが、それは市民の中から「遺伝子組み換えの食品は食べたくない」という強い世論があったからである。
資本の側も黙っているわけではない。「遺伝子組換えではない」表示ができる条件を「遺伝子組換えの混入率をこれまでの5%未満からEU並みの0.7%にしろ」という全国消費者連盟などの要求を逆手にとって、限りなく「混入率ゼロ」でなければ、「遺伝子組換えではない」という表示は使えなくなってしまった。もちろん、これに反対する署名活動なども取り組まれ、従来の5%未満であれば「適切に分別生産流通管理された」旨の表示が可能とはなった。
しかしゲノム編集は様相が異なる。アメリカや中国にゲノム編集研究の先を越された感が強い安倍政権はゲノム編集研究に大きく舵をきった。安倍政権は、2018年6月閣議決定した「統合イノベーション戦略」の中で、ゲノム編集技術で操作した生物の法的位置付けについて、厚生労働省と環境省が食品衛生法と生態系保全に関するカルタヘナ法での扱いを一気にまとめ、2019年9月解禁された。しかし遺伝子組換えとは異なり、企業は届け出だけでよく、安全性審査も表示義務もない。理由は従来の「自然界で起こる突然変異や、化学物質やガンマ線を使った従来の育種技術の変異」と変わらない、外来遺伝子を組み込まないので「種の壁」は超えないという説明だ。しかし、遺伝子組換情報室の河田昌東氏(月刊社民2019.5「ゲノム編集の今」参照)は、①DNA分解酵素による塩基配列の誤認が起きる(オフターゲット)、②細胞一個あたり挿入するゲノム編集酵素の量は、10万~1000万倍使い、これにより標的遺伝子は改変されるが、類似した遺伝子も破壊される、③一個の遺伝子が持つ多様な役割に未解明な部分が多い、④マーカー遺伝子(抗生物質耐性のDNAによって目的の遺伝子操作が完了したことを確認する遺伝子のこと)の問題。
遺伝子組み換えで消費者の大きな反撃をくらった政府は、ゲノム編集では「従来の変種と変わりない」「証明ができない」などと言い逃れをしているが、ニュージーランドやEUではゲノム編集について、訴訟が起こされ規制の対象へと変わっている。
3、気候変動を課題とした環境政策を運動の柱に
(1)本気度が試されている
資本と闘わない労働運動は社会民主主義の基盤とはなりえない。「新保守主義の政治では戦争は止められない、新保守主義の政治では格差は拡大するだけである、新保守主義の政治は気候変動を止められない」という、国内や世界の進歩的な皆さんと連帯し、環境や命そして人間の尊厳を犠牲にするグローバル企業とたたかう力こそが社会民主主義運動の基盤である。言い換えれば「賃労働と資本の関係」こそが我々の運動の基盤なのである。
ただ「批判をしているだけ」では、「暗い」と言われるご時世である。かつて社会主義は明確に「平等」という明るい未来を示していた。ならば今、社会民主主義が示せる明るい未来は何か?私のまわりで共通に使われている言葉は「子どもたちのどんな社会を残せるのか」である。言葉としては使われてないが、この中には「平和・自由・平等・共生」は含まれていると思う。
前章で食と農の問題を書いたが、これも気候変動に対する政策の対置と言っていい。スウェーデンのグレタさんの言葉を借りるまでもなく、温暖化ガスや窒素化合物・リン化合物を減らしていかなければ、地球は後戻りできないところまで来ているという地球環境問題は、グローバル企業を批判しているだけでは解決しない。気候変動や地球環境問題を自分事としてとらえ、子どもたちの未来のために「自分は何ができるのか」を考え実行することである。
種子ビジネスで世界を牛耳ろうとしているグローバル企業に対して、ローカルでそれに対抗する経済をつくることで「明るい未来」を表現しよう。「学校給食に有機農作物を」「トラムの走る街」「太陽光や小水力発電で自前の電気を」など。
これらは決して生易しいことではない。自分自身の生き方を変える覚悟が必要だ。有機農作物をつくったり購入する、マイカーを棄てる、電力会社の電力は使わない、そんな生活に変えることを目指す本気度が問われる。
今治市の市民農園は、農薬と化学肥料を使わないことが条件になっている。有機農作物をつくることの大変さを知ってもらうためだという。
(2)水道法の改正問題や地域公共交通で労働者と学習会を
もうひとつ、労働者をいかにこのグローバル企業とたたかう運動にかかわってもらうかだ。昨年松本水道労組が主催して、水道法改正に関連するビデオ上映会をやったところ、大勢の市民の皆さんが参加してくれて、当の水労の仲間が驚いていた。
当初からTPP関連法案として、水道事業の市場をグローバル企業に売り渡すものではないかという疑念を持っていた水道法の一部を改正する法律が2018年12月成立し、2019年年10月1日施行された。
松本市は、浄水場の管理や料金徴収業務を民間委託している。県水道や上田市水道も、フランスのヴェオリア社に浄水場の管理を委託している。小諸市は新たに民間企業に指定管理で水道事業を委託した。かなり前から水道の民営化の動きは始まっている。
しかし、今回の水道法の改正問題は、これまでの民間委託とは異なる。宮城県は県の上工下水道3事業をコンセッション方式で民間企業に運営権を売渡す条例を12月議会で可決した。
これから水道法の改正の問題点についての学習会を全県で行いたいと考えている。社民党の自治体議員、自治労、水労、食とみどり水を守る県民会議などで実行委員会をつくり、ビデオ上映と当該事業体の水道事業の状況についてまずは知ってもらう学習会だ。
地域公共交通については、2007年アルピコグループが、私的整理が行われた際、「乗って残そう公共交通」をスローガンに、シンポジウムに取り組んだ経過がある。いま、あらためて規制緩和の問題や環境問題から公共交通の課題について学習会に取り組みたい。
4、安倍政権を倒すために市民と野党の共闘の強化と政策づくりに全力をあげよう
野党が合流すれば安倍政権を倒すことができるわけではない。最近の選挙における投票率の低下を見ても、政治への関心は急速に薄れている。今、国民が最も求めていることは野党の数合わせではなく、野党共闘で政権をとるためにどんな政策を示すのかだ。政策づくりを含めた市民と野党の共闘に有権者・市民を大きく巻き込み、安倍政権を倒すために全力をあげる姿を示すことが今最も必要なことだ。
残念だが安倍政権は国民から一定の支持を得ていることを認めなければならない。「他に適当な人がいないから」という、マスコミの世論調査の回答を鵜呑みにしてはいけない。他に書きようがないからに過ぎない。
「死ぬまで自分は社民党でがんばった」でいいのだが、それよりも「死ぬまで子どもたちの未来のためにがんばった」の方がカッコイイ。