:『三国志(原題:Three kingdoms Resurrection of the Dragon)』
ダニエル・リー監督 09年2月14日公開
先日の『三国志』コラムふうレビューです。
文章としておもしろいものと、
ブログとしておもしろいものはまったく違うと思いますが、
なるべくカテゴリ「コラム」のときは、
文章として面白いものをあげてゆきたいと思っています。
……あう。
―あっさり味の武将ドラマ
腕を組み、右を向いた男の、左目からひたいにかけての影がうつむきがちの表情に憂いをたたえている。有楽町のシャンテ・シネから40分、映画の後に観るパブロ・ピカソのサルティンバンクは、アンディ・ラウ演じる趙雲が進軍する兵士を黙って見つめるまなざし、老境の趙雲に漂う悲壮感は、整ったかたちが生み出す独特の威厳を持つものとして互いに通じるものだ。アンディ・ラウは47歳だという。もう中年とも呼べる彼は、三国志の中でも時代の全てを生き抜いた趙雲と言う武将の半生を一人で乗り切ったのだった。
4月公開の『レッドクリフ Part2』を前にしてひっそりと公開されたダニエル・リーの『三国志』は、戦争と個人にテーマを絞りきれず揺れる『レッドクリフ~』に対し、趙雲という武将一人へと完全に視点を固定し、彼の一生をさらりと描く映画だ。『少林寺 怒りの鉄拳』の監督でもあり、本作でもアクション監督を務めるサモ・ハンやマギー・Qなど有名な俳優を使いつつも、粛々とした公開である。サモ・ハンを語り部に据え、時代の変化を彼の語りで押さえることで、趙雲という武将のエピソードの少なさを補いつつも、若年から老境への進行をスムーズに行い堅実なつくりだ。趙雲の性格を役者も監督もきちんと考えて作り上げているので、彼に合わせた周りのオリジナルキャラクター達が浮かず、一つのドラマとして機能していることが快い。
特にサモ・ハン。この小太りの、頬に垂れる肉に埋もれるどんぐり型の、スキの無い目をした俳優は、戦場でマギー・Qと向かい合ったときにアンディ・オンの後ろに隠れたり、目の挙動がいちいち不信でわかりやすい動揺を、たるんだシワでよく作りこんでいて、アンディ・ラウの淡々とした老境の傍にいるとひどくもどかしいのだが、ラウと二人年月を雪の中で語り合うのは似合っていてよい。三国志という物語にとらわれず、監督の感覚の上で無駄なものをさっぱりと省いた、すがすがしさがきわだつ。(798文字)
ダニエル・リー監督 09年2月14日公開
先日の『三国志』コラムふうレビューです。
文章としておもしろいものと、
ブログとしておもしろいものはまったく違うと思いますが、
なるべくカテゴリ「コラム」のときは、
文章として面白いものをあげてゆきたいと思っています。
……あう。
―あっさり味の武将ドラマ
腕を組み、右を向いた男の、左目からひたいにかけての影がうつむきがちの表情に憂いをたたえている。有楽町のシャンテ・シネから40分、映画の後に観るパブロ・ピカソのサルティンバンクは、アンディ・ラウ演じる趙雲が進軍する兵士を黙って見つめるまなざし、老境の趙雲に漂う悲壮感は、整ったかたちが生み出す独特の威厳を持つものとして互いに通じるものだ。アンディ・ラウは47歳だという。もう中年とも呼べる彼は、三国志の中でも時代の全てを生き抜いた趙雲と言う武将の半生を一人で乗り切ったのだった。
4月公開の『レッドクリフ Part2』を前にしてひっそりと公開されたダニエル・リーの『三国志』は、戦争と個人にテーマを絞りきれず揺れる『レッドクリフ~』に対し、趙雲という武将一人へと完全に視点を固定し、彼の一生をさらりと描く映画だ。『少林寺 怒りの鉄拳』の監督でもあり、本作でもアクション監督を務めるサモ・ハンやマギー・Qなど有名な俳優を使いつつも、粛々とした公開である。サモ・ハンを語り部に据え、時代の変化を彼の語りで押さえることで、趙雲という武将のエピソードの少なさを補いつつも、若年から老境への進行をスムーズに行い堅実なつくりだ。趙雲の性格を役者も監督もきちんと考えて作り上げているので、彼に合わせた周りのオリジナルキャラクター達が浮かず、一つのドラマとして機能していることが快い。
特にサモ・ハン。この小太りの、頬に垂れる肉に埋もれるどんぐり型の、スキの無い目をした俳優は、戦場でマギー・Qと向かい合ったときにアンディ・オンの後ろに隠れたり、目の挙動がいちいち不信でわかりやすい動揺を、たるんだシワでよく作りこんでいて、アンディ・ラウの淡々とした老境の傍にいるとひどくもどかしいのだが、ラウと二人年月を雪の中で語り合うのは似合っていてよい。三国志という物語にとらわれず、監督の感覚の上で無駄なものをさっぱりと省いた、すがすがしさがきわだつ。(798文字)