サッチャリズムに象徴される民営化で、小さな政府を目指してきたイギリスが、民営化した事業の再公営化に舵をきっています。フランスのパリ市が民営化した水道を再公営化するなど、世界では、民営化の失敗から、再公営化の流れが既に始まっています。
一方の我が国は、本国会で、地方議会の議決なく民営化できるよう、PFI法を改正しようとしているなど、民営化をさらに加速させようとしています。
こうした日本の状況は、世界が民営化の失敗に気付き、再公営化している流れからみれば、何週も遅れて、その失敗を繰り返そうとしているように見えます。
第一回定例会の一般質問で、公共サービスの民営化により、行政に株式会社の参入を許したことで、どのような影響が出てきているのか、について問題提起しました。
【2000年に許された、社会保障分野への営利企業参入】
それまで、行政と、社会福祉法人、学校法人、など非営利法人が担ってきた子育てや介護などの社会保障ですが、2000年に営利目的である株式会社という営利企業の参入が許されるようになりました。
認可保育園への株式会社の参入による民営化は、ここにきて、目に見える形での心配や影響が出始めています。
【集まらない幼稚園教諭】
今年の私立幼稚園の新年会で、幼稚園の先生が集まらなくて、園を継続できないかも知れず、大変に困っているというお話をうかがい、大変なことが起きている、と思いました。
非営利団体の幼稚園は、運営を存続できなければ、資産を国庫に没収されることになりかねないからです。
【日本の社会保障を支えてきた非営利法人】
戦後復興のなか、国は、財源不足もあり、公だけでなく、非営利法人と呼ばれる学校法人、社会福祉法人、医療法人などの力も借りながら、教育や福祉や医療などを整備してきました。
【非営利とは】
誰もが生きていくうえで欠かせない子育てや介護や教育や医療などを担う法人は、そこで、個人の利益や資産を得てはならないという原則から、「剰余金の分配」や「解散の際の持ち分」「残余財産の取り扱い」など厳しい制限をかけ、非営利を原則に担われてきました。
株式会社は、売り上げから人件費などの費用を差し引いた税引き後の利益を株主に配当する、つまり利益をあげることが法人の目的ですが、たとえば、幼稚園を運営する学校法人の場合、たとえ剰余金という利益がでても理事などで分配してはならず、教育など法人の目的に使うよう制限をかけられています。
また、株式会社が事業をやめて、解散する場合、残余財産(資産)が残れば、株主で分配することができますが、学校法人の場合、これも許されず、他の学校法人など教育事業を行う法人のものになるか、それでも処分されない財産は、国のものになってしまいます。
国庫に没収されるかもしれないというのは、こういう縛りがあるからです。
最近できた一般社団法人などは、剰余金の分配ができないため非営利と呼ばれることがありますが、解散後の残余財産は、総会で社員に分配することが可能です。
戦後日本の教育や社会保障などを担ってきた非営利法人は、厳しい縛りの下で地域の教育や福祉を担ってきているのです。
学校法人や社会福祉法人などが私財をなげうってと言われることがあるのは、こうした縛りの中で教育や福祉を担ってきたからです。
補助金で作った株式会社の保育園は、株主のものですが、学校法人の幼稚園や社会福祉法人の特別養護老人ホームは、社会インフラと呼ぶべき地域の財産で、大きな違いがあります。
【競合関係にある幼稚園、保育園】
こうした違いのある非営利の幼稚園と営利の保育園ですが、就労のために認可保育園を選ぶ家庭が増えていて、幼稚園は保育園と競合し競争する状況にあります。幼稚園の先生が集まらないのも、保育園の方が給料が良いので保育園にとられてしまうからです。
【大田区が事業者に支払う保育士給与相当額は454万円】
こうした競合関係にある幼稚園と認可保育園ですが、大田区は、保育園には正規保育士一人454万円で雇えるだけの単価で算定されている公定価格と呼ばれる補助金を支払っています。
【低賃金は支払わない事業者の問題、それでも補助する、国・大田区】
ところが、補助金を受けている認可保育園の中に、保育士に十分な給与を支払わない事業者があるため社会問題になっています。
保育士の低賃金は、支給された手厚い補助金から適正な賃金を支払わない事業者の問題ですが、国はここに、処遇改善費用と呼ばれる上乗せ支給を行い、さらに大田区では、家賃補助、加えて保育士応援手当として月1万円を保育士に直接振り込んでいます。
【競争して価格は下がり、サービス向上すると言った民営化はどこに?】
いま、民間保育園に国や大田区が行っている財政支援や給与補助は、市場経済にゆだねて競争させることで価格がさがり、サービスが向上すると説明していた民営化でしょうか。
【民営化と補助金で幼児教育市場は株式会社に?】
これでは、まるで、幼稚園と保育園を競合させ、国が補助金で株式会社に幼児教育市場を独占させようとしていて、それに大田区も加担しているように見えます。
保育園が選ばれる背景には、高まる女性の就労意欲や、子育て中も働かないと生活できない賃金、高い学費、老後の不安など、政治が決めてきた予算や制度が影響している部分も少なくありません。
しかし、私は、それだけでなく、民営化で株式会社が認可保育園に参入したこと、加えて国の施策も大きく関係していると考えています。たとえば、保育に欠ける、ではなく理由を問わず入園できるようにしたことも、幼稚園と認可保育園を競合させることになっています。
区立保育園だけであれば区立幼稚園を廃園したように、定員を調整することで、幼稚園とのすみ分けをすることも可能ですが、民間保育園の定員を大田区が減らすことは困難です。しかも、大田区が認証保育所の保育料を補助し、負担が軽くなったことで、幼稚園は認証保育所とも競合しています。
認可保育園には社会福祉法人があるではないかというご指摘もあるかもしれませんが、国は社会福祉法人改革で余剰利益の使い道まで定め、地域貢献で吐き出させようとしていますから、社会福祉法人の保育園も不安要因があります。
区長は、こうした幼稚園と保育園の状況を知りうる立場にあって、私立幼稚園を守ると言っています。
それでは、これは、保育園のように幼稚園の先生に給与補助すれば済む問題でしょうか。
私は、課題も無いとは言えませんが、学校法人、社会福祉法人、医療法人など、元来の非営利法人が教育や福祉や医療に果たしてきた意義は大きいと考えています。
そこでうかがいます。
大田区はどのように幼稚園を守るのでしょうか。