ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

円高に思うこと

2010-09-09 17:22:00 | 経済・金融・税制
円高って災いなのか?。

物心ついた頃は、一ドル360円の固定相場であり、海外旅行は夢の又夢。たしか国外に持ち出せる通貨も制限されていたと思う。

ところがアメリカが西ドイツと日本からの輸入超過に悩み、ドル相場を変動制にした。安い円による輸出メリットに安住していた日本は驚き、慌てふためいた。

当時の大蔵省及び日銀は、輸出振興政策を長年続けていたため、輸出を鈍化させる円高への不安は大きく、産業界の意向を受けた自民党の働きかけもあり、大幅な円売り、ドル買いに走った。

多額の国費が投じられたが、円高の流れは止めることが出来ず、ついには1ドル180円とかつての半値になる始末であった。つまり、円安への誘導は失敗した。

しかし、政府というか、エリート官僚たちは自らの失敗を決して認めない。円高は日本経済が成長した証である以上、不可避なものだが、それを留めようとした愚行を賛美する有様であった。

日本のエリート官僚たちには、市場経済不信のようなものがあり、自らの判断で市場を操作することに魅力を感じているようだ。日本が世界で唯一社会主義に成功したと云われる所以でもある。

しかし、この為替操作の失敗は大蔵省及び日銀のトラウマになった。後年、退職したエリート官僚たちの書いたものを読むと、当時でさえ既に為替相場へ国費を投じての円安誘導には否定的な意見もあったようだ。

さりとて自らの失敗を公表するわけにもいかない。失敗を認めないことで、国家の権威を守るという言い訳に逃げ込んだ。だが、投じられた多くの国費が無駄になった現実は動かない。

本来、もっと論じられるべき問題であったようだが、失敗を認めない官僚たちはだんまりを決め込んだ。この場合、記者クラブで官庁とナアナアの関係にある大手マスメディアも追随するので、問題自体が取り上げら得る機会を喪失した。

円高の動きは、その後も止まらず85年のプラザ合意以降、更なる円高に日本経済は襲われた。円高不況という言葉が盛んに使われるようになったことは、当時大学生だった私もよく覚えている。

で、本当に円高は不況を起したのか?

たしかに輸出産業は大きなダメージを被った。それは事実だ。しかし、今だから分るが、日本経済全体でみれば、むしろ円高は日本経済を活発化させた。

輸出ではなく輸入、それも内需振興がさかんに言われだしたのもこの頃だ。当時、中曽根首相がさかんに煽っていたことを記憶の方も多いと思う。

日本は貿易立国だ。原材料を海外から輸入して、それに付加価値をつけて輸出する。これが明治以来の伝統的産業成長策の根幹であった。だから輸出にダメージを与える円高が忌避されるのは分る。

しかし、かつての貧困国を遥か昔に脱し、国内に巨大な市場を持つ日本は、もはや発展途上国ではない。輸入された資材は、輸出のために加工されるだけではない。むしろ、国内において大量に費消されている。だから、膨大な輸入差益を円高がもたらしたのも、間違いない事実なのだ。

この利益が蓄積されて後のバブル経済を花開かせる苗床になったことは、バブル崩壊以降に識者から指摘されている。バブル経済の問題は、蓄積された資本が株と不動産に過度に集中して投資されたことだ。

さて、現在一ドル80円台前半であり、輸出産業は再び悲鳴をあげている。マスコミは盛んに政府の無為無策を批難している。はたして再び円高不況が日本を襲うのか?

かつて円安誘導に失敗した政府は、この問題には手を出したがらない。協調介入が出来れば、円安も可能だろうが、各国ともに否定的だ。外堀は埋まっている。

一方、トヨタをはじめ輸出企業では、円高による為替差損が確実に利益を貪っている。既に下請け企業では、これ以上の原価引き下げは望めない。さあ、円高不況の始まりだぁ~

・・・そうではあるまい。輸入を柱に据えている企業では、膨大な為替差益が出ている。忘れちゃいけないのだが、日本は巨大な輸入大国でもある。事実、私が知っている中小企業でさえ、この円高でかなりの利益を出している。

70年代のドル相場の自由化、85年のプラザ合意による円高の時もそうだった。円高で損をした連中は大声で、その損害を宣伝したものだ。一方、膨大な差益を手にした連中は黙って金を蓄えることに傾唐オた。

おそらく、今回も過去に倣うと思う。トラウマを抱えた政府は、なにもしないでやり過ごす。輸出は奮わないだろうが、輸入は大儲けだ。ただ、この儲けが前回のように株と不動産に流れ込むかどうかは不明だ。

株屋と不動産屋は金遣いが荒い。だから儲かれば、すぐ使う。だが大半の輸入関連企業は控えめだ。しかも、なかなか値下げをしてくれない。ガソリンや輸入食糧品なんて、明らかに輸入原価が下がっている以上、値下げも可能なはずだが、まだ一部でしか値下げはない。だから庶民には円高好況なんて、実感がわかない。

それでも、円高は確実に内需を賑わせると思う。まだ雇用人口は増えているようにみえないが、実質賃金には若干上昇が見受けられる。

冷静に考えれば、自国の通貨の評価が高いことは決して悪いことではない。むしろ低すぎて悩む国より遥かに幸せだと云える。ただ日本の場合、輸出主導型に慣れすぎて、内需振興型に対応しきれていないのだろう。実際には、先進国中輸出依存度が最も低いはずなのですがね。

人間、過去の成功経験から脱却することは難しい。ここは過去に縛られにくい若い世代の頑張りに期待したいものです。
コメント
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